代表取締役社長が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2026年09月01日

女性審判の活躍、その先に見えるもの
~「経験×リスキル×AI」の方程式~

性審判の活躍、その先に見えるもの

近年、スポーツ界では女性審判の活躍が目立つようになっています。今夏の甲子園大会ではビデオ検証の導入に加え、春夏通じて初めて5人の女性審判がグラウンドに立ちました。開幕戦で二塁塁審を務めた森田真紀さんは2児の母でもある埼玉県の中学教諭で、試合後には「うれしい気持ちと、絶対に失敗してはいけないという、もうそれだけだった」と安堵の表情を浮かべていました。日本のプロ野球では、いまだ女性審判は誕生していませんが、アメリカのMLBでは2025年、Jen Pawolさんが史上初のレギュラーシーズン女性審判となりました。
ボールの動きに合わせて広いフィールドを動き回るサッカーやラグビーでも、世界最高峰の大会で女性審判が活躍しています。サッカーのワールドカップでは、2022年のカタール大会で大会史上初めて主審3人、副審3人の計6人の女性審判が選出され、日本の山下良美さんもベルギー対カナダ戦をはじめ6試合を担当しました。
ラグビーでは、スコットランド出身のHollie Davidsonさんが、選手としてのキャリアを怪我で断念した後に審判へ転向しました。女子だけでなく男子の国際試合でも経験を重ね、2025年にはWorld Rugbyの年間最優秀審判に選出され、2026年には男子シックス・ネーションズで女性初の主審を務めました。

こうした女性審判の台頭は、男女を問わず審判としてより能力がある者が登用されるというダイバーシティの進展の結果であることは言うまでもありません。しかし、背景にはそれ以外の要因もあります。競技者として培った専門性を、審判という別の専門職へ転換できる環境が整ってきたこともそのひとつです。
Davidsonさんは女子ラグビー選手として培った競技理解という土台を活かし、審判として必要な知識や判断力を身につけ、国際舞台で活躍するまでになりました。森田さんも、中学・高校時代のソフトボール経験や大学・社会人での軟式野球経験を生かし、審判として数多くの試合をこなしてきました。Pawolさんもまたソフトボール経験をもとに、2016年から10年間マイナーリーグで審判としてのキャリアを積み上げています。
もちろん、競技経験だけで審判になれるわけではありません。ルールや判定技術、コミュニケーション力を学び、実戦経験を積む必要があります。また、競技によっては細かなルールの違いやルール改正への対応も必要であり、競技経験を新たな専門性へ再構築するリスキルが欠かせません。女性審判を増やすには、採用機会を広げるだけでなく、競技経験を持つ女性を増やし、その経験を審判へとつなぐ教育やキャリアパスを整備することが重要です。

また一方で、スポーツ界にはデジタル技術の波も押し寄せています。サッカーW杯ではファウルなどをビデオ判定するVAR(Video Assistant Referee)システムに加えて、カタール大会からはトラッキングカメラやボール内部のセンサーを活用した半自動オフサイド技術が導入されました。AIがオフサイドの可能性を検出し、ビデオ審判が確認した上で主審に伝える仕組みです。
重要なのは、AIをはじめとするデジタル技術が審判を置き換えるのではなく、人間の判断を支援することで、審判という仕事の中身を変えている点です。審判が自らの目と身体だけで情報を収集し、すべてを瞬時に判断する必要性は以前よりも低下しました。一方で、人間には新たな能力が求められています。
その代表がルールの解釈です。映像やセンサーによって「何が起きたのか」は精度高く把握できるようになりました。しかし、「その事象にどのルールを適用し、どのような判断を下すのか」は別問題です。例えばラグビーでは、危険なタックルに該当するのか、どの程度の制裁が妥当なのかを、競技規則とプレーの文脈を踏まえて判断しなければなりません。
つまり、テクノロジーが進歩するほど、人間には機械が集めた情報を理解し、ルールや状況、流れなどを統合して最終判断を下し、その根拠を説明する能力が求められるようになるのです。

この変化はスポーツの審判だけに限りません。これからAIが浸透していくビジネスの世界でも同じことが起きるでしょう。AIが情報収集や分析、定型的な判断を担うほど、求められる専門家像は「自分で何でもできる人」から、「人間と機械の得意分野を理解し、両者を組み合わせてより良い判断を下せる人」へと変わっていくのではないでしょうか。
そして、そのような専門家を育てるには、最初から専門職志向の人材だけを集めるのではなく、専門性の土台となる実務経験を持つ人材の裾野を広げることが重要です。競技者が審判へリスキルしたように、ビジネスでも実務経験を持つ人材がAIを使いこなす力を身につけることで、新たな専門家が生まれる可能性があります。

女性審判の台頭は、女性の活躍の場を広げるだけでなく、「経験×リスキル×AI」によって専門職のあり方そのものを変え、これからの時代にふさわしい新しい専門家像を示しているのかもしれません。

2026年9月

ITの可能性が満載のメルマガを、お客様への想いと共にお届けします!

Kobelco Systems Letter を購読