ものづくりコラム 設計、生産管理、原価管理などものづくりに関するトピックを毎月お届けします。

2022年11月01日

DX時代のIT人材マネジメント

デジタル化の巧拙が企業の収益力や競争力に大きく影響を与えるようになった昨今、企業におけるIT部門の役割を見直し、そして組織を構成するIT人材のマネジメントがますます重要になってきています。今回はIT部門のIT人材マネジメントについて考察します。

まずIT人材マネジメントとは、自部門のミッションや役割を果たすために必要となる人材像とその人材が保有すべきスキルを設定し、計画的な採用や育成を行うことです。それらを通して、IT部門としては育成・増強すべき人材像が明確になり、IT人材にとっては自分に求められる役割や自分に足りないスキルが明らかとなることで、モチベーションアップにもつながります。

IT人材マネジメントでは、「現在IT部門に属する人材構成」と「今後必要とする人材構成」を可視化します。必要人材を可視化するには大きく2つの方法があります。一つ目は人材が保有する資格による見える化です。例えば、情報処理技術者試験の合格者や情報処理安全確保支援士やCISA(公認情報システム監査人)の保有者であれば、資格に見合った能力をもっている人材とみなせます。この方法は人材像を客観的に特定することができますが、組織が求める能力と合致する資格があること、IT人材が自身の能力に見合った各種試験の受験合格や資格を保有していることが前提となります。

可視化するためのもう一つの方法が、IT人材の人材像・スキル管理です。部門が求める人材像、各IT人材が保有するスキルとレベルを管理します。勿論、最初の資格による可視化とこの人材像・スキル管理による可視化を併用することも有効です。スキル管理のベースとなるITスキル標準として、IPA(情報処理推進機構)が提供するITSS(ITスキル標準)やJUAS(日本情報システム・ユーザー協会)によるUISS(情報システムユーザースキル標準)が代表的です。グローバル拠点のIT人材も含めた人材像・スキル管理を行う企業であれば、世界で最も普及しているITスキル標準SFIA(Skills Framework for the Information Age)がお勧めです。これらをベースにカスタマイズした自社版ITスキル標準を使って、自部門に属するIT人材のスキル管理を行っているIT部門は少なくないはずです。
IT領域の技術やアーキテクチャー、ソリューションはつねに進化し、次々と新たなものが出現しています。この進化や変化に応じて自部門のスキル標準をアップデートしていくことは、自部門のIT人材の人材像・スキル管理を継続的に行っていく上での大きな課題です。このIT特有の課題に対して、IT人材の役割の変遷に合わせて提供されるITスキル標準のアップデートが助けになります。

ITスキル標準ベースの新たな人材像の例

図1:ITスキル標準ベースの新たな人材像の例

それでは最近のアップデート例を見ていきましょう。近年のITと経営との融合、そしてITアーキテクチャーの変貌に対応できるIT人材のニーズの高まりに応じて、ITスキル標準をベースにした「高度IT人材」の人材像とそのスキルや育成方法が提供されています。人材像を、基本戦略系、ソリューション系、クリエーション系に分類し、人材キャリアを7段階に区分した上で、そのレベル4以上の人材をサービスに革新的な変化をもたらすことができる「高度IT人材」と位置付けています。レベル4の判定は試験と業務で行われ、「高度IT人材」とは下記のようにスキルと実績を兼ね備えるハイレベルのIT人材と見なされます。

レベル4:
  • プロフェッショナルとしてスキルの専門分野が確立し、自らのスキルを活用することによって、独力で業務上の課題の発見と解決をリードする
  • 社内において、プロフェッショナルとして求められる経験の知識化とその応用(後進育成)に貢献しており、ハイレベルのプレーヤとして認められる

図2:レベル4の「高度IT人材」

「高度IT人材」はレベルから見た人材像ですが、デジタル化で重視されるスキル面から見た人材像が「先端IT従事者」です。最近のデジタル技術の進化と普及に合わせて、データサイエンス等のスキルが新たにプラスされています。「先端IT従事者」はAIやIoTなどのデジタル技術を駆使する人材像に相当し、例えば製造業がスマートファクトリーを実現していく際には不可欠なIT人材となります。 それでは、最近話題のDX人材はITスキル標準においてどのように位置づければよいでしょうか?DX人材の定義は企業によって異なるため、ITスキル標準から見たその位置づけも一律ではありません。例えば、経産省のガイドに沿って、DX人材の定義を、「①デジタル技術やデータ活用に精通した人材」、「②業務内容に精通しつつ、デジタルで何ができるかを理解し、DXの取り組みをリードできる人材」、とするならば、DX人材像は次のように位置づけられます。

スキル標準におけるDX人材の位置づけ例

図3:スキル標準におけるDX人材の位置づけ例

日本では今後IT人材不足が深刻化していくとよく言われますが、企業が本当に必要としているのは「高度IT人材」や「先端IT従事者」のような人材です。両者はどちらも企業内IT人材全体のせいぜい1割程度と推測されます。従って、大半のIT人材にとっては、「高度IT人材」や「先端IT従事者」になるためのリスキリングによってスキルアップ、スキル転換に励まねばなりません。各IT人材がこれから強化・獲得すべきスキル項目や目標レベルを客観的に見定めるには、ITスキル標準が必要です。また、既存の「高度IT人材」や「先端IT従事者」は引く手あまたであり、企業に引き留めるためには能力に見合った特別な雇用契約や処遇、つまりジョブ型雇用が必要になると考えられます。ジョブ型雇用は、企業内の人材の中でもIT人材に向いていますが、その運用の前提として、その人材が担うタスク規定、そのタスクを果たせるためのスキルとレベルを定義する必要があります。DXの本格展開に向けて、IT部門のIT人材マネジメントのあり方を再考し、整備していくことをお勧めします。

2022年11月

ITの可能性が満載のメルマガを、お客様への想いと共にお届けします!

Kobelco Systems Letter を購読