昨年6月、SAPドイツ本社ワルドルフツアーに参加したメンバーから、衝撃のレポートがもたらされました。

     
  • GROW=新規顧客向けのジャーニー=パブリック(SAP Cloud ERP)
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  • RISE=既存顧客向けジャーニー=パブリック(SAP Cloud ERP) or プライベート(SAP Cloud ERP Private)」
  • これまでは単に製品名であり、手段の選択肢だったはずのGROW/RISEが、SAP社の新たな方針に昇華され、我々パートナーにも鮮烈に示された格好となりました。

    もちろんこれまでも、パブクラの存在は意識していましたし、実際に昨年からは当社としてのファーストアダプト案件も本格開始となるなど、プライベートに並ぶもう1つの柱としていくべく、少しずつ動き始めてはいました。ただ、基幹システムのど真ん中であり、各社各様の象徴・権化ともいえるERPシステムに、パブクラという代物はやはり性格的に合わないのでは、これが主流・スタンダードにはなりえないのではと、どこか懐疑的で及び腰な部分もありました。

    そうした煮え切らない我々のような存在を意識してか、今回の方針発表には、SAP社の強い覚悟のようなものが感じられ、まるで幕末に黒船が来航し、開国を強行に迫ってきた、そんな印象すら受けています。

    さて、ここまでパブクラシフトを脅威と捉えるのは、上述のERPシステムとしての性格的な側面だけでなく、我々SAP SIerの事情・本音も深く関係しています。

    ご存じのとおり、パブクラ版ERPは、これまでのオンプレ版やプライベートクラウド版とは似て非なるものであり、SAPベストプラクティス準拠、Fiori準拠、新拡張方式準拠、専用導入方法論(Activate)準拠、システム環境準拠など、新たなルール・制約下での振る舞いが求められます。結果、これまでのSAP導入で培ってきた知識・ノウハウ・資産たちだけでは通用しないうことを意味しており、リスキリング、新たなパートナー開拓、テンプレートの再構築、といった重たい課題に直面することになります。また、パブクラと表裏一体の関係といえる”Fit to Standard”や”Clean Core”のコンセプトは、見方を変えれば、ERP部分での独自性を極力排していくことに他ならず、例えば従来の”アドオン開発に強い”といった要素はもはや強みではなくなり、コモディティ化がより一層加速すると予想されます。さらに言えば、これまでは、SAP製品自体はパッケージシステムでありながらも、導入プロジェクトの実態はスクラッチ開発に似通る部分が多い、つまり”人月商売”の色合いが大なり小なりあったのに対し、”TCO低減・短期導入”の導入を大前提とするパブクラにおいては、こうした従来の収益・コスト構造の抜本的な見直しにも迫られます。

    以上のような我々サイドの事情も、”鎖国”(=パブクラに及び腰)の要因にあったことは間違いなく、ゆえに、そんな我々に警鐘を鳴らすかのごとき”黒船来航”(=SAP社のパブクラシフト方針)は衝撃であり、脅威となったわけです。

    ただ、世の中全体のSaaS化やAIの潮流を踏まえても、これは迎えるべくして迎えた事態であり、むしろ我々の変化・変革の良き機会と捉え、果敢にチャレンジしていかなければならいと考えます。

    私は当社に入社依頼、20年以上このSAPビジネスに従事してきました。この間、SAPは、会社としても、製品・サービスとしても成長・進歩を続け、いちERPの製品ベンダーから、今や世界を代表し牽引する、GAFAMと肩を並べるスケールの会社となりました。対して我々SAP SIerは、ある時期から完全にその成長速度や広がりに追い付けなくなり、気づけばいつしか、SAP社からすればもはや”枯れた”技術を主戦場に、”旧態依然”としたやり方を続けていた感は否めません。もちろん、需給の関係があってのビジネスですから、一概にこれまでを否定するものではありませんが、特に日本におけるこうしたガラパゴス化は、お客様が目指される真のデジタル化やDXを少なからず阻害してきていたのかもしれません。パブクラへのチャレンジは、まさにこのガラパゴスから脱却し、SAP SIer業界として新たな姿に変革していく大きなきっかけになると信じています。

    また、個人のレベルでも、市場価値を高めるチャンスだと言えます。単なるS/4のパラメータ設定を知っているだけのモジュールコンサルや、ただ設計書のとおりにClassic ABAPでコーディングするだけのプログラマは、ただでさえ既にコモディティ化していますが、パブクラ版ERPが主流となれば、価値が下がるどころか、もはや戦力ですらなくなります。逆に、SoR+SoEを組み合わせたソリューショニングができるコンサル、AIを利活用して新たな発想でビジネス・業務設計ができるコンサル、BTPなどのSide by Sideも駆使してクリーンコアな拡張を実現できる開発者、といった今までにない存在、言い換えると、パブクラ版ERPに付加価値や差別化もたらすことのできる人材は、従前のいわゆる”SAP技術者”よりも、遥かに高い価値で市場・お客様に認められることは間違いありません。

    繰り返しになりますが、黒船来航、つまりパブクラシフトは、ピンチであり、チャンスでもあります。

    詳細はまだ明かせませんが、当社もこのパブクラビジネスに本格かつ果敢にチャレンジしていくために、新たな事業戦略を急ピッチで立案中です。ビジネスとして早期に立ち上げ足場を固めながら、当社の個性や強みも打ち出しつつ、パブクラにおいても、お客様に信頼される確固たる存在(Trusted Partner)であり続けることを目指しています。ぜひ今後も当社にご期待ください。