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2020年05月01日

エンジニアリングチェーンのデジタル化のすすめ

昨年2019年12月の当コラムで(※1)、製造業ではデジタル化が遅れているエンジニアリングチェーンは宝の山であると述べました。今回は、このエンジニアリングチェーンのデジタル化をどのように進め、どのような宝を手に入れるか、具体的に見ていきたいと思います。 先ず、エンジニアリングチェーンのデジタル化の取り組み対象は3つあります。

エンジニアリングチェーンのデジタル化

図1:エンジニアリングチェーンのデジタル化

1つ目のデジタル化対象は、「技術情報」です。エンジニアリングチェーンで作成する図面、図書、部品表、工程設計など、製品設計や製造設計の情報をデジタル化します。しかし紙の図面や図書をそのままPDF化し、サーバのフォルダーに格納するだけでは、デジタル化とは言えません。電子化された図面や図書から人が内容を読み取って必要な情報を探し出すのであれば、紙の運用とあまり変わりません。必要とする図面や部品表、品目に関する情報を、色々な属性で容易に検索でき、仕様情報をシステムが読み取れるようになってはじめて技術情報がデジタル化されたと言えます。さらに、初期設計後も頻繁に発生する設計変更に合わせて、改訂される図面や図書が統合的に履歴管理される必要があります。最新の技術情報と元の情報を関係づけ、履歴を管理し、承認済みの情報が勝手に変更されないような仕組みができて、技術情報がデジタルされていると言えます。

2つ目のデジタル化対象は、「情報の流れ」です。製造業では部門間に壁があり、技術と生産や調達、検査とのコミュニケーションは極めて限られています。技術情報がエンジニアリングチェーンを担う関係部門間をスムーズに流れ、サプライチェーンにまで人を介することなく到達できるようにしていくことが、情報の流れをデジタル化する第一歩です。出荷された製品から見ると、該当する部品表や図面などの上流の技術情報まですぐにトレースバックできる必要があります。さらに、情報の流れのデジタル化は、サプライチェーンで生まれる製品コストや品質の実績情報がエンジニアリングチェーンにフィードバックされ、製品や工程の設計に活かせるようになることも求められます。

3つ目のデジタル化の対象は、「判断・分析」です。達成したい設計条件や制約などのパラメータをCADにインプットすると、いくつかの案を技術者に提示し、設計をアシストするCADが判断・分析のデジタル化の一例です。解析や設計の手順を組み込むことで、次に行う作業を技術者へナビゲートすることもできます。このように、技術者の設計業務を必ずしも自動化できなくても、技術者に気付きを与え、ガイド・支援できるようにすることが判断・分析のデジタル化です。

このようなエンジニアリングチェーンのデジタル化を進めることにより、ものづくりのQCD全体に渡って様々な業務改革を行うことができ、大きな効果が期待できます。

エンジニアリングチェーンのデジタル化による業務改革と効果

図2:エンジニアリングチェーンのデジタル化による業務改革と効果

最初に、コスト(C)面では、デジタル化で新規設計や設計変更のワークフロー化やナビゲーションを行うことで、エンジニアリングチェーン業務の効率化が実現できます。同時にこれまで労働集約的かつ属人的であった技術者の生産性が高まります。デジタル化で製品コストも低減できます。一般的に、設計者は要求仕様を満たすことに精一杯で製品コストについてはあまり配慮できていませんが、製品コストは設計者が決める諸元でほとんど決まってしまいます。原価企画や部品共通化により、設計段階でコストを意識した部品や加工法を採択でき、製品コストは大きく低減します。

次に、納期(D)面では、デジタル化によりエンジニアリングチェーンのリードタイム短縮が実現できます。これまでのコンカレント・エンジニアリングやプロジェクト管理は人間系に頼ったもので、成果も限られていました。技術情報や情報の流れのデジタル化で、部門を跨る情報連携や進捗管理をプロジェクトの標準的な仕組みとして実践できるようになります。

製品開発ではどうしても納期を優先することが多く、品質(Q)の問題を起すことがよくあります。情報のデジタル化によって、過去のトラブルからの教訓やベテラン技術者のノウハウを活かすナレッジマネジメントで、コスト同様に上流での製品品質の造り込みに役立ちます。また、デジタル化でトレーサビィリティや品質管理のプロセスの管理レベルも高まり、エンジニアリングチェーンの業務品質向上につながります。

エンジニアリングチェーンのデジタル化は、サプライチェーンも合せて進めることでその効果は一層高まります。日本の製造業の強みである、現場のものづくり力を活かせるエンジニアリングチェーンのデジタル化に全社的に取り組み、大きな成果を挙げることを期待します。

※1:デジタル化とものづくり⑮ ~エンジニアリングチェーンは宝の山~
https://www.kobelcosys.co.jp/column/monozukuri/20191201/

2020年5月

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