社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2017年08月01日

プロジェクトマネジメントの勘所
~『八甲田山死の彷徨』からの教訓~

かき氷

今年は梅雨明けも早く、たいへん暑い夏となりました。オフィスにいるとエアコンがあるので気になりませんが、外回りをする身にはとてもつらい季節ですね。一方で、夏休み前にビジネスの芽をどれだけ育てるかで年末の果実を得られるので、この時期の外回りは大切で欠かせません。私自身も含め、夏バテで体調を崩さないよう気をつけたいものです。

そんな暑い時期ですので逆に寒い想像をしてみようと思いつき、厳冬での雪中行軍の史実を小説にした新田次郎の『八甲田山死の彷徨』を読み返してみました。この本は映画化もされたのでご存知の方も多いと思いますが、私が日本IBMで静岡営業部長をしていた1990年代後半にお客様のCIOから薦められて読んだものです。日露戦争前に日本陸軍が厳冬の雪中行軍を想定し、冬の八甲田山を青森側と弘前側から2つの隊が踏破するという試験研究の史実に基づくもので、プロジェクトを導入する際のマネジメントとリーダーシップについて、学ぶべき点が多々あります。

私の人生の中でも印象に残る本の1冊になっていますので、あらためて読み返したのですが、零下10度から20度の中で吹雪や深い雪に全身が埋もれ泳ぎながら前進するというのは、想像するだけで身が震えます。現地の村民や猟師が「厳冬の八甲田山へ向かうのは死にに行くようなものだ」というくらいの困難なプロジェクトを、どのように計画し、チーム編成し、遂行していくのか。青森、弘前の2チームそれぞれの準備や計画、チーム編成、それらについての上司とのやりとりなどが対比され、興味深く描かれています。

この試験研究の雪中行軍をプロジェクトマネジメントの観点で捉えると、いくつかの「はずしてはいけない勘所」が浮かび上がってきます。プロジェクトの意義/目的、プロジェクトのリスク把握、成功へのプロジェクトマネージャー(PM)の覚悟、計画と準備、体制構築、チームへの覚悟の浸透、修羅場でのリーダーシップ、PMとその上位マネジメントの信頼関係…。これらをひとつずつ解説していくと一冊の本になってしまいますし、現にそういった本も出版されていますのでここでは触れませんが、過去に失敗したプロジェクトや日経コンピュータの人気連載「動かないコンピュータ」などの事例をみると、必ずこれらの勘所のいずれかに問題があります。逆にいえば、これらを押さえれば失敗しないわけですから、PMを目指す人、担当する人には一読をお勧めします。

でも本当に読むべきは、PMの上位マネジメントやプロジェクト・オーナーと言われる経営層であると、あらためて読み返して強く思いました。プロジェクトの成否はトップが現場を信頼し、現場からのリクエストやエスカレーションの内容を理解してそれに応える事に尽きると思います。そのためには、トップがプロジェクトの意義、困難さやリスクを理解し、それを遂行できるPMを見極めることが必要になります。文面にすればその通りだと思いますが、実際は、トップにとっても簡単なことではありません。自身を振り返っても、それができずに後悔したものがいくつかあります。だからこそ、今後、案件を成功させるためには、トップ自らがその役割を果たしていかねばなりませんね。

ところで、この雪中行軍で200人近い凍死者を出したのに、その責任は現場のPMとそれを混乱させた上位マネジメントのみにかぶせ、陸軍の上層部には及んでいません。マスコミは当初、この遭難に大騒ぎだったようですが、軍部のマスコミ操作もあり最後は美談化して終わっています。事実を隠蔽しマスコミを操作して正当化しようとしたところなどは、最近の永田町、霞が関を連想します。雪中行軍の教訓は活かせず何も変わっていないのかもしれませんね。我々民間企業はコンプライアンス遵守の潮流の中で正しい事をやることが根付いてきました。自分の手の届く範囲は、この教訓を活かしたいものです。

2017年8月

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