最近、SAP導入の方針についてよく耳にするのが「Fit to Standard」というフレーズです。しかし、この考え方は実は昔からあるものであり、私たちの会社では20年前から「テンプレートアプローチ」という言い方をしてきました。

今回は、SAP導入の歴史を振り返りながら、そのアプローチについて説明します。私たちの実績から得た結果を元に、特定の企業やプロジェクトについてではなく、広く分析した結果をお伝えします

1990年代:Y2K問題(※)を背景に、ERPパッケージの導入が大企業で盛んになる

当時は多くの企業やベンダーが、ERPパッケージの本質を理解せず、ただ2000年を前にシステム導入を急いでいました。「現行システムの焼き直し、現行踏襲」の方針でプロジェクトが進み、その結果、アドオンプログラム主体のシステムができあがり、SAP標準機能がどこに使われているのかわからないような巨大なシステムが構築されました。
※ ご存知ない方は、Wikipediaを参照してみてください。

2000年代:中堅企業でもERP導入が始まる

90年代には大企業を中心にERP導入が盛んに行われ、そのノウハウをテンプレート化して中堅企業への短期間導入が流行しました。ERPは大企業だけの仕組みではなく、中堅企業でも標準機能を中心に導入が進みました。経営者自らが先頭に立ち、ERP導入プロジェクトを指揮し、アドオンを最小限にとどめることで、成功事例が増えました。

一方、Y2K問題を凌いだ大企業もBPRの流れに乗り、ERP導入が進みました。アドオンは減る傾向にはないものの、標準トランザクションを用いて会計まで連携するケースが増えてきました。ERPを前提としないBPRは、システム導入の局面でGAPが多く、結果としてアドオンが増える傾向にありました。

2010年代:リーマンショック後、プロジェクト予算削減もあり、アドオンは「悪」とされる風潮へ

大型ERPプロジェクトの成功事例は増えつつあるものの、失敗や予算オーバーのプロジェクトが後を絶ちません。大きな原因の1つは、アドオン開発です。開発工数はもちろん、テスト工数やその後の保守にもコストがかかります。
アドオンには、他システム連携のためのプログラムと、足りない機能そのものを補うプログラムの2つの種類があります。前者はやむを得ない場合もありますが、問題は後者のアドオンが高いリスクを持つことです。要件定義時に例外業務プロセスなどの洗い出しが不十分だと、後続のアドオン開発で追加/変更が頻発し、手戻りによりコストが膨らむ傾向があります。

このような背景から、弊社ではテンプレートアプローチを推進してきました。テンプレートアプローチとは、標準機能を最大限活用し、業務プロセスをシステムに合わせることです。しかし、業務ユーザーからは「なぜ業務をシステムに合わせる必要があるのか」という意見もありました。こうした場合、現場のユーザーを説得するには、お客様トップ層からのメッセージが重要でした。また、我々導入ベンダー側は、業務視点での会話ができるように更に改善する必要がありました。

2020年代:経営トップから「Fit to Standard」の掛け声

ERP導入が2巡目となるお客様が増えてきたことから、経営トップの理解も進み、「Fit to Standard」の掛け声でプロジェクトを推進するケースが増えてきました。「世の中のスタンダードに合わせろ!」という言葉は良い響きがしますが、「テンプレートに業務を合わせろ!」と言われると、反発したくなるのも分かります。

結局、導入ベンダー側の意識はあまり変わらず、テンプレートをベースに導入をするのですが、お客様の理解が進んだことは追い風となっています。DXキーワードも後押しし、日本がグローバルで勝つためには、記録システム(SOR)領域で差別化するのではなく、それをベースとした革新的な仕組み(SOE)を強みとして勝つ必要があります。

差別化領域はERPとは別領域で作るべきであり、記録システム=基幹システムであるERPはスタンダードに合わせるべきです。この割り切りが明確になってきました。

最後に、今後加速するであろうパブリッククラウドERPの導入アプローチでは、ITベンダーが「どのように導入しようか?」を考えるのではなく、お客様が「どのように使えるか?」を考えるようリードする力が必要になってきます。

コベルコシステムは1995年よりERPビジネスを展開しており、多くの苦労を重ねてきました。そのノウハウを余すことなくお客様に還元し、貢献していきたいと思っています。誤解を恐れずに記載しましたが、少なくとも弊社SAPビジネスの歴史を振り返り、反省の念を込めて記載しました。