社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2019年03月01日

創業は易く守成は難し
~サービスインしてからの維持・発展の方が難しい~

メジロと梅

多くの日本企業が3月に会計年度を締めるので、今月は年度末駆け込み需要や基幹システムの本番稼働などでITサービス会社は多忙を極めます。人手不足は相変わらずですが少しでもお客様のITニーズにお応えし、生産性向上に貢献していきたいと思っています。

さて今月のテーマは主題にある「創業は易く守成は難し」としました。これは唐の太宗(李世民)が群臣と行った政治についての問答を編集した書『貞観政要:ジョウガンセイヨウ』での有名な議論です。「国や組織を創るのと維持するのとではどちらが困難か」という問いに、「(どちらも困難ではあるが創った後の今となっては)維持することの方が難しい」という結論に至るもので、ご存知の方も多いと思います。

このテーマにした理由は、最近の出来事で気になる兆候があったからです。具体的には顧客基盤の強化と言っているのに最重要のお客様から失注した事や、昨年の顧客満足度調査結果について、全体のスコアは向上したのですが、既存の重要顧客に絞って見ると少し低下した事を指しています。これらの原因を分析中ですが、お客様の対面の担当者は一所懸命に頑張ってくれています。でもお客様から見ると前進していない、変化がない事が不満につながっているのではないか、と危惧しています。ゆるみや甘えがあったとは思いたくないですが、お客様に信頼されるパートナーとして「お客様にとってなくては困る」「お客様と共に成長する」という当社の長期経営ビジョンを実現するのは容易ではなく、困難な道のりであるという事を自戒すべき示唆と真摯に受け止めました。

新しいお客様とビジネスをスタートしTrusted Partnerとしてお付き合いいただく事は簡単なことではありませんが、そのようなお客様からの信頼・満足・そしてビジネス関係を維持・発展していくことはもっと難しい事ですね。毎年リピートオーダーをもらい続ける難しさは、同じ事の繰り返しではお客様が満足しない事にあります。サービスレベルを常に上げ続けるとか、新たなサービスを提案するとか、何らかの変化が必要ですが、提供する側はネタ切れ、マンネリに陥りがちなのです。これを打破するには、個人では難しいのでチームで互いに刺激しあってCSを高める活動をする事を奨励しています。「しかし、ゴールは遠く長い、だからこそ長期経営ビジョンとして目指すのだ」と今更ながらに納得してしまいました。

この『創業は易く守成は難し』は様々な場面で使われます。上記の例は『新規顧客獲得vs既存顧客維持』でしたが、ITサービスではその他に『システム導入プロジェクトvs本番稼働(サービスイン)後のシステム維持・発展』が挙げられます。過去の私のコラムでプロジェクト導入の失敗事例や成功の勘所をテーマ※1にしましたが、それくらい導入は困難を伴うものです。しかし、それと同等以上にサービスインしてからの維持・発展の方が難しいと私は思います。

導入が難しければ難しいほど、スコープ変更やスケジュール延期で導入メンバーは疲弊し、とりあえずシステムをサービスインする事が目的となりがちです。それは即ち本来の導入目的や期待効果がなおざりになってしまうのです。そしてサービスインした後に、導入時以上のいくつもの困難が待ち受けるのです。具体的には、「新システムの安定運用までに数か月を要する」「導入企業側のメンバーが疲弊して休息期間を必要とし次ステップへ進めない」「導入時ほど潤沢な予算を維持には使えない」「導入サービス会社の導入チームから保守・運用チームへのメンバー引継ぎが十分でない」「導入時に多忙なのでドキュメント類の整備不足となり開発保守の生産性を阻害する」etc.で、当初の期待効果の実現には相当の困難を乗り越える必要があるのです。にもかかわらずトップや業務ユーザーから成果を問われ、厳しく追及されたりもします。もちろんサービスイン後に第2ステップ、第3と着実に目的を実現された例もありますが、そういったお客様も含めてサービスインしてからの維持・発展の方が難しいと言われるのではないかと思います。

弊社のようなITサービス会社にとって、システム導入サービスはフロービジネスであり景気の山谷で売上変動が大きいのですが、保守・運用サービスはストックビジネスであり安定した売上が見込めます。持続的成長をめざすなら後者に力点を置くべきなのですが、導入サービスを獲得しなければ保守・運用サービスはついてこない事が多い、また導入サービスの方が難しい、高いスキルが必要という思い込みで優秀な人材を前者に配置する傾向が弊社でも強いです。でもこれからは守成の方が難しく、ビジネスとしても重要なのだから、ここに注力して優秀なリソースを投入していくべきだと思います。そういう思いが背景にあり、弊社では冒頭に述べたような最需要のお客様には顧客担当営業、SE、役員、保守運用のデリバリーチームをセットでクライアントパートナーチームとしてアサインしています。ちなみにこれらのチームは弊社のエースチームです。弊社の長期経営ビジョンでは、創業vs守成に相応して新規顧客vs既存顧客、フロービジネスvsストックビジネスを意識しており、顧客基盤の強化、お客様と共に成長を目指しているのも同じ思いからです。しかしながらゴールは遠い、まだまだ道半ばです。

<蛇足>ところで創業は易く、のくだりなのですが、貞観政要の問答のどこをみても創業が易いとは記述されていません。どちらも困難だが、守成の方がより困難と言っているだけです。どちらが易しいか、なら創業の方が(勢いでできるので)易しいという事なのでしょうが、この創業は易く、のくだりだけを見れば創業は簡単と誤解されてしまいそうですね。一般的には創業の方が困難と思い込みがちなので、あえて逆説的にインパクトを与える意味でこういう言い回しにしたという考えもありますね。誰がこのくだりを作ったのでしょうか、ご存知の方は教えてください。

※1:プロジェクトマネジメントの勘所
https://www.kobelcosys.co.jp/column/president/20170801/

2019年3月

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