社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2019年02月01日

IT人材の市場流動性
~IT業界の人材ネットワーク(N/W)は信用が一番、キャリア転職は人事異動のようなもの~

雪間草

2月に入り正月気分も抜け、当社も新体制にて2019年度のビジネス目標達成へ本格的に動き始めました。本年度は組織と担当する役員の配置を大きく変えています。これがお客様や社員からみて良い方向に向かっていると信じていますが、その評価には少し時間をかけてみるつもりです。

さて年初は例年通りお客様やパートナー企業への新年のあいさつ廻りをしましたが、今年はどこも人材不足が話題となりました。これはIT人材に限らず製造、金融、流通サービス業などもそうで、「日本の労働人口減少が始まりつつあるのかな」と思うくらいでした。その中でも特にITサービス業に於ける人材不足は深刻さを増している感があります。IT人材は、IT会社はもちろんですが、ユーザー企業のデジタル時代の競争力Upや製造業のIoT商品開発向けのニーズも高まっており、キャリア転職市場でも売り手市場になっています。そこで今月はIT人材の市場流動性について考えてみました。

キャリア人材市場には多様な業種のニーズがありますが、そのなかではIT産業はボリュームも流動性も高いと思います。それは、必要とされる専門性、スキルが個社固有ではなくインフラ技術やPMスキルなど汎用性の高いものだからでしょう。コンサルタントやアプリ開発では製造や金融などの業界知識も必要となりますが、それでも個社ではなく業界共通なのでJava系、ERP系など汎用的なソリューション体系がある人材市場は大きく流動性も高いのです。

こうした背景からIT業界に入った人は会社に就社するのではなく、IT業界に就職すると言った方が正しいくらいに今後は流動化していくのではないでしょうか。そのような中で有能な人材を自社に引き留め続けるためには、『自社にいる価値は何か』を意識して打ち出さねばなりません。かつてはキャリアプラン、人間関係が転職動機の上位だったのですが、今は人間関係に加えてやりがい、処遇、会社の将来性、労働環境、自己成長の機会などが上位を占めています。

当社では社員満足度調査を毎年実施しており、一定の目標スコアを達成してはいるのですが、会社への帰属意識に関する項目では下降傾向となっています。これはIT人材市場が売り手市場なので仕方のない面もあるのですが、そうは言っても人材の流出に歯止めをかける必要があるので、社員と経営陣との対話機会や処遇の向上、そして働き方改革や人材育成への投資などの施策を打ち出しています。これらによって、Outを抑えるだけでなく、外部から見て魅力的な会社であることをアピールしてInを増やそうという目論見なのですが、即戦力のキャリア採用はなかなか思うように量、質を確保できていません。これから2025年の崖※1やSAPバージョンアップなどで2020年から2025年をピークにIT人材の不足が顕著になることは明白ですが、一方でキャリア採用はパイの奪い合いだけで思うように増やせないので、結局は新卒者の採用を増やして急がば回れで育成し、ピークまでに戦力にするしかないのかなと考えています。

話を戻しますが、人材の流動性ということで日本IBMの例をあげましょう。日経コンピュータなどでよく話題になっていますが、日本IBM出身者が外資系日本法人のトップポストの供給源になっていますね。これらはIBMの役員や理事クラスの人材が中心なのですが、それより下位のマネジメントでもIT人材市場ではIBM出身者の人気は高いです。これはどうしてかというと、教育体系や、目標管理、キャリアプランなど人材育成のしくみがしっかりしていること、そしてITスキル教育だけでなくITサービス会社としての業務遂行プロセスが成熟しているので、どこへ転職しても業務品質が高く即戦力になるからです。ただ、誰でも即戦力になれるのではなく、そこには一定の基準が存在すると私は考えています。それは何かというと、IBMのなかで一芸において一人前になっている事です。IBMにおいて、ある一定以上の職位、つまり一人で仕事が遂行できるマネジメント職位まで昇格していれば、IBM出身者はどこに行っても何をやっても大丈夫なのです。逆にそれ以前の職位で転職した場合は、何かに不満を持って辞めるケースが多く、そうした人はコミュニケーション能力やEQにも課題があり転職先でもうまくいかない事もあるようです。なので、辞め方、辞め時は重要なチェックポイントですね。

IT業界における転職は見方にもよりますが人事異動のようなものだと私は考えています。トップや営業担当役員間の交流も盛んな業界なので、広い様で案外狭い人材交流N/Wができています。このN/Wでは信用が一番大事です。過去の苦しいときに助けてくれたのか、不義理をしたのかで、その後のビジネス関係や人材交流に大きく差が出ます。個人のキャリア転職も同様で、辞める会社の仲間が気持ちよく送り出してくれるか否かが重要です。前職での仕事ぶりの評判や信用が転職の採用可否にも影響します。今のところで十分に貢献し、次の職場でキャリアアップにチャレンジする人なら皆応援するでしょうし、もし何かの縁で戻ってきても喜んで受け入れるでしょう。こういった良い形で当社を去った社員がまたコベルコシステムで働きたいと思ってくれるような会社でありたいですし、そうした社員を積極的に受け入れたいと思います。また、当社から離職を検討している社員には、「外でもやっていくだけの力量はついたのか、今のチームに恩返しはしたのか」を問うてみてOKなら気持ちよく送り出したいと思います。まさに人事異動ですね。

※1:デジタル・トランスフォーメーション(DX)と「2025年の崖」
https://www.kobelcosys.co.jp/column/president/20181201/

2019年2月

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