導入方法論、HI-KORT C、新技術、AI活用までを見据えた4つのテーマ
前回の記事では、コベルコシステムがSAP Cloud ERPのPublic Cloud版、いわゆる「パブクラ」に本格的に取り組む理由についてご紹介しました。
製造業のERP刷新では、本社の基幹システムだけでなく、国内外の子会社や海外拠点を含めて、業務とデータをどう整えるかが重要になっています。
また、SAPのクラウドシフトやクリーンコアへの対応、継続的な機能アップデート、将来のデータ活用やAI活用を見据えると、従来と同じ考え方だけでERP導入を進めることは難しくなりつつあります。
コベルコシステムでは、数年前からSAP Public Cloud版の可能性について検討を進めてきました。当初は限定的な検証から始まりましたが、市場環境の変化やSAPの方針、そしてお客様により時代に即した選択肢を提供する必要性を踏まえ、取り組みを本格化しています。
本稿では、製造業向けSAP Public Cloud版導入に向けて、コベルコシステムがどのようなテーマで整理・検証を進めているのか、その全体像をご紹介します。
SAP Public Cloud版への取り組みを本格化する背景
これまでコベルコシステムは、製造業のお客様を中心にSAP導入を支援してきました。その中で培ってきた業務理解や導入ノウハウは、現在のERP刷新においても重要な強みです。
一方で、ERPを取り巻く環境は大きく変わっています。
従来は、自社業務に合わせてシステムを作り込むことが重視される場面も多くありました。しかし、SAP Public Cloud版では、標準機能を起点に業務を見直すFit-to-Standardの考え方が重要になります。
また、Public Cloud版では、継続的なアップデートを前提に運用していく必要があります。追加開発や拡張についても、従来のようにERP本体へ作り込むのではなく、標準機能、In-App拡張、BTP、周辺システム開発をどのように使い分けるかを考える必要があります。
さらに、将来のAI活用やデータ利活用を見据える場合には、業務プロセス、マスタ、トランザクションデータ、周辺システム連携をあらかじめ整理しておくことが重要です。
こうした背景を踏まえ、コベルコシステムでは、製造業向けSAP Public Cloud版導入を現実的に進めるための取り組みを強化しています。
4つのテーマで取り組みを進める
コベルコシステムでは、製造業向けSAP Public Cloud版導入に向けて、主に以下の4つのテーマで整理・検証を進めています。
- 独自の導入方法論を整備する
- パブクラ版の製造業向けアセット「HI-KORT C」を整備する
- In-App拡張、BTP、Integration Suiteなどの新技術を検証する
- JouleやカスタムAIを含むAI活用による差別化を検討する
これらは、それぞれ独立したテーマであると同時に、相互に関係しています。
たとえば、導入方法論を整備するには、導入初期に確認すべき業務プロセスやスコープ、Fit-to-Standardの進め方を整理する必要があります。その内容は、HI-KORT Cのアセットとしても活用されます。
また、Public Cloud版で標準機能だけでは対応しきれない領域については、In-App拡張、BTP、Integration Suiteなどの活用方針を整理する必要があります。さらに、AI活用を見据える場合には、業務データや周辺システム連携の設計も重要になります。
つまり、SAP Public Cloud版導入を製造業で進めるには、単にERP製品を導入するだけではなく、方法論、アセット、拡張技術、AI活用を一体で検討する必要があります。
1. 独自の導入方法論を整備する
1つ目のテーマは、SAP Cloud ERP導入方法論の整備です。
SAP Public Cloud版導入では、SAP Activateをベースにプロジェクトを進めることになります。一方で、製造業のお客様に対して実際に導入を進めるには、各フェーズで何を確認し、どの資料を使い、どのように判断していくのかを具体化する必要があります。
コベルコシステムでは、KSC版Activate準拠テンプレートとして、導入方法論の整備を進めています。
具体的には、全体概要資料や各フェーズ別の手引き、DDA実施、スターターシステム構築、構想フェーズ、準備フェーズ、評価フェーズ以降の進め方など、導入プロジェクトで必要となる資料の整備を進めています。
この取り組みの目的は、プロジェクトごとに進め方が属人的にならないようにすることです。
導入初期から、どのタイミングで何を確認すべきか、どの論点を整理すべきか、どの成果物を作成すべきかを明確にすることで、SAP Public Cloud版導入をより安定して進められるようにします
今後の記事では、この導入方法論について、KSC版Activate準拠テンプレートや各フェーズで確認すべき論点を詳しくご紹介していく予定です。
2. 製造業向けアセット「HI-KORT C」を整備する
2つ目のテーマは、SAP Public Cloud版導入に対応した製造業向けアセット「HI-KORT C」の整備です。
HI-KORT Cは、従来のHI-KORTで培ってきた製造業向けSAP導入の知見を、Public Cloud版導入に合わせて再構成する製造業向けアセットです。
Public Cloud版では、標準機能を起点に業務を見直すことが重要です。一方で、製造業の業務はERPだけで完結するわけではありません。販売、購買、生産、在庫、原価、設計、保守などの業務が広くつながり、PLMシステム、MESなど製造業でよく活用される業務システムなどの周辺システムとの役割分担も必要になります。
そのため、HI-KORT Cでは、導入初期に確認すべき業務プロセス、想定スコープ、Fit-to-Standardの確認観点、利用機能、周辺システムとの役割分担、拡張方針などを整理していきます。
また、導入時に必要となる資料として、想定スコープアイテム一覧、ビジネスプロセスフローなど主要業務関わる内容や使用Fiori一覧、コード体系定義書、移行関連資料など導入に必要な付属資料の整備も重要になります。
進化し続ける「HI-KORT C」を目指し、今後の記事では、HI-KORT Cの位置づけや、製造業向けアセットとしてどのような論点を整理しているのかをご紹介していく予定です。
3. In-App拡張、BTP、Integration Suiteなどの新技術を検証する
3つ目のテーマは、新技術への対応です。
SAP Public Cloud版では、従来のオンプレミス版やPrivate Cloud版と比べて、拡張や連携の考え方が変わります。
重要なのは、追加開発を行うかどうかではなく、どこまでを標準機能で対応し、どこをIn-App拡張で補い、どこからをBTPや周辺システム側で実現するかを切り分けることです。
In-App拡張は、標準機能との整合性を保ちながら、画面項目の追加、フォームの調整、簡易的なロジック追加などを行う拡張手段です。
一方、SAP Business Technology Platform、いわゆるBTPは、ERP本体の外側でアプリケーション開発、ワークフロー、データ連携、外部システム統合などを行うための基盤として活用されます。
また、Integration Suiteを活用することで、SAP Public Cloud版と周辺システム、外部サービス、分析基盤などを連携するための仕組みを検討できます。
コベルコシステムでは、In-App拡張、BTPでのSide-by-Side開発、Integration Suiteなどについて、技術検証や設計方針、見積基準、開発ルール、技術要素も多いためパートナーシップを含めた整理を進めています。
この取り組みは、SAP Public Cloud版導入において、標準機能だけでは対応しきれない領域をどのように補うかを判断するために重要です。
今後の記事では、In-App拡張、BTP、Integration Suiteなどの検証内容や、製造業向けSAP Public Cloud版導入における使い分けの考え方をご紹介していく予定です。
4. AI活用による差別化を検討する
4つ目のテーマは、AI活用による差別化です。
製造業でも、需要予測、在庫最適化、問い合わせ対応、業務支援、経営分析など、AI活用が期待される領域は広がっています。
ただし、AI活用はERP導入とは別のテーマとして切り離して考えるものではありません。業務プロセス、マスタ、トランザクションデータ、周辺システム連携が整理されているかどうかが、AI活用の現実性に大きく関わります。
コベルコシステムでは、SAPにおけるAI活用であるJouleや、標準AI、カスタムAI、Joule Studioなどの技術動向を踏まえながら、製造業向けの活用可能性を検証しています。
たとえば、SAPの標準AI機能をどの業務で活用できるのか。
業種別・業務別にどのようなAIシナリオが考えられるのか。
カスタムAIやエージェントを活用することで、どのような業務支援が可能になるのか。
こうした観点を整理しながら、SAP Public Cloud版導入の先にあるAI活用の可能性を検討しています。
重要なのは、AIを単独の機能として扱うのではなく、ERP導入、業務プロセス、データ連携、周辺システムとの関係の中で捉えることです。
今後の記事では、JouleやカスタムAIを含むAI活用について、検証テーマや製造業向けユースケースの考え方をご紹介していく予定です。
第3弾以降では、各テーマを個別に深掘りしていきます
本稿では、製造業向けSAP Public Cloud版導入に向けて、コベルコシステムが取り組んでいる4つのテーマをご紹介しました。
今後の記事では、それぞれのテーマを個別に取り上げ、具体的な検討内容や進捗をご紹介していく予定です。
まず、第3弾では「SAP Cloud ERP導入方法論の整備」をテーマに、KSC版Activate準拠テンプレートや、導入初期に確認すべき論点についてご紹介する予定です。
その後、HI-KORT C、新技術、AI活用といったテーマについても、順次取り上げていきます。
SAP Public Cloud版導入を製造業で現実的に進めるには、標準機能を起点に業務を見直すだけでなく、導入方法論、業務プロセス、周辺システム連携、拡張方式、データ活用、AI活用、運用対応まで含めて検討する必要があります。
コベルコシステムでは、これまで製造業向けSAP導入で培ってきた知見を活かしながら、SAP Public Cloud版導入に向けた方法論とアセットの整備、新技術の検証、AI活用の検討を進めています。
製造業のお客様がSAP Public Cloud版導入を検討する際に、必要となる論点を整理し、導入初期から判断しやすい情報を提供できるよう、今後も取り組みを進めていきます。






















