2026年06月01日
生成AIによる生産性効果を高め、ROIを確認するには
今回は、生成AI(以下AI)による生産性効果の調査結果(*1)を基に、かつてのインターネット/WEBの普及推移を参考にしながら、今後のAI活用で求められるROIの高め方について考察します。
AIによる生産性向上が認められる業務タスクとその定量効果
既に多くの企業でAIが活用されていますが、生産性は定量的にどれ位向上しているのでしょうか。
これまでの複数の研究や調査結果から、企業内の業務タスクは、AIによる生産性向上の大きさに応じ、下記のように大きく3つに分類されます。
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まず、AIによる生産性向上が最も大きいのは、左端の分類Hの業務タスクです。AI活用により生産性が30%~80%向上しており、AIが得意とする文書・レポート作成、要約・文書整理、回答文作成などが該当します。
次の分類Mの業務タスクでは、生産性が10~30%向上しています。この分類には、高精度の報告や問題分析・整理、比較・検討、そして複数資料の統合などの業務タスクが含まれます。
そして、右端の分類Lの業務タスクでは、AIによる生産性向上はほとんど認められていません。主に調整や交渉、確認・最終判断など、人しかできない業務タスクや受注処理など基幹業務タスクが該当します。
分類Hの業務タスクの特徴は、正解がほぼ決まっていて、同じ目的やルールで繰り返し遂行されることで、このためAIで代行され易いと言えます。一方、分類Mの業務タスクの特徴は、必ずしも正解が決まっていない、或いはタスクの目的やルールが都度変わることです。
この分類の業務タスクでは、AIによる生成・整理は有効であるものの、人の指示や修正、検証に要する割合が多くなります。そのため、AIは「壁打ち」相手として有効ではあるものの、業務タスクの生産性向上は中程度となります。AIにより生産性向上が期待できる分類Hと分類Mを合わせた業務タスクは全体の2~5割にとどまり、分類Lの業務タスクが5割以上になっています。
これまで生産性向上のROIが確認できていない理由
AIによる生産性向上は確かに認識されていますが、その効果をROIとして明確化できている企業はほとんどありません。短期間で一気に普及し、業務タスクの所要時間短縮など一定の成果は出ているものの、多くの企業では経営指標としてのROIに十分結びついていないのが実態です。この現象については、以前のコラム(*2)でも「AIパラドックス」として指摘しましたが、ここではその背景にある要因を整理します。
まず、業務タスク単位で生産性が向上しても、その削減時間が品質向上や他業務に充てられることが多く、処理件数の増加や人員削減という業務面の効果に直結し難い点が挙げられます。
次に、生成AI特有の統制コストも無視できません。誤情報や著作権侵害、機密漏洩への対策が不可欠であり、そのための検証や管理に工数が発生します。このような追加コストが、生産性向上の効果を一部相殺しています。
さらに、非定型業務では人により進め方ややり方が異なり、同じ尺度で比較・評価しにくいことも効果測定を難しくしています。
広く普及して初めて新たな価値を生み出したインターネット/WEB
かつてインターネット/WEBは広く普及して初めて大きな価値を生み出しましたが、AIの現状はその普及初期に似ています。
インターネット/WEBは2000年前後から企業への導入が進み、メールや検索といった利便性の高さを背景に、約5年で7割程度の企業に導入されました。しかし、普及初期はメールやホームページの利用にとどまり、普及度に比べてROIが見えにくいというパラドックスが存在していました。その後、インターネット/WEBをベースにした、サプライチェーンや顧客接点を含む業務プロセスの再設計が進むことで、生産性は大きく向上し、ROIも確認されるようになっていきました。やがてインターネットは、接続される企業やユーザー数が増えるほど、その価値が急増するという特性も相まって、企業活動に不可欠な重要基盤へと発展しました。AIも普及初期の段階ではそのROIが確認できていませんが、インターネット/WEB同様、今後は業務プロセスの再設計と活用範囲拡大によりROIが顕在化し、やがて重要基盤となっていくことが期待されます。
AIのROIを高める次の一手
インターネット/WEBの普及初期に似た状況にあるとはいえ、AIも時間の経過だけで価値が高まるとは限りません。今後、AIのROIを確認していくためには、どのような取り組みが求められるのでしょうか。
鍵となるのは、新たなAI技術の活用に期待するだけでなく、業務そのものを見直し、人とAIの役割分担を再設計していくことです。
例えば、分類HとMの業務タスクでは、生産性の高いAI利用者の業務タスクを標準化していくことで、組織全体の生産性を底上げできます。
さらに、分類Lの業務タスクに対しても、熟練者の暗黙知や専門家の意思決定プロセスを形式知に変えてAIに組み込むことで、AIによる判断業務を広げることができます。また、これまで業務負荷の制約から月次・週次で実施していた業務を、AIの活用によってリアルタイムに近づけていくことも可能となります。
このように、業務プロセスと意思決定のあり方を再設計し、人の役割を再定義していくことで、AIの価値も飛躍的に高まっていくことが期待されます。
ご参考:
*1 : The 2026 AI Index Report | Stanford HAI
*2 : 生成AIパラドックス(生成AIの利用拡大と成果の乖離)に陥らないために
2026年6月
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