2024年05月01日
シェアリング・サービスがもたらす自動車産業の価値創造の大変革
この4月から日本でもライドシェアリングが限定的に解禁されました。自動車産業における100年に1度の大変革、CASEの一環である変革がシェアリング・サービスです。今回のコラムでは、自動車のシェアリングの昨今の動きとその意味について考察します。
図表1:CASEにおけるシェアリング・サービス
まず、自動車のシェアリングには、カーシェアリングとライドシェアリングの大きく2つの形態があります。自家用車を保有するには、車の購入費用に加えて、ガソリン或いは電気代、車検や保険、税金、駐車場代、消耗品交換など、相当の経費が掛かかります。では車をどれほど使っているかというと、仕事で毎日使っている人を除けば、恐らくほとんどの車が駐車場に9割以上止まったままです。とは言え、自家用車があれば、必要なタイミングで好きなところに出かける、目的地まで乗り換えなしで行ける、大きな荷物を運べる、自由に観光地を巡る、などとても便利で一旦所持してしまうと手放せません。しかしカーシェアリングであれば、予約すれば好きな時に好きな時間だけ自動車を使えるため、このジレンマを解決してくれます。レンタカーよりも気楽に短時間利用ができ、費用も安価で、カーシェアリングのサービス利用者数は年々増加しています。
図表2:車のシェアリング・サービス
(クリックして拡大できます)
もう一つのシェアリング形態であるライドシェアリングも、今後利用が増えていくと予想されています。最近はタクシーを使うとき、携帯の乗車アプリを利用する人が多いと思います。タクシー会社に電話して手配してもらうより簡便で、直ぐ到着時間が分かり、決済も簡単です。これまでタクシー会社に属する第二種免許を保有するドライバーが運転するする車のみ利用できましたが、このサービスを一般ドライバーや自家用車を使って提供するのがライドシェアリングです。カーシェアリングは利用者自身が運転するのに対し、ライドシェアリングは自動車の乗客として利用する点が大きな違いです。
日本では高齢化と都市部集中化に伴い、多くの地域で過疎化が進み、交通弱者の足の確保が問題となっていました。そこで、まずバス・タクシーがない交通空白地域限定で、営利目的ではない自治体運営のライドシェアリングが利用可能になりました。また、人口が増える都市部や多くの人が訪れる観光地では、時間帯や曜日によってタクシーがなかなか見つからないことがよくあります。その対策として、日本でも第一種免許しかもっていない一般ドライバーやその自家用車によるライドシェアリングが認められるようになりました。海外の国によってはかなり前から普及していたサービスですが、日本では自家用車を用いて実費以上の対価を得ることは道路交通法で禁止され、「白タク行為」として違法となってしまいます。しかしながら、最近はタクシー運転手の確保も難しくなってきたため、タクシー会社運営を前提とした「日本型ライドシェアリング」が、ようやく4月から地域限定で解禁されることになりました。
このように地域や台数まで細かく設定し、タクシー会社運営でタクシー料金と同じ制度を前提にして始まった「日本型ライドシェアリング」には批判の声が多く、今後更なる改革が進められていく見通しです。欧米やアジアなど諸外国ではIT会社が事業展開するライドシェアリングの世界の市場規模は、すでに500億ドル近くに達し、今後5年間は年平均12%で拡大していくと予想されています。さらに、将来自動運転とコネクティッドが本格化していくと、自動車のシェアリングは当たり前となっていくでしょう。自動車のライドシェアリング需要は、日本でも団塊の世代がそろそろ免許返納に向かいつつ、移動ニーズは逆に高まっていくため、一層高まっていくと思われます。さらに、脱炭素を進めていくためにも、シェアリングは推進していかなければなりません。
このような自動車の所有から利用へのシフトは、自動車産業の価値創出が、これまで注力してきたものづくりからコトづくりに移行することを意味します。自動車産業で100年に1度の大変革が起こっているといいますが、実は自動車産業自体がこれまで100年間変革を怠ってきたのかもしれません。市場は既に自動車の所有よりも利用の価値を重視してきているのに対し、自動車産業は技術的に優れた性能の自動車を製造し、安く買ってもらい、所有していただくことを前提としたビジネスモデルのままであったとの見方です。自動車のシェアリングで、既存の自動車産業に属さなかったIT企業やサービス会社が参入し、既にプラットフォームを築きつつあります。今後は自動車に止まらず、電車や飛行機など公共交通も含めた最適移動サービスの提供、さらに予約、決済を含めた統合サービスを提供するMaaS(Mobility as a Service)に発展していくと、移動関連サービスの主導権争いは一層熾烈になっていくでしょう。CASEの変革とともに自動車産業がどのようなビジネスモデルに変わっていくのか注視していきたいものです。
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