本社・子会社・海外拠点を見据えた製造業ERP刷新の新しい選択肢

製造業のERP刷新を取り巻く環境は、大きく変わりつつあります。

これまでERP導入では、自社の業務要件に合わせてシステムを作り込む考え方が一般的でした。既存業務をどこまで再現できるか、必要な機能をどこまで追加できるかが、導入検討の中心になることも少なくありませんでした。

一方で近年は、クラウド活用、業務標準化、継続的な機能進化、データ利活用、AI活用といったテーマが、基幹システムの検討においても避けて通れなくなっています。

さらに製造業では、本社の基幹システムだけでなく、国内外の子会社や海外拠点を含めて、業務とデータをどう整えるかが重要になっています。

日本本社としては、グループ全体の業務標準化やガバナンス強化を進めたい。

一方で、子会社や海外拠点では、本社と同じ規模・同じ進め方でERPを導入することが難しい場合もあります。

こうした状況の中で、SAP Cloud ERPのPublic Cloud型、いわゆる「パブクラ」は、製造業のERP刷新においても重要な選択肢になりつつあります。

コベルコシステムでは、これまで製造業のお客様を中心にSAP導入を支援してきました。今後はその知見を活かしながら、SAP Public Cloud型の導入に本格的に取り組んでいきます。

本稿では、なぜ今Public Cloud型に向き合うのか、従来のSAP導入と何が変わるのか、そして製造業グループにおいてどのような活用可能性があるのかを整理します。

製造業のERP刷新は、本社だけの話ではなくなっている

製造業のERP刷新では、本社の基幹システムだけを見ればよいわけではありません。

多くの製造業では、国内外に子会社、工場、販売会社、サービス拠点などを持っています。それぞれの拠点で業務の進め方や利用システムが異なり、データの粒度や管理方法もばらついていることがあります。

日本本社では、グループ全体の業務状況を把握したい。

海外拠点では、現地の業務に合わせながらも、本社方針に沿った基幹システムを整えたい。
子会社では、過度に重たい仕組みではなく、必要な範囲から基幹業務を標準化したい。

このようなニーズは、製造業グループ全体でERPを考えるうえで、今後さらに重要になっていくと考えられます。

特に、すでに本社や中核会社で大規模なERPを利用している場合でも、その先にある子会社や海外拠点では、同じ規模・同じ前提で導入することが現実的でない場合があります。

そこで検討しやすくなるのが、Public Cloud型です。

Public Cloud型は、標準機能を活かしながら、必要な範囲から段階的に導入しやすい特徴があります。本社側にとっては、グループ全体の業務やデータをそろえやすくなる。拠点側にとっては、過度に作り込まず、標準化された基盤を活用しやすくなる。

つまりPublic Cloud型は、本社のERP刷新だけでなく、子会社・海外拠点を含めたグループ展開の観点でも検討価値があります。

SAP導入の前提が変わりつつある

ERPは、企業の販売、購買、生産、在庫、会計、原価などを支える基幹システムです。特に製造業では、これらの業務が複雑につながっているため、ERPのあり方は業務運営そのものに大きく関わります。

従来のERP導入では、企業ごとの業務要件に合わせてシステムを調整し、必要に応じて追加開発を行う進め方が多く取られてきました。自社固有の業務をどこまでシステムに反映できるかが、導入検討の重要な論点になっていたといえます。

しかし、Public Cloud型では前提が変わります。

Public Cloud型は、標準機能を活かしながら業務を見直していく考え方と相性がよい構成です。個別要件を積み上げてシステムを作り込むのではなく、まず標準機能を確認し、どこまで標準で対応できるか、どこを補う必要があるかを整理していくことが重要になります。

この考え方は、Fit to Standardとも深く関係します。

Fit to Standardとは、システムを現行業務に合わせるだけでなく、標準機能を起点に業務の進め方を見直す考え方です。Public Cloud型では、この考え方をより強く意識する必要があります。

つまり、Public Cloud型の導入は、単にERPの提供形態をクラウドに変えることではありません。ERP導入の進め方そのものを見直す取り組みでもあります。

Public Cloud型では、導入の進め方も変わる

SAPのPublic Cloud型は、従来のオンプレミス型やPrivate Cloud型と比べて、実装されている機能、カスタマイズの範囲、追加開発の方法、導入の進め方などが異なります。

この違いは、導入プロジェクトの進め方にも影響します。

たとえば、従来のSAP導入では、RFPに記載された要件に対してFit/Gapを行い、どこまで標準機能で対応できるか、どこに追加開発が必要かを整理する進め方が一般的でした。

しかしPublic Cloud型では、まず標準機能を前提に業務を見直すことが重要になります。
そのため、現行業務をそのまま前提にして「足りない機能を追加する」という進め方だけでは、Public Cloud型の価値を十分に活かしきれない場合があります。

たとえば、これまで個別開発で対応してきた帳票や承認フロー、拠点ごとの独自運用についても、まずは標準機能で代替できる範囲を確認し、そのうえで本当に残すべき要件かを見極める必要があります。

また、Public Cloud型では定期的な機能アップデートを前提に、できるだけ標準機能を活かしながら運用していくことが求められます。導入時点の要件だけで作り込むのではなく、導入後の機能進化や運用改善も含めて考えることが重要になります。

従来のSAP導入で培ってきたノウハウが不要になるわけではありません。
ただし、そのまま横滑りで適用できるわけでもありません。

だからこそ、Public Cloud型に合った導入の進め方を整理する必要があります。

ここが、コベルコシステムとしてPublic Cloud型に本格的に取り組む理由の一つです。

本社・子会社・海外拠点をどうつなぐか

Public Cloud型を考えるうえで、製造業グループにとって重要になるのが、本社・子会社・海外拠点の関係です。

本社では、グループ全体の業務標準化やデータ活用を進めたいというニーズがあります。
一方で、子会社や海外拠点では、現地の業務事情や人員体制、導入コスト、既存システムとの関係を踏まえた現実的な進め方が求められます。

本社と同じシステムを、同じ規模で、同じ導入方式で展開しようとすると、拠点側の負荷が大きくなりすぎる場合があります。逆に、各拠点が個別にシステムを選び続けると、グループ全体でデータや業務プロセスをそろえにくくなります。

この間をどう取るかが、製造業グループのERP刷新では重要になります。

Public Cloud型は、このような場面で一つの選択肢になります。

標準機能を起点にすることで、拠点ごとの個別対応を抑えやすくなります。
また、必要な範囲から段階的に導入することで、過度に大きなプロジェクトにせず、導入後の拡張や改善につなげやすくなります。

たとえば、まずは会計や販売・購買などの基本領域から始め、必要に応じて生産、在庫、周辺システム連携、データ活用へ広げていく。
あるいは、日本本社の方針を踏まえながら、海外拠点に適した範囲でPublic Cloud型を展開する。

このように、Public Cloud型は、本社と拠点の間で業務標準化と現実的な導入負荷のバランスを取りやすい選択肢になり得ます。

製造業では、標準化だけでは語り切れない

Public Cloud型では、標準機能を活かすことが重要です。

ただし、製造業のERP刷新を考えるとき、単に「標準化すればよい」とだけ言い切ることはできません。

製造業では、販売、購買、生産、在庫、原価、設計、保守など、複数の業務が広くつながっています。さらに、ERP単体では完結せず、周辺システムとの関係も重要になります。

たとえば、設計情報を管理するPLM、生産現場の実行情報を扱うMES、生産計画を調整するスケジューラー、倉庫管理を担うWMS、経営分析に使う分析基盤などとの関係を整理する必要があります。

つまり、ERPを導入するだけで業務全体が自動的に整うわけではありません。ERPに何を持たせ、周辺システムに何を任せるのかを、初期段階から考えておく必要があります。

製造業におけるPublic Cloud型導入では、次のような整理が欠かせません。

  • ● どこまでをSAP Cloud ERPの標準機能で対応するのか
  • ● どこを周辺システムで補うのか
  • ● どの領域を自社の差別化領域として残すのか
  • ● 本社と子会社・海外拠点の役割分担をどう考えるのか
  • ● 将来のデータ活用やAI活用を見据えて、どのように基盤を整えるのか

Public Cloud型を活かすには、ERP本体だけを見るのではなく、業務全体、周辺システム、グループ展開まで含めた設計が必要になります。

コベルコシステムがPublic Cloud型に取り組む理由

コベルコシステムは、長年にわたり製造業のお客様を中心にSAP導入を支援してきました。
また、SAPビジネスは1995年から開始しており、製造業を中心に多くの導入実績を積み重ねてきました。

その中で培ってきたのが、製造業向けERPテンプレート「HI-KORT」です。

HI-KORTは、SAP S/4HANAを製造業向けに活用するためのテンプレートとして、事前設定された業務プロセス、アドオン機能、移行ツール、各種ドキュメントなどを備え、短納期・低コスト・高品質の導入を目指すものです。

ただし、Public Cloud型では、従来のHI-KORTで培ってきた考え方をそのまま移すだけでは不十分です。

Public Cloud型には、Public Cloud型に合った進め方があります。標準機能を起点にした業務整理、Clean Coreを意識した拡張、周辺システムとの連携、将来のデータ利活用やAI活用まで含めた全体設計が必要になります。

そこでコベルコシステムでは、これまでの製造業向けSAP導入の知見を活かしながら、Public Cloud型の前提に合わせた新たな導入アプローチを整えていきます。

具体的には、標準機能を起点に業務プロセスを確認し、想定されるスコープや周辺システムとの役割分担を早い段階で整理できるようにする。さらに、製造業で論点になりやすい領域をあらかじめ見える化し、導入初期の迷いや手戻りを減らすことを目指します。

「パブクラを始めます」に込めていること

今回の「パブクラを始めます」という言葉は、単に新しいクラウドERPを扱い始めるという意味ではありません。

そして、その対象は本社のERP刷新だけに限りません。

子会社や海外拠点を含めたグループ全体で、どのように業務を標準化し、データをつなぎ、将来の活用につなげていくかという視点も含まれます。

Public Cloud型では、標準機能を活かすことが重要になります。
一方で、製造業には標準化だけでは整理しきれない業務のつながりや、周辺システムとの関係があります。

だからこそ、コベルコシステムは次のような観点でPublic Cloud型に向き合っていきます。

  • ● 製造業の業務特性を踏まえた導入の進め方
  • ● 標準機能を活かすための業務整理
  • ● 本社・子会社・海外拠点を含めたグループ展開
  • ● 周辺システムとの役割分担
  • ● 将来のデータ利活用やAI活用を見据えた基盤づくり
  • ● HI-KORTで培ってきた導入知見のPublic Cloud型への再構成

今後の取り組みについて

コベルコシステムでは、SAP Public Cloud型への取り組みを進める中で、製造業のお客様にとって使いやすく、検討しやすい導入の型を整えていきます。

その一つが、SAP Cloud ERPのPublic Cloud型導入を支援する製造業向けアセット「HI-KORT C」です。

ただし、HI-KORT Cは単に機能を追加するためのものではありません。

Public Cloud型導入において、どこまでを標準機能で使い、どこを周辺システムで補い、どこを将来の拡張領域として考えるのか。そうした初期検討を進めるための土台として位置づけています。

たとえば、導入初期に業務プロセスや想定スコープを確認し、標準機能で対応しやすい領域と、個別に検討すべき領域を切り分ける。周辺システムとの連携が必要な領域を早めに把握し、ERP単体ではなく業務全体の流れとして整理する。こうした検討を、毎回ゼロから始めるのではなく、製造業向けの知見をもとに進めやすくすることを目指しています。

また、子会社や海外拠点を含めた展開を考える場合にも、導入の型や判断材料があることは重要です。拠点ごとに毎回ゼロから検討するのではなく、製造業向けの知見をもとに、標準化すべき領域と個別に考えるべき領域を切り分けながら進めることが、導入負荷や手戻りの抑制につながります。

次回の記事では、実際にPublic Cloud型への取り組みを進める中で見えてきた課題や悩みについて紹介します。

Public Cloud型は、従来のSAP導入と何が違うのか。
製造業のERP導入では、どのような論点が難しくなるのか。
そして、HI-KORT Cを検討する中で、どのような整理が必要になったのか。

そうした内容を、より具体的にお伝えしていきます。

まとめ

SAP Public Cloud型への取り組みは、単なるクラウド対応ではありません。

標準機能を活かしながら業務を見直し、周辺システムとの関係を整理し、将来のデータ利活用やAI活用まで見据えてERP基盤を整える取り組みです。

また、製造業においては、本社のERP刷新だけでなく、国内外の子会社や海外拠点を含めたグループ全体の業務標準化・データ活用を考えることも重要になります。

コベルコシステムは、これまで製造業向けSAP導入で培ってきた知見を活かしながら、Public Cloud型に合った新しい導入の進め方を整えていきます。

「パブクラを始めます」

それは、製造業のお客様にとって現実的なSAP Public Cloud型導入のあり方を、本社から子会社・海外拠点まで含めて、一つずつ形にしていくための第一歩です。