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2022年04月01日

DXとコロナ禍で変わる雇用
~あなたはどの雇用形態で働きたいですか?~

長年、多くの日本企業は新卒一斉採用や年功序列を前提とする職能型雇用を採用してきました。継続的経済成長の終焉や少子高齢化などに対応するため、能力主義導入や年功制度見直し、抜擢人事など新たな制度が検討されてきましたが、職能型雇用そのものは大きく変わることはありませんでした。ところが、最近のDXやコロナ禍への対応が必要となったことで、職務型雇用形態へシフトする企業、また関心をもつ企業が一気に増えてきました。今回は、現在そして未来に向かい起こりつつある雇用の変化について考察していきます。

職能型と職務型の対比図表1:職能型と職務型の対比
(クリックして拡大できます) 

職能型と職務型の2つの雇用の違いを一言で表すと、前者は「就社」、後者は「就職」となります。職能型では新卒者は企業に一斉採用され、職務内容は限定されず、その後の異動や転勤も会社都合で定期的に行われます。賃金は社員の仕事の遂行能力を基準に算出されますが、その遂行能力の判断基準として年齢や勤続年数が大きな割合を占めます。対照的に、職務型は職務が限定され、新規のポジションや欠員が出たときに、市場基準の報酬で募集・採用します。

日本特有の雇用制度である職能型は、社員にとっては長く同じ企業に勤め続けると自ずと高給となる仕組みのなかで、安心して日々の業務を遂行できます。また、企業にとっては従業員確保、愛社精神向上につながります。一方で、昇進の遅さ、年功序列の賃金、生え抜き主義、そしてグローバル人事制度との差異など、様々な問題を抱えています。
実際に職務型にシフトするには、職種の洗い出しやグレード分け、詳細な規定などが、まず難作業となります。人事部のあり方、労使関係も変わります。評価・報酬制度を見直すだけでなく、社員が納得できるような現場レベルの運用にもっていくのは大変です。これまでも職務型雇用への転換が試みられてきましたが、日本企業に中々浸透してきませんでした。
しかしながら、昨今のDXやコロナ禍を契機に、日本企業の職務型へ関心が高まり、具体的に雇用制度を転換する企業が増えてきました。

DXとコロナ禍対応による職能型から職務型へのシフト

図表2:DXとコロナ禍対応による職能型から職務型へのシフト

今やどの企業もDXを牽引する高度専門人材が不足しています。人材獲得競争も熾烈で、魅力的な待遇を提示しないとなかなか採用に至りません。社内で確保できている高度専門人材も同様に、条件次第で他社に引き抜かれるリスクも高まっています。そこで、先行する企業は専門志向の強い人材に適した働き方や報酬を提供する職務型雇用の整備に、既に取り組んでいます。加えて、外部人材調達に頼るだけでなく、内部人材育成も強化していかねばなりません。適格な社外専門人材の獲得、そして社内人材の育成も進めていくために、自社が求める高度専門人材の役割・スキルを職務記述書に規定し、処遇条件などの制度整備に取り組む企業が増えています。さらにDXの促進には、社員が創造性を高め、イノベーションを創出する環境が重要です。従来の職能型制度下の人材だけで新規ビジネスモデルを企画し、立ち上げていくには限界があります。革新的なサービスや製品を生み出す様々な専門分野の人材や自律的に創造性を高めていける人材を確保できるように、改めて職務型制度に関心が高まりつつあります。

次に、コロナ禍で強制的にリモートワークや時間差出勤が進むことで、部下の業務管理や評価の難しさといった問題が顕在化してきました。職能型では部下の姿が見えないと難しい業務管理や評価が、職務型にすることで適切に行えるようになると期待できます。今後ウイズコロナになってもリモートワークは継続、或はもっと拡大していくでしょう。既に、雇用における勤務地や勤務時間の柔軟な制度を採り、働き方の選択肢を与える企業も出てきています。さらに、少子高齢化が進む日本で人材確保するために、企業は子育てや介護などとの両立を望む人材、外国籍の人材など様々なライフスタイル、価値観を持つ人を受け入れ、今まで組織内にはいなかった人材をうまく活用していかなければなりません。ダイバーシティ経営といわれる多様な人材の活躍には、仕事内容も最も得意な分野に特化させる職務型が効力を発揮します。

職能型から職務型への転換はけっして容易ではありません。採用・処遇・職務記述・評価・異動など人事のあらゆる面が変わるため、必ず混乱や抵抗を伴います。そこで会社として職務型に転換する目的を明確にし、その目的に沿った自社版職務型の制度設計が重要となります。最近職務型に転換したメーカー事例を見ると、自社のデジタル化推進やグローバル化の徹底が目的に掲げられています。自社のビジネスモデルを提案型サービスに変革していくための一環で、職務型に転換するメーカー例もあります。職務型への関心についての最近の調査を見ると、特に製造業では「職務価値と報酬が見合っていない」ことを課題とする割合が高く、労務費の適正配分のために職務型を検討している企業が多いようです。また、職能型から職務型に一気に転換するのは難しいため、職務型の対象を段階的に拡大していく方法が採られています。例えば、職責の分かりやすい管理職や、専門性の明確な研究職やエンジニア職などから職務型を適用していく事例があります。このように製造業では職務型への先行転換事例が増えつつあります。企業はそれらを参考に自社の雇用形態の見直しを進めると同時に、各個人は自分がどの雇用形態で働きたいのか考えてみることを是非お勧めします。

2022年4月

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