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2020年02月01日

「CASE」自動車に押し寄せる変革の波

自動車の周辺で、自動運転やEV化、カー・シェアリングなどの大きな変革が急速に進んでいます。自動車の100年に一度といわれるこれらの大きな変革については、当コラムでも何回か取り上げてきました。実はこれらの変革は個別に進んでいるのではなく、相互に関連しています。変革が他の変革の前提となり、将来の前提となります。これら変革を一体で表わすものとして、CASE(ケース)という言葉が最近よく使われています。今回はCASEによる変革の現状と今後、そしてそれらの変革がどのように関連しているのか考察してみます。
CASEという言葉は、もともとダイムラー社が2016年に発表した考えで、「Connected(コネクティッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリングとサービス)、Electric(電動化)」の頭文字を繋げたものです。CASEはダイムラー社の長期戦略ですが、自動車業界全体の動きと合致しているため、今では自動車業界共通のトレンドとなっています。
CASEの4つの変革について、それぞれの関係性は次のようになります。

自動車に変革を起こすCASE

図:自動車に変革を起こすCASE

図の上に位置付けられるのが「S」シェアリング&サービスです。米国や中国、シンガポールの大手ライドシェア企業が、既に世界中でサービスを提供しています。日本では法律が障壁となっていて、現在はタクシー会社の配車サービスに止まっています。今後、このシェアリング&サービスがより一層普及していくには、もっと運用コストを抑え、安全性を高めたサービスが求められます。そのためには運転手の人件費が不要になる「A」自動運転と、走行の安全性を高める「C」コネクティッドが不可欠です。車のシェアリングサービスが増えると、自動車販売に影響するため日本の自動車メーカーは慎重ですが、海外に目を向けると大手自動車メーカーが率先して、自動車や他の交通機関も含めた移動サービスを提供しています。

次に、「A」自動運転を見ると、最近の新車はほとんどがレベル2(部分的に自動運転)の衝突被害軽減ブレーキや前車追従機能、車線キープなどのアシスト機能が標準装備になっています。技術的には既にレベル4、レベル5の域に達しているようで、アメリカや中国では条件付きながら実用許可されています。こうして見ると完全自動運転はそれ程先の話ではなさそうですが、大きな課題となるのが法整備です。自動運転に関わる法律は国や州により異なります。世界でも法対応が最も難しい日本においてもこの2年で多くの実証実験が行われてきており、オリンピックを契機に法整備も一気に加速していく可能性もあります。今後、完全自動運転になると、車内からはハンドルやブレーキもなくなり、車内は「走るオフィス」、「走るリビング」など色々な使い方ができます。そのとき自動運転車の安全性や快適性、利便性は「C」コネクティッドが左右します。また、「A」自動運転に必要な車の制御スピードや自動運転ソフトの更新には、「E」電動化が前提となります。

3番目の「C」コネクティッドとは、一言でいうと通信機能です。これまでもGPSカーナビに通信は使われてきましたが、今後は自動運転用ソフトの遠隔更新や事故発生時の車からの自動通報など、双方向で大容量の通信にレベルアップしていきます。また、運転手と車の通信も進化していき、搭乗者の身体状況を車が把握しエアコンなどの調整もできるようになります。さらに車と車、車と道路間での通信も整備されていくことで、利用者にとってより安全で快適な運転が行えます。 高速走行している車との通信には高速・大容量が必要となりますが、今後普及していく5Gで解決されるでしょう。このような本格的に「C」コネクティッドを運用させるためには、車にかなりの電力が必要となります。多大な電力供給はガソリン車では難しく、「E」電動化が必須となります。

「E」電動化は、ガソリン車からEVへのシフトであり、地球全体の環境対策のために議論の余地はありません。各国は強制的に環境規制を定め、その基準は厳しくなっていきます。例えば、EUでは2021年より世界で最も厳しい燃費規制への対応が求められ、未達の場合は多額の罰金を支払わねばなりません。上記のように待ったなしの電動化ですが、これまで見てきたように、実は電動化は他の3つの変革の大前提となる、非常に重要な変革であることが分かります。

CASEが進んでいくと、車は走るスマホに似てきます。スマホは出現すると、あっという間にガラ携からスマホに置き換わりました。それだけでなく、音楽プレーヤーやデジカメ、ビデオ機器、書籍などの業界にも大きな影響を及ぼしています。更に、キャッシュレスやリテール金融で金融業界にもゲームチェンジを起しています。自動車のCASEが本格化すると、自動車業界だけでなく、関連のサービス業界、公共交通業界の既存枠組みを破壊してしまう可能性が十分あります。

日本の自動車は、現在「E」電動化以外の「C」コネクティッド、「A」自動運転、「S」シェアリング&サービスで海外自動車メーカーに後れを取っているようです。日本の自動車が、ガラ携ならぬガラ車となってしまうことなく、世界のCASEの流れを先導していくことを期待します。

2020年2月

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