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2022年08月01日

デジタル人材育成を進めるための3つのポイント

最近、デジタル化に本格的に取り組もうとする企業が増えてくるとともに、社内のデジタル人材(DX人材)不足への対策が急務となっているようです。人材を確保するには社外から採用することもできますが、多数の人材となると外部雇用には限界があります。さらに、デジタル化の取り組みには社内業務に精通した人材が望ましいため、各社は社内の人材育成に注力し始めています。今回は、デジタル人材の育成を進める際のポイントについて論じます。

育成対象のデジタル人材

育成対象のデジタル人材表

図1:育成対象のデジタル人材

デジタル人材育成の最初のポイントは、対象とすべきデジタル人材です。各社のデジタル人材の取り組み例を見ると、上図のように、大きく3つのデジタル人材層が考えられます。最上位がハイエンドのデジタル技術やデータ活用に精通したコアとなる人材です。その下に位置するミドルエンドの人材は、各部門において業務内容に精通しつつデジタル技術で何ができるかを理解していることが基本であり、その上でデジタル化の取り組みをリード、実行を担う人材です。企業内では、これらハイエンド、ミドルエンドのデジタル人材が中心となってデジタル化を進めることになりますが、その取り組みを社内に展開していくには彼らだけでは不十分です。基礎的なデジタル化のマインドやベーススキルを身に付けた、エントリー層のデジタル人材まで広げて、社内全体を底上げする必要があります。デジタル化を成功させるためには、社内の慣行や組織文化、人の考え方を変えていくことが不可欠であり、そのためには全社員のデジタル人材化が求められます。このように、まず注力すべき育成対象はミドルエンドの人材であり、その上で、エントリーレベルの人材の育成も対象になっていきます。

2番目のポイントは、デジタル人材を育成するためのカリキュラム内容です。育成対象者が持つ業務ドメインの知識やノウハウに加えて、デジタル化のスキルを身に付けていきます。日本でDXが騒がれだして数年、当然体系的に整備されたカリキュラムはまだ世の中に存在しません。デジタル人材不足は欧米に比べ日本が最も深刻なため、海外のカリキュラムもあまり目にしません。しかも各社によりDXの定義は異なり、DXビジョンとして目指すものも様々であり、デジタル人材に期待する役割も同じではありません。そのため、デジタル人材の育成カリキュラムについては各社がそれぞれ試行している状況です。

デジタル人材育成カリキュラム

デジタル人材育成カリキュラム表

図2:デジタル人材育成カリキュラム

既にデジタル人材育成を先行している事例をみると、大きく3分野のカリキュラムを使っているようです。1つめのデジタル技術は、必ずしも先端技術、高度な技術でなく、従来からのICT技術でも構いません。もう一つの分野はデジタル化の進め方です。データ分析やデータサイエンス、課題設定といった検討フレームなどが該当します。そして、3番目のカリキュラムが変革マインドです。「デジタル化とは何か」、「なぜデジタル化が必要なのか」を始めとしたマインドや業務改革の意識、デザイン思考などは、デジタル化を進める際には極めて重要となります。各人材が本業となる業務理解を基に、自らが高い目標を設定し、そこに向けての課題を明確化し、それを実践できるようになる変革マインドはデジタル化において何より大切です。

そして、3番目のポイントとなるのが、デジタル人材育成を進めていくとともに生じるいくつかの問題とその対策です。例えば、社員にデジタル人材研修を強いると、当然やらされ感をもつ社員が少なからずでてきます。業務多忙な社員にとって、なぜデジタル化のスキルを上げる必要があるのか理解してもらうことが最も大切です。そのために、社内のデジタル化の取り組みについて、社員が意見交換し、情報共有できるSNSなどのコミュニケーションの場が有効となります。もう一つの問題は、カリキュラムを学んでいくには座学だけでなくOJTやPBL(Problem Based Learning)が必須となるものの、明確なゴールが設定され、一定期間コーチングできる人がいる適当なOJTの場を用意することは結構難しいという実態です。同じく、デジタル人材育成には多額の費用がかかりますが、その効果測定は簡単ではありません。これら問題の解決策は、会社としてデジタル人材育成を実施後に、順次デジタル化の実践に取り組むのではなく、両方を同時並行的に進めるスピード感とその環境づくりが経営に求められます。

ここ数年、決算発表の時期には、決算短信や短中期事業計画の発表と同時に、DXやデジタル化に言及する企業の数が右肩上がりに増えてきました。最近は、DX/デジタル化の取り組みは当たり前となり、株主からのDXに関する鋭い質問に具体的に答えることが求められるようになってきました。これからは単にデジタル人材の計画数を表明するだけでよしとすることはできません。デジタル人材が改革を実践し、より一層成果を出していけるような人材育成を進められることを期待します。

2022年8月

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