ものづくりコラム 設計、生産管理、原価管理などものづくりに関するトピックを毎月お届けします。

2014年10月01日

コトづくり3.0

過去60年、マーケティングの世界では様々な理論やコンセプトが考えられ、進化してきました。例えば、前回までに紹介したマーケティングミックスや4P、4C、セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング等はそのごく一部です。今回は、マーケティングの大きな変遷を捉えるために、マーケティングの第一人者であるコトラー教授が2010年に提唱した「マーケティング3.0」を見てみましょう。(「図表1 マーケティングの変遷」参照)

図表1 マーケティングの変遷


  • マーケティング1.0
    大量生産、大量消費の時代は製品中心のマーケティングで、製品をマス市場に売り込むことや、自社製品の機能がいかに優れているかを訴求することが重視されました。高度成長期や新興国において、マスマーケットに製品を売り込む「プロダクトアウト」指向のマーケティングで、自社製品の機能がいかに優れているかを訴求することが重視されました。この時代はニーズも顕在化していたので、マーケティングも製品を発信するマスコミュニケーションで十分でした。

  • マーケティング2.0
    インターネットやPCの登場により、お客様が十分な情報をもち、類似品の比較ができ、お客様自身が価値を決められるようになりました。マーケティング活動はお客様志向へと進化し、他社との差別化がマーケティング・コンセプトです。このため、お客様のニーズを汲み取るマーケットリサーチやセグメントの細分化を重要視し、お客様へのきめ細かな対応を目指していきます。ITツールの活用により、お客様の購買分析や注力すべきお客様を絞り込むことができるようになりました。このマーケティング2.0では、企業にとってお客様はあくまで受動的なターゲットです。しかしながら、日本のような成熟社会では、製品の性能や品質は既に高いレベルにあり、顕在ニーズはほぼ充足され、差別化はなかなか難しい状況です。また、市場セグメントを細分化し、ターゲティングを狭めれば狭めるほど、マーケットサイズは小さくなり、大きな成長戦略に繋がりません。このように最近はマーケティング2.0の限界が見え始めてきました。

  • マーケティング3.0
    現在登場しつつあるのが、価値主導のマーケティング3.0です。製品の使用やビジネスモデルを通してお客様が共感を得られるような価値提供を行っていきます。ソーシャルメディアやモバイルに代表される社会のデジタル化により、個人の発言力が飛躍的に高まり、企業と個人の関係やコミュニケーションのあり方が大きく変わりつつあります。個人の行動履歴がデータ化され、さまざまな形で顧客情報が収集できるようになり、企業はITを活用することで個人一人ひとりを知り、親密な関係作りができるようになりました。このマーケティング3.0では、お客様は受け身ではなく、企業に対して積極的にフィードバックすることができ、企業は顕在化しているニーズを見抜くこともできます。また、グローバル化や社会・経済環境における激しい変化や混乱にさらされ、価値観が大きく変わり始めている中で、お客様は自分たちのニーズを満たす製品だけではなく、精神的価値を求めています。企業はお客様の共感を得られるような情報発信や様々な場を提供し、企業とお客様が協働して価値を創造し、企業としてのブランディング強化につなげていくことが求められます。

3つのマーケティングを価値提案の観点から比較すると、1.0は機能的価値を提案し、2.0ではこれに感情的価値を付加し、3.0では更に精神的価値を付加していくことになります。見方を変えると、マーケティング1.0はものづくり中心であり、2.0と3.0はどちらも「ものづくり+コトづくり」のマーケティングと見ることができます。さらに、2.0と3.0の違いを言えば、マーケティング2.0のコトづくりはお客様のハート(感情・好き嫌い)に訴える製品デザインやサービス、ソリューション等であるのに対し、マーケティング3.0ではお客様のスピリッツ(精神・生き方)レベルの共感を得るため、ブランディングやビジネスモデルによるコトづくり、いわば「コトづくり3.0」が求められると考えられます。

成熟市場で厳しい競争状態にある日本メーカーは、本来マーケティングが最も必要とされるはずです。日本のメーカーは表層的なニーズへの対応で製品改善し、マスコミュニケーションするマーケティングに止まることなく、マーケティング3.0そして「コトづくり3.0」に取り組んでいくべきではないでしょうか。

次回はイノベーションをテーマにする予定です。


2014年10月

ITの可能性が満載のメルマガを、お客様への想いと共にお届けします!

Kobelco Systems Letter を購読