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2024年06月01日

グローバル&グループ環境下で基幹システムをどう配備するか

製造業では、企業の基幹システムは10年~20年サイクルで刷新されていきます。その刷新理由には、企業を取り巻く環境変化、事業ポートフォリオや新戦略などへのシステム対応や、システムのレガシー化への対策、先進IT技術の活用などが挙げられます。また、基幹システム刷新は、企業内に長年に渡って培われ、業務に組み込まれてきた価値あるノウハウや工夫を再認識し、継承していくための重要な活動であり、正に式年遷宮のように一定期間毎に実施すべきとの見方もあります。このように刷新の理由は様々ですが、基幹システム刷新に取り組むためには、まずその刷新方針を決めていく必要があります。今回は、製造業であれば必ず検討することになる重要な刷新方針の一つ、グローバル&グループ環境(以下G&G環境)での基幹システムの配備について考察します。

G&G環境下での基幹システム配備

図表1:G&G環境下での基幹システム配備

製造業の多くの企業は生産や販売、物流の拠点を海外に現地法人として配し、更に企業グループ内には、複数の事業と多くのグループ会社を抱えています。このため、ほとんどの企業が上図のような3軸からなるG&G環境下での基幹システム配備が求められます。まず、横軸の1つとなるグローバル軸では、各地域/極や国に対する基幹システム配備、縦のグループ軸では企業内の異なる事業やグループ会社への基幹システム配備です。そして、もう一つの横軸がカバーするのが、基幹システムに対する業務機能の配備です。これら3つの軸から、基幹システムを構成する、アプリケーション、データ、IT基盤の3つの層毎に、G&G環境での配備方針を決めていくことになります。
 
それでは、G&G環境における基幹システムの配備方式としては、どのような選択肢があるでしょうか?まず、グローバル軸から見た基幹システムの配備は、下図のように大きく4つの型が考えられます。

m2406_2.1.jpg図表2:グローバル軸から見た基幹システム配備の型
(クリックして拡大できます)

 
・グローバル集中型…グローバルでシステムを一元化
・地域/極集中型…欧州や米州、中国、東南アジアといった地域/極ごとにシステムを一元化
・複数層型…拠点の規模に応じて2種類のシステムに配備
・拠点分散型…拠点毎に個別のシステムを配備
 
各社の基幹システム配備は、恐らくこれら4つのどれかに相当すると思います。
これら配備の型は、ERPやスクラッチといったシステム構築方法とは直接関係ありません。とはいっても、グローバル機能や統合データベースを標準装備するERPの方が、“グローバル集中型”や“地域/極集中型”の構築・運用がし易いと言えます。また、グループ軸から見た型についても、グローバル軸と同様の見方ができます。

それでは、日本の製造業各社の基幹システム配備は、これら4つの型の中でどの型が多いのでしょうか?システム配備の型の割合に関する調査は、残念ながら見つけることができませんでしたが、恐らく“グローバル集中型”が一番少なく、“拠点分散型”が最も多いかと推察します。“グローバル集中型”で一元化を実現し、運用していくのはかなり難しいからです。確かに、“グローバル集中型”であれば、グローバルに広がるサプライチェーンの実態が即時に可視化でき、環境変化に応じたサプライチェーン最適化や、動的かつ速やかにその組み替えが可能となります。グローバルで一貫した事業戦略をスピーディに実行することができます。また、システム・アーキテクチャとしてもシンプルで、システムの保守・運用面でも集中的に、スケールメリットを活かして効率化できます。一方で、“グローバル集中型”の構築・運用には、本社主導の実行力や強力なリーダーシップ、そしてそれを可能にする十分な体制が前提となるため、実際に採用できる日本企業は限られます。

“グローバル集中型”は、10年~15年前にはグローバルシステム配備のベストプラクティスとしてよく紹介されていました。しかし、現在“グローバル集中型”のシステム配備を実現している企業の中には、次のシステム刷新では、「このまま“グローバル集中型”でよいのか?」との疑問が持たれています。例えば、グローバルで共通化とは言いつつ、各国の個別ニーズや大規模拠点の大きな声には結局対応せざるを得ず、段々システムは肥大化し、個別部分が増大していきます。それに伴い保守コストは高くなり、ビジネス変化への対応スピードは低下していきます。事業面においても、M&Aで新たに加わった関係会社やこれまでと大きく異なる新規事業に対して、既存のシステムをそのまま適用することは難しくなります。さらに、企業としては各地域や市場のローカル・ニーズ、そして各法規制にきめ細かく対応していく必要性が、今後益々高まってきています。

各社は今後基幹システム刷新を検討する際に、その配備型のあり方を改めて見直す必要があります。そして、そのときの検討すべきポイントは大きく2つあります。一つ目のポイントは、システム配備の型を今後の自社事業のガバナンス方針に合わせることです。例えば、米国企業によくみられるリーダーシップと強権に基づくガバナンス、地域の個別性を許容しつつ、標準化で足並みを揃える欧州企業のガバナンス、或いは独自のガバナンスなど、自社事業のガバナンスに合わせて、システム配備をしていきます。もう一つのポイントは、基幹システムを構成するアプリケーションやデータ、IT基盤で分け、さらに業務機能単位で、一元化/集中と個別化/分散の最適バランスを図ることです。
これまでの長期に渡るITの歴史を見ると、10年~20年サイクルで集中と分散の揺り戻しが起こってきました。基幹システム刷新を検討されている企業は、今後の自社におけるG&G環境下での最適な配備を見直す絶好の機会とされることを期待します。


2024年6月

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