社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2022年07月01日

プロスポーツの「地域密着」を考える
~デジタル田園都市国家を補う地方の魅力~

かき氷

トップリーグから名称が変わり、今年からスタートしたラグビー、リーグワンの初年度が幕を閉じました。コロナ禍に見舞われ、いきなり不戦敗が相次ぐなど波乱のスタートも無事にシーズンを終え、優勝は「埼玉ワイルドナイツ」。我らが「コベルコ神戸スティーラーズ」は7勝9敗で7位という結果でした。
トップリーグ時代との大きな違いは、チケット販売や会場設定などの運営を日本ラグビー協会ではなく、各チームが独立して行うこと。「地域密着」をうたい、企業リーグからの脱却を目指すため、チーム名には必ず地域名を入れ、企業名を入れることは任意となりました。
ところが興行権が各チームに移ったことで、人口の多い首都圏にホームタウンが集中する事態となりました。ディビジョン1の12チームのうち実に8チームが東京、神奈川、埼玉、千葉をホームとし、「東京サンゴリアス」をはじめ5チームの名前の中に「東京」の文字。さらに報道などでの略称では「東京SG」「S東京ベイ」「BL東京」「BR東京」と、一目見てどのチームかイメージできず、個人的には違和感の多い編成となりました。
最終順位でも首都圏のチームが上位を独占した1年目のリーグワン。来季以降、「地域密着」によってさらにファンを増やすためには、まだまだ多くの課題がありそうです。

サッカーのJリーグは「地域密着」をうたった先輩。こちらは発足当初から企業名は原則排除され、チーム名は「地域名+愛称」とされました。1993年に10チームでスタートし、現在はJ1からJ3まで58チーム。福井、滋賀などの7県を除く40都道府県にチームが存在します。「鹿島アントラーズ」や「ジュビロ磐田」など、それほど大きくない都市も地元企業の支援を得てチームを保持することができ、地域の活性化に寄与しています。
日本で一番メジャーなプロスポーツであるプロ野球は、「ヤクルト」「日本ハム」「ソフトバンク」「楽天」と基本、オーナー企業の名前をチーム名にしています。実際、NHKのスポーツニュースであっても毎日のようにその企業名が報じられ、オーナー企業のブランド力の強化や企業イメージの向上といった効果は絶大です。
その一方で「地域密着」も目指し、「北海道日本ハム」「東北楽天」「千葉ロッテ」「埼玉西武」「福岡ソフトバンク」など正式名称に地域名を入れている球団も多く、それぞれ地元で多くのファンを集めています。

地域名をチーム名にして「地域密着」を目指すためには、やはり地元企業がスポンサーとして地元のチームを支えることが基本になりますが、政治・経済など日本の「ヒト・モノ・カネ」の大部分が現在は東京に集中しており、企業の東京一極集中も止まる気配はありません。そのため首都圏以外の地域では、大企業の支店が集まったような都市になり、その地域に根付いて地元チームを支援しようという企業は少ないと感じています。日本ハムは東京から北海道に移して「北海道日本ハム」を名乗り、観客動員も増え、地元に愛される人気球団となりましたが、オーナー企業である日本ハムは大阪の会社。Jリーグでは地元セレッソ大阪を支援しているという微妙な現実もあります。

一方、新型コロナで人びとの生活は一変。デジタル技術を使って地方でも都市部と同じように仕事ができるようになりました。テレワークが奨励され、在宅勤務が普及、人びとの働き方も企業の考え方も大きく変わりました。
先日もNTTグループが、今年7月から約3万人の社員を対象に原則、勤務は自宅でのテレワークとし、居住地の制限をなくし、本社や支社などのオフィスへの出社を「出張扱い」とする新たな制度の導入を発表しました。
また岸田政権は、『デジタル田園都市国家』を目指すと宣言。地方からデジタルの実装を進め、地方と都市の差を縮めるとともに、地方活性化を推進するとしています。

しかしながら、デジタルを実装して都市と地域の間を結ぶだけでは、実際に地域の活性化はできません。その地域に人を惹きつける文化や雇用が欠かせないでしょう。
プロスポーツチームは地域の象徴として人々を惹きつけ結ぶ存在となりえます。試合会場に集まった人々が興奮や感動を共有して一体感を生み、人々に夢や希望を与え、地域の活性化を促進してくれる中心的存在になります。加えて、5GやVRなど最新のデジタル技術を用いて、地元ファンがどこにいても遠隔から試合会場と同じような観戦体験を楽しめるようになれば、その収入によって地域のさらなる発展も期待できるかもしれません。

地域名を名乗り、そこで試合をすればファンが増えるというものでもありません。地域から愛されるチームであり続けるためには、地域イベントへの参加やファンサービスも大切ですが、何よりもチームを強化する環境が重要です。選手だけでなくコーチやスタッフなど専門人材の確保、スタジアム、練習グラウンド、クラブハウスなどの施設の整備は雇用の創出につながります。地元チームを地域の公共財として企業が支援することで、ホームタウンが抱える社会課題の解決につながり、サスティナブルな地域社会も形成できると思います。

当社もデジタル田園都市国家構想において、ホームタウンである神戸にどんな貢献ができるのか、当社の未来を考えていきたいと思います。「コベルコ神戸スティーラーズ」が地元の皆さんに愛されるチームとなれることも願いながら‥‥

2022年7月

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