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2026年10月01日

NBA河村勇輝選手、「低い」からこそ見える景色
~AI時代に価値を生む「視点」~

NBA河村勇輝選手、「低い」からこそ見える景色

2027年にカタールで開催されるFIBA男子バスケットボールW杯のアジア最終予選がスタートしました。グループFの日本は8月27日のサウジアラビア戦を106-78、同31日の開催国カタール戦も123-70で圧勝し、順調な滑り出しを見せています。「歴代最強」とも評される日本代表ですが、その中心には異なる強みを持つ二人のNBA選手がいます。
その一人が、八村塁選手。2019年のNBAドラフトで日本人史上初の1巡目指名を受け、ワシントン・ウィザーズに入団。その後、名門ロサンゼルス・レイカーズの主力としてプレーし、2025-26年シーズンではレイカーズ史上最高のスリーポイントシュート成功率44.3%をマークしてレギュラーシーズンを終えました。
公称の203cmよりも実際は高いと言われる長身と強いパワーを生かしたゴール下のプレーやリバウンドに加え、正確なミドルレンジシュート、粘り強いディフェンスなどで、日本代表チームに貢献しています。

そしてもう一人のNBA選手が、河村勇輝選手です。河村選手は2024年9月のメンフィス・グリズリーズとのエグジビット10契約からスタートし、その後、開幕ロースターに残り、ヒューストン・ロケッツ戦に出場。田臥勇太選手、渡邊雄太選手、八村塁選手に続く日本人4人目のNBAレギュラーシーズン出場選手となりました。
背の高い選手が圧倒的に有利と思われるバスケットボール。NBA選手の平均身長は199cmと言われていますが、河村選手は172cmしかありません。それでも彼は圧倒的なスピードで長身選手の間を駆け抜け、広い視野で素早くコート全体を把握して、時にはノールックでパスを出し、あるいはディフェンスをかわしてシュートを打ちます。そういった「背の低い」選手の得意とするプレーでチームをけん引しています。

30cm。バスケットボール選手にとって、この身長差は決して小さくありません。八村選手と河村選手。同じコートに立っていても、二人の目に映っている景色は随分と異なっていることでしょう。しかし、そこには「身長が低いからこそ見える景色」があります。そして河村選手だからこそ見える景色の中で、勝負できる部分を磨いてきました。たとえば河村選手は最高速度から一瞬で止まる「急減速」の能力に長けていますが、これはハムストリングスや大腿四頭筋の伸張性収縮を鍛えるトレーニングなどで培ったそうです。ほかにも、相手の懐に入る低い姿勢、広いシュートレンジなど「自分は小さい。だからこそ、大きい選手とは違う方法で勝負する」と考え、自分の特長を生かすための武器を一つずつ磨いてきたのです。河村選手は小学校低学年の子どもたちを対象としたクリニックに参加した際、「大切にしている言葉は何ですか?」という質問に対し「『諦めないこと』です」と即答したそうです。その言葉が印象的なのは、単なる精神論ではなく、身長の低さという制約を受け入れたうえで、努力を重ねてきた経験に裏打ちされているからでしょう。

私たちはどうしても、自分にないものに目を向けがちです。身長。才能。学歴。容姿。お金。コミュニケーション能力。家庭環境。人脈。そして、「あの人にはあるのに、自分にはない」と考えてしまいます。しかし、河村選手の姿は別の見方を教えてくれます。身長が低いために「高い位置から見られない」ことを嘆くのではなく、「低い位置だからこそ見えるものがある」ことを体現してくれています。制約は不利な条件である一方で、ほかの人には見えない景色を見せてくれることもあるのです。

これはビジネスの世界でも同じではないでしょうか。営業経験がある人、子育て経験のある人、異業種から転職してきた人、それぞれが同じ問題に向き合っても、見えるものは異なります。この「見え方の違い」は、組織にとっても重要です。「みんなが見ているもの」ではなく、自分が立っている場所からしか見えないもの。その中には、組織がまだ気づいていない問題があるかもしれません。「なぜ誰もこれを問題だと思わないのだろう」と感じる人の存在こそが、新しい発見や変革のきっかけになることがあります。

AIの進化によって、誰もがこれまで以上に多くの情報を手にできるようになります。だからこそ、これから問われるのは「どれだけ知っているか」ではありません。「どこに立っているのか」「何を見ているのか」そして、「自分にしか見えていないものは何なのか」。それが価値を生む時代になるのではないでしょうか。
身長のように、自分では変えられない条件もあります。過去や経験、置かれている環境も、すべて自由に選べるわけではありません。でも、その場所にいるからこそ見える景色があります。大切なのは、自分にないものを嘆くことではなく、自分の立っている場所からしか見えないものに目を向けることなのかもしれません。

2026年10月

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