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2014年12月01日

イノベーション・プロセス
早目の失敗を求めて!?

経営者が、社内に向けて、「イノベーションを実践せよ」といくら唱えても、また、社外に向けて「当社はイノベーションにより、革新的な商品を提供します」と恰好よくメッセージしても、イノベーションを実現する仕組みがなければ単なる掛け声に終わってしまいます。一般に仕組みとは、プロセスや組織体制、ルール、人の能力、ITなどを指しますが、今回はこのイノベーション実現のための仕組みの中から、プロセスをテーマにします。

前回のコラムで、イノベーションには、非連続的で画期的な変化をもたらす「ラディカル・イノベーション」と、連続的で漸進的な変化をもたらす「インクリメンタル・イノベーション」があると述べました。日本のメーカーはこれまで新製品や新モデルを次々市場に投入してきましたが、ほとんどが漸進的な「インクリメンタル・イノベーション」で、画期的な「ラディカル・イノベーション」があまり見られないのが課題です。そこで今回は、日本企業がこれから注力していきたい「ラディカル・イノベーション」に焦点を当てて、イノベーション・プロセスを見てみましょう。

まず、そもそも「イノベーションを実現するプロセスは存在するのか?」、あるいは「イノベーション・プロセスは必要なのか?」と疑問をもつ人もおられるでしょう。確かに少し前までは、イノベーションは特別な才能をもつごく限られた人のひらめきや、外からは奇人と見られる人の思いもよらない発想から起こるものであって、プロセスのように手順を踏むことで実現できるものではないと考えられてきました。イノベーションは人の感性や発想に依存する、一見アートの世界のようにも見えます。また、実際にイノベーションを担うべき人は、開発部門に代表される企業の中のごく一部に限られていると思い込んできたようです。 

しかし、近年はいろいろなイノベーション・プロセスが提案され、一般の書店でもイノベーション・プロセスに関する書籍をよく見かけるようになりました。このように、広くイノベーション・プロセスが求められ、盛んに提案されるようになった背景には、今まで以上にイノベーションが企業の重要課題になってきたこと、そしてイノベーションを担う人が企業内の特定の人に留まらず、様々な立場の社員に広がってきたことが考えられます。

これまでに提案されたイノベーション・プロセスをいくつか見てみると、定義の仕方や表現方法は異なるものの、本質的にはかなり共通点が多く、概ね図1に示すようなプロセスで表せます。このイノベーション・プロセスは大きく4つのステップから構成され、前半の3つでアイデアを発見、設計し、4つ目でアイデアを検証、孵化させる流れになります。

図1 イノベーション・プロセス例

この4つのステップを見ると、「ラディカル・イノベーション」ではアイデアを発見、設計する3つ目までのステップが大切だと思いがちです。しかし、例えば、スマートフォン事業でアップル社や韓国メーカーに大きく遅れを取った日本メーカーも、実はスマートフォンの技術やアイデア自体は早くから持っていたと言われています。とすれば、日本メーカーが不得意なのは、むしろアイデアを検証、孵化する4つ目のステップの方かも知れません。

あるアイデアが、ラディカル・イノベーション・プロセスを通して新たな市場が創出できると検証されれば、そのアイデアはマーケティング・プロセスに引き渡され、インクリメンタル・イノベーションで市場拡大を図っていき、続いてものづくりプロセスで収穫にもっていきます(図2参照)。

図2 イノベーション・プロセスと後続プロセス

しかし、ラディカル・イノベーション・プロセスの実態を見ると、まだ存在しない市場は容易に創り出せず、既存と全く異なる新技術や新ビジネスモデルがもつ未知のリスクに阻まれ、ほとんどのアイデアはプロセスの途中段階で中断または見直しされることになります。このように、イノベーション・プロセスでは失敗が大きな痛手とならないように、「早く失敗する」ことが求められるのです。

このためイノベーション・プロセスの実行は、実際には順次実行型ではなく、何度も繰り返しが行われるスパイラル型またはトライアル&エラー型となります。つまり、イノベーション・プロセスは、ステップを手順通り行っても成功を保証するものではなく、成功のための確率を高めるガイドと見ることができます。

「イノベーション実現はかくあるべき」といった実践的なプロセスや方法論が多く世の中に出てきています。日本メーカーが価値の高いものづくりをしていくためには、自社を取り巻く市場環境と自社特性を加味した最適イノベーション・プロセスを確立していくことが必要と考えます。

次回もイノベーションの仕組みについて話します。

 

2014年12月

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