ものづくりコラム 設計、生産管理、原価管理などものづくりに関するトピックを毎月お届けします。

2022年10月01日

遅れている会計DXに本腰を

企業は製造、営業、開発など、業務領域を絞ることなく全社的にデジタル化を推進することを目指しています。その中でも、「サプライチェーンの見直しや取引先との関係強化」、「新規ビジネス創出」といった経営課題と並んで、「財務会計、管理会計や業務プロセスの見直し」は多くの企業にとっての喫緊の課題となっています。今回は、デジタル化が一見進んでいるようで実は後回しになってきた、会計領域のデジタル化について考察します。

これまで企業は基幹業務を対象としたシステム、いわゆる基幹システムの構築・整備に注力してきました。その基幹業務の中でも、商用の汎用コンピュータが登場した1960年代より、会計業務は真っ先にシステム化対象となりました。2000年初頭から普及し出したERPシステムは各業務機能間のデータ一元管理が特長ですが、その中核となっていたのは会計データでした。そもそも伝票へ記入、その収集・集計、転記、報告書作成はシステムが最も得意とする作業です。これら一連の業務を部門横断的に行っていくことで、会計業務はほとんど人手を要することなく実行できるはずでした。さらに、人の判断が必要な仕訳業務についても、近年急速に進化したAI技術が代行してくれると期待されていました。近い将来には、AI技術の適用が広がっていき、経理部門、税理士、公認会計士による会計業務は不要になってしまうとの予測もされていました。

では、現状はどうでしょう? 多くの企業において、まだまだ会計業務のデジタル化が進んでいるとは言えません。

会計業務に紙が残る理由図:会計業務に紙が残る理由
(クリックして拡大できます) 

まず、アナログの象徴となる紙・ハンコの仕事が会計業務には大量に残っています。その中でも、お客様や仕入れ先との取引の書類授受において、依然多くの紙が使われています。注文はEDIで電子化されても、それ以降の納品書や請求書、領収書などはアナログのまま紙で郵送されているようです。社内はどうでしょう。システム化が進んでも、証憑として保存するために、システム登録後にわざわざ伝票を印刷し、押印、保管する仕事が残っている企業は少なくありません。また、会計報告も経営者や管理者は紙のレポートを好みます。ペーパーレスが進む社内の中で、会計領域は未だ紙の宝庫となっています。コロナ禍においても、止む無く出社せざるを得なかった代表が会計業務でした。

次に、会計担当者は日常業務と決算業務で手一杯の状態です。月末そして四半期ごとの締めと報告、会計特有の仕事のピークがサイクリックに発生する激務で、残業も多くなってしまいます。会計の仕事は専門的知識やノウハウが求められるため、特定の担当者に業務が集中し、属人化が進んでいます。何年にも渡り同じ業務の繰り返しで、より高度な業務にチャレンジする余裕もないために、仕事に対するモチベーションを維持することも難しくなってきます。会計担当者は、本来であれば、経営層の参謀として経営判断に資する情報提供など高度な業務に携わっていきたいところです。しかし、残念ながら、今は繰り返し業務や定期的に決まった業務をこなすことで精一杯というのが実情です。

また、国内外に子会社をもつ企業では、グループ内での会計データや会計基準の標準化が進んでいません。グループ経営においては、各社の会計情報を集約し、連結決算業務を行うだけでなく、連結ベースでの経営管理や意思決定をしていく必要があります。ところが、各子会社の勘定科目や計上基準等がバラバラで、データ変換に四苦八苦し、各データの品質も信用できないようでは、グループ経営管理のベースとなる会計データの活用はできません。グループ各社の経営を可視化し、コントロールすることは難しく、子会社任せにするしかありません。

これまでも会計領域の電子化を行うための法制度はありましたが、その適用は多くの企業にとってハードルが高いものでした。しかし、来年度から施行される、改正電子帳簿保存法やインボイス制度を始めとして、今後会計領域の電子化に向けた法的なハードルは下がっていくと想定されます。これまで自社内だけで進めることが難しかった、納品書や請求書、領収書など、企業間の取引情報授受のデジタル化は一気に進んでいくでしょう。同時に、社内の会計業務のデジタル化も加速していくと考えられます。

最近は会計領域において、AI-OCRなどのデジタル化ツールが提供され、様々な利便性の高いクラウドサービスが増えてきています。これまで後回しになっていた会計DXに、いよいよ本腰をいれるときがきました。デジタル化を進めることで、財務報告だけでなく管理会計のスピードや精度・情報量を圧倒的に高めるとともに、戦略立案・実行とモニタリングやガバナンス強化、ESG会計対応につなげていけます。会計業務の守りと攻め両面の強化を課題とする各社が、会計DXに早期に取り組まれることを期待します。

2022年10月

ITの可能性が満載のメルマガを、お客様への想いと共にお届けします!

Kobelco Systems Letter を購読