2026年07月01日
「ミスタープロ野球」長嶋茂雄という特別な存在
~数字で測れないものの価値~
![]()
昨年89歳で亡くなった長嶋茂雄さんの一周忌にあたる6月3日の巨人・オリックス戦(東京ドーム)は「FOR3VER 6・3~長嶋茂雄~」と銘打った特別試合として開催されました。この試合では、8回裏1死満塁の場面で代打として登場した巨人の丸佳浩選手が、ファンの待つ右翼席へ逆転満塁本塁打を放ちました。その打球は「ミスター、感動をありがとう」と書かれた長嶋さんがほほ笑むセコムの看板の下へと吸い込まれていったのです。丸選手はヒーローインタビューで、「長嶋さんが打たせてくれたホームラン。僕はそう信じているので、本当に感謝したいと思います」と同じ千葉県出身の大先輩に思いを馳せました。
ここぞという場面で、見ている人が「打ってほしい」と願っている時に打つ。それが長嶋茂雄でした。天覧試合でのサヨナラ本塁打はあまりにも有名ですが、長嶋さんは皇室が観戦した10試合で35打数18安打の打率5割1分4厘、7本塁打、10打点という驚異的な成績を残しています。華やかな舞台での活躍は群を抜いていて、シーズン開幕戦で放った本塁打は通算10本。これはプロ野球最多記録で、1970年から引退した1974年にかけては5年連続で放つなど、開幕を心待ちにしていたファンにアーチで応えました。
また、オールスターゲームや日本シリーズにも強く、通算打率は球宴が3割1分3厘、日本シリーズが3割4分3厘。公式戦の3割5厘と合わせ、3つの大舞台すべてで3割超の打率(*1)を残したのは長嶋さんが史上初であり、その後を含めてもわずか2人しかいない大記録です。大舞台になると緊張で本来の力が発揮できない選手は多いのですが、長嶋さんは注目されればされるほど集中力が増し、その状況を楽しんで最高のパフォーマンスを発揮してきました。
歴代最高の成績を残した選手よりも、人々の心を震わせた選手が長く語り継がれることがあります。長嶋さんの通算打率は3割5厘で歴代14位。安打数では、1位が3085本の張本勲選手(東映ほか)で、長嶋さん(2471本)は9位。本塁打では、868本の王貞治選手(巨人)が1位で、長嶋さん(444本)は15位です。いずれもベスト5には入っていません。それでも「ミスタープロ野球」と呼ばれるのは、それだけ多くのファンを魅了し続けてきたからでしょう。数字では計り知れない魅力にあふれたスーパースター。「記録よりも記憶に残る」という言葉は、まさに長嶋さんを象徴する言葉なのです。
ビジネスの世界でも同じことが言えます。「価格は忘れるが、品質は生涯残る」とは、イタリアの高級ブランド、グッチを率いたアルド・グッチの言葉です。商品を購入した直後は価格が気になりますが、数年後に人の記憶に残っているのは、「高かったか安かったか」ではなく、「使って満足したかどうか」です。安くてもすぐに壊れてしまった製品への不満は長く残る一方で、少し高価でも期待以上の価値を提供してくれた商品には愛着が生まれます。最終的に人が覚えているのは支払った金額ではなく、そこで得られた体験なのです。
また、顧客満足度やリピート率は数字として表れますが、その背景には「親身に相談に乗ってくれた」「困った時に助けてくれた」といった体験があります。お客様が覚えているのは商品の品質だけでなく、購入までの過程やサービスを受ける中で感じた安心感や信頼感なのです。
私たちは日々、多くの数字に囲まれて生きています。売上、利益、市場シェア、偏差値、年収、フォロワー数、アクセス数。企業も個人も何かを評価するときには、客観的で分かりやすく、比較もしやすい数字を用います。数字は現実を映す鏡であり、さまざまな意思決定において重要な判断材料となるため、決して軽視すべきではありません。しかし、数字だけを追いかけていると、本来の目的を見失ってしまうことがあります。売上の先には顧客の満足があり、利益の先には社員や社会への貢献があります。数字は目的ではなく、結果であるということを忘れてはなりません。
今後、時代が進むにつれて、測定できるものはさらに増えていくでしょう。そして、大量の数字データから最適な答えを導き出すことは、AIが最も得意とする領域の一つかもしれません。しかし一方で、人の心を動かす感動や信頼、誇り、愛着といった価値は、今も昔も数字だけでは完全に表すことができません。だからこそ私たちは、ときに数字から目を離し、「何が人の記憶に残るのか」を考える必要があるのではないでしょうか。
記録はいつか塗り替えられます。価格もやがて忘れられるでしょう。しかし、人の心に刻まれた記憶や品質への評価は、長く生き続けます。数字で測れる価値を大切にしながらも、数字では測れない価値を見失わないこと。その積み重ねこそが、企業の持続的成長につながるのではないでしょうか。
ご参考
*1:ただし、公式戦の通算打率は通算4000打数以上の打者を対象とした順位
2026年7月
最新の記事
年別
ITの可能性が満載のメルマガを、お客様への想いと共にお届けします!
Kobelco Systems Letter を購読























