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2022年09月01日

DX推進にIT部門はどのように関わるべきか

製造業において、DXに本腰を入れて取り組む企業が増えてきています。とは言っても、DXをうまく推進できているのはまだ5社に1社程度の割合に止まり、金融や流通、建設などの他業界に比べるとやや遅れています。DXがうまく進まない主な理由として、まず人材・スキル不足、そして推進体制の不明確さが挙げられます。このため、デジタル人材の強化とDX組織の確立についての考え方や意見が色々提示されていますが、ここではIT部門がDX体制確立、デジタル人材育成にどう関わっていくべきかという観点から考察してみます。

まず、企業におけるDX推進体制については、まだ半数以上の企業がDX組織を設けていません。一方、既にDX推進体制を設立している企業は、IT部門にDX機能を持つ、業務部門に設ける、そして経営直下の組織を新設するという3つのケースがあります。

DX推進体制の3つのケース

図1:DX推進体制の3つのケース

金融や小売業では業務部門にDX組織を設ける企業の割合が多いのに比べ、製造業ではIT部門に機能を持たせる企業が多く、DX推進の主導を期待されています。確かにIT部門はテクノロジーに強いのですが、いくつか課題があります。先ず、IT部門はシステム活用や運用という点で他のどの部門より長けているのですが、基幹システムを中心としたSORシステム(正確に記録することを重視したシステム)に軸足を置いてきました。ところがデジタル化の対象となるSOEシステム(人とのつながりを重視したシステム)やSOIシステム(洞察を得るためのシステム)については業務部門に任せ、距離を置いています。IT部門がDXを推進していくには、苦手としていたSOEやSOIシステムに、積極的に取り組むことが求められます。

もうひとつの課題として、IT部門は労力の大半を既存システムの保守運用に費やしており、DX推進という新たな役割に割ける余力があるのかも疑問です。日本のIT部門は欧米と比較すると、ITベンダーに依存する割合が高くなっています。しかしDX推進は社外ベンダー主導では進められません。今後、企業におけるDX推進の主役を担っていくには、IT部門の活動領域を、新たな領域へ大きくシフトしていくことが不可欠です。

課題ばかりではなく、IT部門には他部門にないDX推進役として相応しい面があります。1つ目は、IT部門は基幹プロセスの設計・構築に長年従事してきたため、部門横断で業務を見ることができます。“組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化を進めていく”DX推進においては、IT部門はこれができる唯一の部門です。もし金融業のように“顧客起点の価値創出のための事業やビジネスモデルを変革する”DXを重視する場合は、業務部門にDX推進機能を持たせるケースがよいでしょう。2つ目は、DXの価値の源泉となるのはデータであり、そのデータを全社的に活用できるように適切にマネジメントできるのもIT部門以外にありません。

次に、デジタル人材育成へのIT部門の関わり方について見ていきます。デジタル人材の育成については前回のコラム※1でも考察しました。人材育成策の企画・実行は、カリキュラム整備、OJTの場の提供や指導者の任命、そして受講の動機付けなど、様々なノウハウと多くの労力を要する全社的プロジェクトとなります。このため、IT人材育成には人事部門とDX組織にIT部門が加わり、三位一体で環境づくりと運営を行っていく必要があります。
では、IT部門に属する人材、いわゆるIT人材は、デジタル人材の即戦力として活躍が期待できるのでしょうか?DX推進のリード役を果たしていくハイエンド或いはミドルエンドのデジタル人材は、変革マインドやデジタル技術、デジタル化の進め方のスキルの保有が求められます。しかし、恐らくどの企業でもこれらのスキルを兼ね備えたIT人材はごく限られます。従来のテクノロジーは得意でも、AIやIoTとなると不得意な人材がほとんどでしょう。要件定義やデータベース設計は経験してきたIT人材も、デザイン思考やデータサイエンスとなると未経験に近いと思われます。

IT人材とデジタル人材

図2:IT人材とデジタル人材

実は、DX推進が騒がれる以前から、IT人材は「高度IT人材」や「先端IT従事者」へ質的転換すべきであると推奨されてきました。例えば「高度IT人材」の一つであるストラテジストなら、デジタル人材としての「デジタル化の企画・立案・推進」は実行可能です。また、AIや機械学習に明るい先端IT従事者であれば、「データ活用の企画・立案・推進」に対応できます。IT部門内には、デジタル人材としても活躍できる「高度IT人材」や「先端IT従事者」は何人かいるものの、大半は従来型のIT人材であり、デジタル人材となるにはスキルアップが条件となります。

このようにIT部門が積極的にDXに関わっていくには、活動領域を大幅に変更し、そこに属するIT人材も質的転換を求められます。DX推進体制がIT部門以外に置かれるケースであっても、やはりIT部門は頼られることになります。しかしその期待に応えられなければ、DX推進の蚊帳の外に置かれることになるでしょう。IT部門そしてIT人材が覚悟を決めて新たな姿を宣言し、迅速にトランスフォーメーションしていくことを期待します。

※1:デジタル人材育成を進めるための3つのポイント
https://www.kobelcosys.co.jp/column/monozukuri/20220801/

2022年9月

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