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2013年05月01日

事例に見る「ものづくりとコトづくり」

前回までのコラムで、「日本のメーカーはものづくりとコトづくりを一体化し、ものづくりとコトづくりで相乗効果を生み出していくのが良い」と述べてきました。今回はこれらの観点から、ユニクロ社のヒートテックの事例を基に話してみたいと思います。

ヒートテックは、ご存知のようにユニクロ社と東レ社が戦略的に提携して生産・販売している肌着で、2011年で1億枚、累計販売3億枚のヒット商品です。最近は国内だけでなく、高温多湿のアジアや、肌着を着ない人もいる欧米等の海外市場でも販売され、海外売上の割合も増えてきています。

消費者にとってのヒートテックの価値は何でしょうか。「熱を逃がさずに保温効果を高めてくれる」「汗を吸収して肌を乾いた状態でキープしてくれる」「着心地が良い」などが挙げられ、特に女性にとっては薄くて軽いことも魅力となっています。このように、ヒートテックのヒットは、消費者にとって従来の綿100%が主流の肌着とは異なる、革新的な機能・品質というコトづくりによると見られます。そして、これらのコトづくりの成功は、“特殊ポリエステルの硬さは肌着に向かない”という常識を覆し、素材の持つ特性を応用して高める技術力や、4種類の繊維を組み合わせることから生じる色ムラの壁を克服する匠の技、いきなり何千トン規模の量産を可能にするグローバルでの生産力など、ものづくりの基盤があってこそ実現できたと考えられます。

どんな革新的な機能・品質も、市場に行き渡るに従って革新性は薄れていきます。売れるのであれば、当然他社も類似的な機能の肌着を出してきます。このように革新性による意味的価値は段々一般化して機能的価値に変わり、当初の商品に比べて消費者の感動は小さくなっていきます。これに対してヒートテックの場合は、図1.に示されるように10年に渡り素材や技術の革新を繰り返すことにより、消費者にとっての新たな価値を提供し続けています。

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 図1.ヒートテックの素材・技術の進化と消費者にとっての価値
(出典:ユニクロ社ホームページの情報を基に作成)

上記の例から、ものづくりとコトづくりの相乗効果を見ることができます。消費者ニーズに先んじてものづくりを進化させ、コトづくりにつなげたり、コトづくりのために素材応用や生産技術等ものづくり力を向上させている好例と言えるでしょう。

次に、ヒートテックの事業プロセス(バリューチェーン)を見てみましょう。ユニクロ社と東レ社は戦略的パートナーシップに基づき、図2.のような一体の事業プロセスを構築しています。これにより、ユニクロ社が展開していた商品に東レ社が素材を提供するごく普通のビジネスから、素材から商品まで企画、開発、生産、流通を含むトータル・インダストリーを実現しています。

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図2.ヒートテックの事業プロセス
(出典:東レ×ユニクロ「戦略的パートナーシップ」 第二期5ヵ年計画 共同記者会見資料より編集加工)

従来の繊維ビジネスの商流は、繊維メーカー、テキスタイルメーカー、縫製メーカーやアパレル、そしてそれらの間を仲介する商社や問屋など、多段階かつ複雑に分業され非効率なものでした。このような商流では、繊維メーカーは自分達の素材が商品として消費者にもたらす価値の実現に深く関与することは困難です。一方、ヒートテックの事業プロセスでは上流の原糸・原綿から小売まで一貫した商流となり、ユニークなコトづくりを可能にするモノづくりが実践できるようになったと考えられます。
東レ社の販売担当の方はユニクロと共同開発を始めた当初の心境を次のように語っています。

「コスト面では台湾や韓国などに及ばない。どれだけ高い技術力をもっていても、繊維メーカーとして単に糸を売るだけの営業では太刀打ちできない状況にありましたから、やはり、自分たちの持っている技術を活かした付加価値を、素材だけでなく商品ごと提案していかなければならないという思いを抱いていました。」

実際はアパレルメーカーと繊維メーカーの間で、ものづくりに対する価値観の相違にかなりの苦労があったようです。また技術者にとって常識の範囲を超えた要望が営業から出され、営業と技術間の衝突も頻繁にあったと言われています。しかし、「世の中にないものを作る」という熱意とこだわりを持ち、衝突し合うことを恐れず、むしろ衝突によって新たなアイデアや方策を見出していくことによって、ヒートテックが生み出され、進化していったと理解できます。

このようにヒートテックの事例は、ものづくりとコトづくりを一体とするための事業プロセス構築や機能間の関わり方、ものづくりとコトづくりでの相乗効果をどう上げていくかついて、貴重なヒントを与えてくれます。

次回からはこれらのヒントを整理していきたいと思います。

※この号は、一般に公開されているデータや記事から考察したものです。

2013年5月

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