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2013年06月01日

コトづくり視点の商品コンセプト

企業が商品を生産し、お客様に届けるまでには企画・設計・製造など数多くの活動が必要です。それらの企業活動の一連の流れを表現するために、図1.のようなモデルがよく使われます。このモデルは企業内の活動が生み出していく付加価値の連鎖を表すことから「バリューチェーン(価値連鎖)」と名付けられています。つまり、企業が最終的にお客様に提供できる付加価値は、商品企画から、開発・設計、購買、製造・組立、販売などの活動が次々生み出す付加価値の総和となります。

製造業のバリューチェーン例
図1.製造業のバリューチェーン例

バリューチェーンという考え方は付加価値の構造を明らかにするだけではなく、企業の強みや弱みの分析、競争力を高めるための手段を検討する上でも有効です。前回のコラムで取り上げたヒートテックの事例は、東レ社の強みである開発・生産機能と、ユニクロ社の強みである小売機能を、戦略的パートナーシップで連携したと見ることができ、この2社で構成される活動の流れも広義のバリューチェーンとなります。

製造業のバリューチェーンでは、一般的に商品企画が上流に来ます。B to Cの製造業の場合、商品企画はメーカーが消費者に届ける付加価値を創り出す起点であり、その創り込み度合いで最終商品の付加価値が大きく上下することになります。「どんな人に、どんな場面で、どんな価値を与える商品なのか」を表す商品コンセプトが付加価値創りの根幹になるのです。
以前は、世の中にある既存商品の性能を高めたり、小型化したり、信頼性を高めることで消費者に商品を買ってもらえました。このような時代の商品企画は、機能や仕様の向上、コスト低減に注力していればよかったのです。しかし、成熟社会における消費者は、これらの機能的価値の向上だけではさほど魅力を感じなくなっています。そこで昨今の商品企画は、機能的価値に加えて意味的価値を高める、コトづくり視点の商品コンセプトが求められます。

メーカーは様々な形で消費者との接点を持つことができ、消費者理解のために色々な調査ができるようになっています。最近ではビッグデータを利用して顧客ニーズの高度な分析も可能になってきています。消費者は「自身のこだわりや楽しみ」で購入する場合と、「他人や世間に対する自己の位置づけ」で購入する場合があるといわれています。例えば自動車を加速性やスタイルで選ぶのはこだわりであり、グレードで選ぶのは自己の位置づけとなります。このように消費者の意味的価値は主観的かつ様々であり、さらに商品の革新性が高くなるほど消費者自身もどんな商品が欲しいのか的確に言い表せなくなります。このような主観的で潜在的な消費者ニーズは調査で簡単に把握できるものではなく、また競合他社商品との明確な差異化も求められるため、コトづくり視点の商品コンセプト開発は大変難しいものとなります。

前回、事例として取り上げたヒートテックは「温かインナー」としてデビューし、「着ていないような気持ちよさ」で消費者に感動と満足感を提供してきました。では、ユニクロ社はどのように消費者の新しいニーズ、潜在的な価値を理解し、どのように商品コンサプトを開発しているのでしょうか?
ユニクロ社ではトレンド、ニーズ、ライフスタイル、素材など、世界の主要拠点にあるR&Dセンターが常に最先端の情報リサーチを行っており、商品発売の1年前に、それらの情報をもとにした「コンセプト会議」が開かれます。そこでR&Dデザイナーやマーチャンダイジング、マーケティング、素材開発、生産部門の各担当者が議論を重ね、各シーズンのコンセプトを決定します。そのコンセプト作りの基準となるのが、同社のミッションのひとつである「今までにない新しい価値を持つ服を創造し、世界中のあらゆる人々に、良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供します」だと想定されます。例えば洗濯しなくていい服を作って欲しい”とか、“ガンガン洗濯機で洗えるセーターを作って欲しい”といった常識を超えた要望が提示され、その都度対応に振り回された」と提携先の東レ社の社員が述懐しています。
ユニクロ社は、自らを「情報発信製造小売業」と称しています。これは、コンセプトの商品化を通して情報を発信することで消費者の記憶にその存在感を形成していくこと、更にその販売を通して消費者ニーズの検証を行うことでより高度な価値を届けられる商品コンセプト開発につなげることを意味していると理解できます。

商品コンセプトの意味的価値が高ければ高いほど、つまり革新的であればあるほど、商品化のハードルは高くなります。革新的な商品を提供し続けるには、消費者ニーズに先んじてものづくりを進化させ、コトづくりにつながるように意味的価値の実現を想定した技術開発が必要となるのです。コトづくりを可能にするものづくり。両方ができてこそ、付加価値の高い商品が送り出せると言えるでしょう。

次回はB to Bの製造業についてお話します。

※この号は、一般に公開されているデータや記事から考察したものです。

 

2013年6月

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