はじめに

近頃、SAP ERPを長年利用されているお客様から、アーカイブの相談を受ける機会が増えてきました。これまでのアーカイブの主な目的は、「データ量の増加に伴ってディスク容量が逼迫してきた」、「システム全体のパフォーマンスが悪化してきた」等の理由で、データ量を削減したいということでした。
しかし、最近はSAP S/4HANAへの移行をBrownField(※1)で検討しているお客様から相談が増えています。SAP ECC(2027年にサポート終了予定の旧バージョン)のデータ量をそのまま移行すると、S/4HANAでは大量のメモリが必要となります。サーバーの運用コストが高くなることを避けるため、古いデータをアーカイブしてS/4HANAをスリムに稼働させたいという理由からです。

ただ、アーカイブの検討をお客様と進めていくと、単純なデータ削除ではないことから、様々な課題が発生します。そんなアーカイブについて、どんなところが大変なのかポイントを整理していますので、検討を進める上で参考にしていただければと思います。

データオブジェクトの選定

まず、アーカイブの最初のタスクとして、アーカイブオブジェクト(アーカイブの対象データ)の選定からスタートします。SAP ERPでは500種類以上のオブジェクトが既に用意されており、その中からデータ削減の効果が大きいオブジェクトを選択します。
ただし、単純にオブジェクトを決めることはできません。SAP ERPのアーカイブは、伝票のデータフローに基づいた順序を考慮することが求められます。
例えば、『受注→出荷→請求』のように関連しているデータは、後続の伝票『請求→出荷→受注』の順番でアーカイブしなければなりません。多岐に渡って関連しているオブジェクトの場合、まず先に関連伝票をアーカイブしないと、目的の伝票をアーカイブできないケースがあり、芋づる式に対象が増えることがあります。
対象が増えるとプロジェクトの工数増、コスト増に繋ってしまいますので、オブジェクトの選定が非常に重要となります。

費用対効果の見極め

アーカイブオブジェクトを決めたら、次にテスト環境で検証を進めていきます。アーカイブの選択条件(期間、組織、伝票タイプなど)を指定して、効果を検証していきますが、想定通りにならないデータが出てきます。アーカイブ対象には伝票ステータスが「完了」していることなどの様々な条件があり、業務的には完了している伝票であっても、システム的には「未完了」であれば、アーカイブ対象になりません。
対象にならないデータが多いと、思ったほどの効果が表れず、費用対効果が小さくなってしまいます。この検証フェーズでは、データ量削減の目標に達しているか、効果を見極めることが重要です。

システム全体への影響確認

最後にポイントとなるのは、アーカイブによるシステム全体の影響確認です。
アーカイブシステムは、SAP ERPの標準機能に対して影響がないように設計されます。しかし、アドオンプログラムは、アーカイブを考慮した設計にはなっていないケースがあり、影響を受けることがあります。極端な例ですが、『受注→出荷→請求』と関連したデータがある場合に、出荷と請求をアーカイブすると、受注だけが残ってしまいますので、受注残レポートの対象になってしまう問題が過去にありました。
これは明らかにプログラムロジックの問題ですが、こうしたロジックがないかテストで確認していくことが重要になります。この検証作業は、お客様にも協力していただく、とても手間のかかる作業になります。

また、アドオンが少ないお客様であっても、周辺システムとの連携で影響を受けるケースがあります。SAP ERPのデータはアーカイブされているのに、周辺システムではデータが残っているとデータ不整合が発生します。周辺システムのデータもアーカイブの対象にするかどうかは、システム間の連携内容によって判断していかなければなりません。

おわりに

上記の内容が重要なポイントとなりますが、まだまだ考慮すべきポイントはあります。難しい作業ではありますが、アーカイブ設計、検証、運用を確実に実施することで、アーカイブの目標(削減量)を達成し、大きな効果を発揮されているお客様が多数いらっしゃいます。

当社では、アーカイブの豊富な実績がありますので、データアーカイブを検討される際は、コベルコシステムへぜひご相談ください。

(※1)BrownField:既存のECC環境上にあるすべてのカスタマイズ及びデータを移行する方法