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2022年03月01日

デジタル化推進のポイント、人材をどう確保するか

新型コロナ禍で低下した日本企業の業績も回復しつつあります。業績回復を加速するために、中々進まないデジタル化をもう一度梃入れしていかなければなりません。デジタル化推進の課題については、既にいくつかの調査結果が公表されていますが、そこで最大のボトルネックと見なされているのが、デジタル化を進める際の人材不足です。今回は、デジタル化推進のポイントとなる人材確保について考察します。
一例として、昨年公表された総務省の情報通信白書の調査結果を見てみましょう。

デジタル化を進める際の課題図表1:デジタル化を進める際の課題
(令和3年情報通信白書より、編集加工))
(クリックして拡大できます) 

回答した日本企業の半数以上が人材不足を課題とし、人材不足はデジタル化を進める際の課題のトップに挙げられています。

■デジタル人材の不足状況

具体的には、デジタル化主導者、企画立案者、そしてデジタル技術やデザインに明るい人など、デジタル化全般に亘る人材が不足しています。ここではこのようなデジタル化を推進するために必要な人材をデジタル人材と呼ぶことにします。デジタル人材の不足は、経産省の製造業を対象とした調査やJUAS「企業IT動向調査2022」においても同様の結果がでていて、今や人材不足は日本企業にとってデジタル化を進める際の優先課題となっています。中でも製造業は金融業に次いでデジタル人材確保の必要性が高い状況です。 情報通信白書の調査結果において、もう一つ注目すべきは、日米独の比較です。ほとんどの課題は3か国ともほぼ同じ割合となっていますが、デジタル人材不足の課題は日本が米国の約2倍と突出した高い数値です。この違いを探ることで、日本企業のデジタル化推進のヒントがありそうです。

■デジタル人材を確保する4つの方法

まず一つ目は、社内人材の育成です。最近リスキリング(※1)が注目されているのもデジタル人材確保がその背景にあります。二つ目の方法は、社内人材の発掘です。システム部門だけでなくビジネス部門も含めて、デジタル化の素養を持ち、デジタル化への意欲の高い社内人材を探し出します。例えば、新規事業を立案する企画部門や顧客企業の課題解決を行っている営業部門には、デジタル人材としての高いスキルを既に保有している「隠れデジタル人材」がかなりいるはずです。三つ目の方法が、社外からデジタル人材に相応しい即戦力のキャリア採用です。特にAIやデータ分析の技術者はどの企業も不足していて、社外に人材を求める企業が多いようです。そして、四つ目の方法が社外リソースの活用です。システム部門と既に付き合いのあるITベンダー企業や人材サービス企業から、企業が必要とするデジタル人材を契約ベースで活用します。

■日本企業と米独企業の人材確保の違い

日本企業はこれら4つの方法をすべて併用することで、デジタル人材を確保しようとしています。デジタル化推進はスピード感が求められ、かつ企業内の改革を進めていくことから、本来であればデジタル人材は社外リソースに頼るのではなく、内製でいきたいところです。そこで、まずは社内人材の育成や発掘で人材確保することになるのですが、人の育成や適任者の発掘は急には進みません。次の人材確保策として、即戦力のキャリア採用となります。ところが日本では元々人材の流動性が少なく、即戦力となる人材候補は絶対数に限られています。どの企業も優秀なキャリア人材が欲しいため争奪戦となり、それなりの処遇や報酬をオファーできる企業しかキャリア採用ができないでしょう。そこで内製化を諦め、社外人材に頼ることになります。

日本と米独企業のデジタル人材確保方法比較

図表2:日本と米独企業のデジタル人材確保方法比較

これまで日本企業のシステム部門はIT人材の確保は社外IT企業の人材活用を基本としてきたこともあり、デジタル人材の内製化を進めるのが得意ではないようです。一方、欧米企業ではIT人材はもともと内製化が当然であり、事業戦略に応じて社外のキャリア人材を適宜採用してきました。日本企業と米独企業とのデジタル人材不足の課題の数値に大きな差がついている理由はここにあると考えられます。

今後は日本の製造業も自社戦略に紐付いたデジタル人材を効果的に確保していくことが一層重要となっていきます。昨今のコロナ禍を契機に、日本社会も多様な働き方や人材の流動化が進んでいく気配があります。多様な働き方が可能になれば、デジタル人材の育成や発掘の幅も広がります。兼業・副業を含む多様な雇用形態や機会を提供することで、社外人材の採用も増やせるはずです。また、一括採用・年功序列を前提とした「メンバーシップ型」から、ジョブを明確にした「ジョブ型」の雇用形態に移る企業も徐々に出てきています。当面は従来の「メンバーシップ型」は残しつつ、デジタル人材の確保はジョブ型で行うハイブリッド雇用も増えていくと想定されます。この流れに乗り遅れることなく、日本の製造業が自社戦略遂行に必要なデジタル人材を効果的に確保し、デジタル化を本格化させていくことを期待します。

※1:自分をアップデートしていますか? ~リスキリングのススメ~
https://www.kobelcosys.co.jp/column/monozukuri/20220101/

2022年3月

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