2026年05月01日
デジタル/AI時代に求められる“エビデンス”の目利き
~ベストプラクティスは製造業の五ゲン主義~
エビデンスとは
エビデンスとは科学的な根拠、或いは客観的な裏付けを意味します。例えば、医療分野では以前から当たり前のように使われていて、患者にとって重要な治療方針を、エビデンスを基に決めることが求められています。そこでは、単に臨床研究や論文の治療実績やデータだけに頼るのではなく、専門家の臨床経験や技能、患者自身の価値観も踏まえながら、最適な治療方法を選択していきます。同様の考え方は、企業マネジメントや政策決定でも当てはまります。主観や思い込みに左右されるのではなく、エビデンスに基づいて、方針決定や判断を行うことが重要になります。スタンフォード大学をはじめとする経営学者が提唱するEvidence-Based Management:エビデンスに基づく経営(以下EBMgt)では、意思決定におけるエビデンスを、下記のように4つのソースを一本の論理に統合したものと定義しています。
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デジタル/AI時代はエビデンスが一層重要に
AIやSNSの普及により、誰でも簡単に情報を生成し、発信できるようになってきました。その一方で、フェイクニュースを含め、真偽が疑わしい情報が大量に出回るようになっています。こうした状況の中で、「誰が」「何を根拠に」発信した情報なのかを見極めることが、今まで以上に重要になっています。また、AIが多くの企業で導入され、実業務での有効性が認められるようになる一方で、答えの中に一定の割合で誤りが含まれることも広く認知されるようになりました。そのため「そのエビデンスは何か」「どの出典に基づいているのか」と問い直す姿勢が、利用者に求められます。さらに、AIによる判断ミスや権利侵害が訴訟問題に発展するケースも増えており、そのリスクへの対応も企業にとって無視できない課題となっています。このように社会全体で信頼の空洞化が進み、情報の真偽を見極めるコストが高まる中で、エビデンスの重要性と必要性は今後ますます高まっていくと考えられます。ベストプラクティスとなる製造業の“五ゲン主義”
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日本の製造業では、卓越した品質や生産性を維持するために、各担当者の思い込みや主観に頼らず、エビデンスを基にした判断を徹底する仕組みが構築されてきました。その代表的な考え方が、現場・現物・現実を重視する「三現主義」です。実際に起きていることを直視し、事実に基づいて判断する姿勢は、製造業において大切にすべき価値観として広く浸透してきました。
さらに、日本の製造業では三現に限定した対処にとどまらず、より本質的な対策を行えるように、「五ゲン主義(現場・現物・現実・原理・原則)」へと発展してきました。そこでは、普遍的な物理法則や力学、化学といった“原理”に照らして真因を突き止め、導き出した対策を、社内規程や規格、企業の行動指針といった“原則”と照らし合わせながら、現実的かつ継続可能な形に仕立てていきます。製品品質の保証や業界規制への適合、業務の正当性を担保するために培われてきた五ゲン主義は、経営におけるEBMgtとも多くの共通点があります。五ゲン主義は、製造業に限らず、エビデンスによる意思決定を実践していくためのベストプラクティスと捉えることができるでしょう。
エビデンスが苦手な生成AI
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生成AIと五ゲン主義を照らし合わせてみると、AIはエビデンスを得意としていないことが見えてきます。例えば、AIは入力されたデータを事実と信じて、「そもそもデータを取るセンサー自体に不具合はないか?」といった、エビデンスの起点そのものを三現主義の観点から疑うことはできません。また、物理法則などの“原理”に基づくエビデンスも、AIでは因果関係ではなく出現確率に置き換えられています。さらに、法規や企業の経営方針への準拠についても、AIは文言を解釈することなくなぞり、あらかじめ定められた評価関数に従って判断することしかできません。結果として、AIはエビデンスを尤もらしく合成するものの、一貫した論理として統合することはできません。だからこそ、AIが自信ありげに答えても、人間がその背後のエビデンスに綻びがないかをチェックする重要性は、AI利用が拡大するにつれて一層高まっていきます。
デジタル/AI時代に求められるのは、「情報を鵜呑みにする人」でもなければ、「AIを疑い、自分の勘だけを優先する人」でもありません。AIが提示したエビデンスに綻びがないかを、五ゲン主義の視点で一つひとつ検証し論理的に評価できる人です。AIが示した答えの是非を判断するのではなく、その根拠となるエビデンスの質を目利きする——。そうした一段高いレベルの利用ができる人材が、今後ますます重要になっていくのではないでしょうか。情報やエビデンスの信頼度を見極め、取捨選択するリテラシーの重要性は、これからの時代において一層高まっていくと考えられます。
ご参考:
AI利用拡大で高まる企業リスクー急務となるAIガバナンスと実践的整備
2026年5月
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