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2014年11月01日

イノベーションと ものコトづくり

企業成長の原動力として、イノベーションの必要性はこれまでも盛んに叫ばれてきました。最近、イノベーションは企業が生き残るための条件とも言われています。世界各地の1500人の経営者を対象にした調査(図表1)を見ても、イノベーションを最重要課題の上位3位以内に位置付ける経営者は、ここ数年は年平均5%ずつ増加し、2013年で77%に達しています。日本においても、IT産業や製造、金融から流通、サービス、農林水産業まで産業に関係なくイノベーションは共通の重要課題となっています。中でも資源の限られた日本の基幹産業であり、厳しいグローバル競争に直面している日本の製造業こそ、最もイノベーションが必要とされているのではないでしょうか。

図表1 自社の経営上の課題におけるイノベーション・商品開発の優先順位

20世紀後半にはイノベーションは「技術革新」と訳されていましたが、昨今は技術革新だけでイノベーションは成り立ちません。イノベーションは商品やサービスが革新的であると同時に、新たな価値を創出することが実現の条件となります。どんなに斬新な技術革新であっても、それだけではイノベーションを実現したことにはなりません。技術革新を価値創出に結びつける部分こそがイノベーション実現の難しさといえます。

図表2に示すイノベーションの国際比較をみると、イノベーションを実現している日本の企業の割合は欧州の国々に比べて劣後しています。日本でも多くの企業がユニークで価値の高い商品を創り出してきましたが、日本の経済規模に比べるとその数はもの足りないと見ることができます。例えば、「ガラケー」と言われた携帯電話も様々な技術革新から生まれましたが、iPhoneやLINEのように、利用者が使いたくなる魅力的な価値を提供するものではありませんでした。日本の家電メーカーが力を入れた3Dテレビも、新たな市場を確立するところまで至っていません。以前のコラムでも述べたように、日本メーカーはものづくりで成長市場を追い掛けることは得意でしたが、コトづくりで新たな市場を創出することは苦手でした。イノベーションが「技術革新」と同義に使われてきた実態が、日本メーカーのイノベーション実現のもの足りなさの一面を表しているように思います。

図表2 イノベーション実現割合の国際比較

イノベーションにも色々な分類があります。図表2に出てきた「プロダクト・イノベーション」と「プロセス・イノベーション」はよく使われる分類で、イノベーションを実現する段階からの分類です。プロダクト・イノベーションは、機能や性能、デザイン等の製品の開発段階で実現するイノベーションで、自動車やコンピュータ、半導体の開発は「プロダクト・イノベーション」の例といえます。一方、プロセス・イノベーションは、製造方法や生産技術の工夫等により製造段階で製造コスト低減や生産性の向上などを実現するイノベーションです。有名なトヨタのカンバン・システムは、プロセス・イノベーションの一例です。

また、イノベーション実現により生じる変化の度合いから「ラディカル・イノベーション」と「インクリメンタル・イノベーション」に分類されることもあります。前者は非連続的で画期的な変化をもたらすイノベーションであり、後者は連続的で漸進的な変化をもたらすイノベーションです。これまで日本メーカーは、総じて「ラディカル・イノベーション」よりも「インクリメンタル・イノベーション」で競争力を高めてきたと考えられます。しかし、近年益々厳しさを増すグローバル競争や新興国からの新たな競合メーカーの台頭に対応するためには、「ラディカル・イノベーション」にもっと注力していく必要があります。そのためには、技術革新というものづくりだけに頼っていては限界があり、コトづくりによる価値創出が不可欠なものとなります。

最近、欧米先進国では、イノベーションを促進して製造業を強化しようとする取組みが見られます。米国ではイノベーションによって世界をリードするために、新しい製造業を創造したいと動き出しているようです。国としての成長戦略にイノベーション促進は不可欠であり、そのためには製造業の再興が必要との考えです。ドイツでは主要メーカーがネット技術を活用した新たなビジネスモデルで製造業のイノベーションに取り組んでいます。一方、日本では「イノベーション」という掛け声はよく聞くのですが、日本の成長戦略には製造業に関する具体的なビジョンは見えてきません。製品やサービスの需要は必ず飽和していきます。日本が成長していくためには、日本のメーカーはものづくりとコトづくり一体でイノベーションに取り組んでいく必要があると考えます。

次回はイノベーションのプロセスについて話します。


2014年11月

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