ものづくりコラム 設計、生産管理、原価管理などものづくりに関するトピックを毎月お届けします。

2022年02月01日

出る杭を伸ばし、どんどんイノベーションを進めよう

日本はまだ経済大国であると思っている人はいませんか。昨今の日本のGDPや日本企業の時価総額を見ると、残念ながら以前に比べると存在感は低下しています。この時価総額とは株価に発行済み株数を掛けた数値で、企業の価値あるいは企業の値段を端的に表すものです。株価は色々な要因で日々変動し、企業業績は好不調の波はあるものの、10年、20年の長期で見ると、日本企業の時価総額の割合は段々減少しています。一方、存在感を大きく増し続けているのが米国企業です。例えば、昨年末の世界の企業価値トップ100社には、中国企業13社、フランス企業4社、そして日本企業は3社ランクインしているのに対し、米国企業は60社と圧倒しています。また、日本の全上場企業の時価総額を合計しても、米国の上位3社の時価総額よりも少ないと聞くと、その差の大きさに唖然とします。この大差の原因については専門家により色々分析されていますが、ここではちょっと違った観点から考察したいと思います。

2021年末時点で世界の時価総額トップの企業はご存じのアップル社で、その業績を牽引しているのはスマホです。2007年に登場したスマホは、一気に世界中に広がるとともに、そのサービス内容の拡充に沿って用途も増えてきました。今や巨額の利益を生み出すスマホ産業が出来上がっています。このスマホ産業には日本企業も部品供給等において大きな役割を果たしているのですが、不本意ながらスマホ本体のメーカーにはなれていません。

では、日本企業がスマホビジネスを世界に先駆けて立上げ、現在のアップル社に匹敵するスマホメーカーになるチャンスはなかったかというと答えは否。むしろ勝機は十分あったと思われます。日本ではアップル社のスマホ販売よりも8年も前から、携帯電話でのネットサービスが開始されていました。コンテンツ提供業者と利用者を結び付け、双方から利益を得るコンテンツビジネスを世界に先駆けて確立したiモードです。携帯電話でメール、音楽やゲームのダウンロード、サブスク、写真、そして財布代わりの支払いなど、現在のスマホで使っている機能の多くがiモードによって既に提供されていました。つまり、日本の携帯電話事業会社や携帯電話メーカーの技術、そしてビジネスモデルは、当時のアップル社より遥かに先を歩んでいました。その優位性をそのまま次のスマホ時代に活かすことで、日本企業が現在のアップル社になっていてもおかしくはなかったはずです。

折角一歩先んじていたのに残念な結果に終わったのはなぜでしょう?その後日本の携帯電話がガラケー(ガラパゴス携帯)と揶揄されるように、独自の仕様やグローバル化の失敗などいくつか理由が挙げられています。実は当時のiモード事業に携わっていた関係者の中にもスマホ展開につなげるアイデアはあったようです。しかし、当時の携帯電話サービスの仕様をリードしていた携帯電話事業者が最優先していたのは既存の電話ビジネスであり、契約数でした。そして、携帯電話メーカーはその意向に沿って携帯電話を開発していました。また、携帯電話事業は情報通信行政に大きく影響を受けます。つまり、世界に先駆けたコンテンツビジネスの確立をしたものの、国内の関係組織間における忖度がスマホビジネスの拡大を抑制したと考えられます。逆に、アップル社は全くしがらみなく「電話を再発明」し、iモード事業のノウハウも参考にしながら、新たなスマホビジネスを生み出していきました。

当時の日本の携帯電話事業とアップル社のスマホの比較 図1:当時の日本の携帯電話事業とアップル社のスマホの比較        
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企業の時価総額ランキングを10年、20年単位でみると、その顔ぶれは大きく変わっていきます。アップル社のように革新的なビジネスモデルを生み出した企業が、古いビジネスモデルの大手企業に置き換わっていきます。日本経済の屋台骨となる製造業が競争力を高めていくには、価値あるビジネスモデルにつながるイノベーションが必要です。

m2202_2.jpg図2:イノベーション・プロセスとともに強まる批判・抑制
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イノベーション・プロセスを、新たなビジネス・アイデアの発見から、ビジネス設計、そしてアイデアの検証・孵化へと進めていくほどに、新たなアイデアやビジネスへの批判や抑制が強まっていきます。日本人は集団行動や調和を好み、日本企業も規制に守られ、業界秩序を重んじる面がありました。また、大学の研究グループによる実験では、日本人はアメリカ人や中国人などに比べ、他人の足を引っ張る傾向が強いとの結果が報告されています。日本には「出る杭は打たれる」とのことわざがありますが、アメリカ始め諸外国にはこれに相当することわざはないようです。

昔の国内市場中心、工業化社会ではプラスに働いた協調性や同質性は、グローバル市場、デジタル化社会では役立たないばかりかマイナスにもなり得ます。最近は日本でも多様性を受入れ、様々な価値観を大切にする風潮が出てきています。日本の製造業にとってDXそしてGX(グリーントランスフォーメーション)は待ったなしです。「異質を嫌う」考え方を見直し、出る杭は伸ばしつつ、どんどんイノベーションを進め、大きな成果が得られるようにしていきたいものです。

2022年2月

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