社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2022年08月01日

車いすテニスの国枝慎吾選手を支えたもの
~多様性を尊重する環境とつながり~

テニスボール

テニスのウィンブルドン選手権、車いすの部シングルスで、国枝慎吾選手(38)が初優勝を飾りました。これまで4大大会のうち全豪、全仏、全米で何度も優勝し、悲願だった昨年の東京パラリンピックでも優勝を飾った国枝選手でしたが、2016年に初めて車いすの部が加わったウィンブルドンだけは頂点に立てていませんでした。これで4大大会とパラリンピックのすべてを制する生涯ゴールデンスラムを車いす男子史上初めて達成したのです。

国枝選手は9歳の時、脊髄腫瘍による下半身麻痺のため車いすの生活となり、11歳から車いすテニスを始めました。以前から野球をするなど体を動かすのが好きだったので、まず車いすバスケのチームを探したが見つからず。そこでテニスをしていた母親の勧めと、自宅から車で30分のところに「吉田記念テニス研修センター」があり、車いすテニスの教室が開かれていたので参加。するとテニス用の車いすに乗ってすぐに巧みに扱えたことから、最初はあまり気乗りしなかった車いすテニスを始めることになりました。
17歳から丸山弘道氏の指導を受けて、本格的に競技に取り組みました。丸山氏はその「吉田記念テニス研修センター」のジュニア担当コーチをしていましたが、国枝の才能を見抜いて、丸山氏も本格的に車いすテニスのコーチをするようになったと言われています。
地元・柏の麗澤中から麗澤高、麗澤大に進学、大学側のサポートもあり、2003年の全日本選抜車いすテニス選手権で初優勝。2004年のアテネパラリンピックに出場し、ダブルスで金メダルを獲得しました。卒業後は年間数百万にも及んだ遠征費の負担を理由に引退も考えましたが、同大学の職員として働き、サポートを得ながらテニスを続けることになったそうです。

ESGやSDGsなど企業の社会的責任が問われる中、ダイバーシティやインクルージョンに焦点を当てたさまざまな取り組みが進められています。企業における障がい者雇用の促進も、企業が持続的に成長し続ける上で不可欠な要素となってきています。
私が子どもの頃、車いすの生徒は体育の授業では見学が多かったように覚えています。でも国枝選手の場合、「吉田記念テニス研修センター」という車いすでもテニスをできる場所があったからこそ、世界の頂点に立つことができたのです。企業においても障がいを持つ人に対して「できないだろう」と決めつけず、その人の可能性を開花させる場を用意し、「できる」と信じて採用や配属を行う必要があるのではないでしょうか。

まずは、あらゆる人が働きがいを感じられる仕事や場所をつくり出すこと。そして、職場環境の改善を進め、働きやすさを高め生産性を向上させることが重要だと思います。実際、ある工場では車いす作業者の意見で初めて気付く改善ポイントが多くあり、その気付きによる改善が、健常者にもよい効果を生み出し、工場全体の生産性を高めることができているという話も聞きました。
さらに付け加えるならば、「健常者」、「障がい者」という言葉の壁を作らないことが大切だと思います。健常であっても障がいであっても、どんな人にも得手、不得手があり、必ず良い面があるはずです。例えば耳が不自由で手話を用いてやり取りする方々は、声が聞こえない騒音や距離という壁を越えてコミュニケーションができるというスキルを持っています。そういうことを理解した上で、障がい者と健常者は何も変わらないという価値観を持つことが、企業にとってとても大切なことだと思います。

国枝選手の最大の武器は俊敏なチェアワーク(車いす操作技術)と言われています。そのためウィンブルドンの芝生のコートは、全豪、全米のハードコートや全仏のクレーと比べて車いす操作が重くなり、チェアワークが難しく苦手としていました。そこでウィンブルドン8度の優勝を誇るフェデラー選手(スイス)に「グラスコートでどうプレーするべきか、グラスコートでビハインドの時にどう考えるべきか」のアドバイスを求めました。彼から「すべてのポイントを攻めるべきだ。ミスをしても後悔しない。それが大事なんだ」と言われ、ミスを引きずらすに常にアグレッシブに攻めることができたそうです。

また、いい試合をしても勝てないという壁にぶつかっていた2006年、全豪オープンでオーストラリア人のメンタルトレーナー、アン・クイン氏と出会い、「これからは『一番になりたい』じゃなくて『俺が一番だ』と断言するトレーニングを」という指導も大きな意味を持ったそうです。その結果、国枝選手は「試合中に出てくる弱気な自分に対して、ラケットに刻んだ『オレは最強だ!』のフレーズを見て口に出すと、そういう弱気がパッとなくなるんです」と述べています。

人がそれぞれぶつかる課題は一人ひとり違います。そしてそれぞれの課題に対する解決方法もみんな違うはずです。むしろ課題にぶつかった時に、誰かに相談してアドバイスを得たり、解決に向けて一緒に取り組んでくれたり、そんなつながりを持つことで、人は挑戦し続けることができるのではないかと、国枝選手の活躍を見て改めて感じた次第です。

2022年8月

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