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2022年12月01日

DXの要、クラウド化に不可欠な人材強化

クラウド・ファーストと叫ばれ始めて早10年、いよいよクラウドが実用段階となってきました。「これからはクラウド優先」との掛け声で検討や調査を進めながらも、様子見、或いは試行段階で止まっていることが多かったクラウド化ですが、この1~2年、実用化へ舵を切る企業が増えています。省庁のシステム共通基盤へのクラウド採用や、大手企業の既存システムのクラウド移行事例がでてきたことで、クラウド実用段階への流れができつつあります。また、この数年のパンデミックにより、メールやWEB会議、精算、営業支援などの業務においてSaaSが一気に普及してきました。少し前までは、重要な業務システムを社外に出すことに対し、経営者の理解が中々得られずに説明に困るケースも、最近は減っているようです。このように、今後クラウド実用化が一気に加速していき、やがてはクラウド・バイ・デフォルト(原則クラウド)になっていくものと予想します。

クラウド化の段階と現在図1:クラウド化の段階と現在
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製造業の代表的DXとして、IoTによる製造工程のQCDに関する膨大なデータの収集、そしてクラウドによるデータ保管・分析が挙げられます。オンプレミスのサーバーではデータ容量や処理能力に制約があるため、刻々と収集されるデータ量に対応できなくなってしまいます。また、部門ごとにファイルサーバーが分散されてしまうため、横断的なデータ分析が難しくなります。DXを推進していくには、データの保存量やシステムの処理能力を自由に増減できる柔軟性が必要となります。クラウド化はオンプレミスに比べ、圧倒的なスピードでシステム環境の調達や構築ができ、更にシステム拡張に要する期間と負荷も大幅に抑えられます。オンプレミスの新システム開発プロジェクトでは、システム基盤の面倒を見る工数が2~3割を占めます。ところが、IaaSやPaaSによるクラウドによる開発では、その工数が大幅に省力化でき、代わりにアプリケーション開発や保守にリソースを割くことができます。更に、これがSaaSになると、システム要員の工数はほとんど不要となります。

昨今のクラウド実用化の取り組みにより、本格的な実用段階に向けた新たな問題が見えてきました。先ずSaaSの場合、社内の関係部門が次々とクラウド利用を進めていくと、セキュリティ管理や他システム連携などの面で問題が生じるリスクが高まります。また、当初の利用・運用費用は安く済んだとしても、その後予想を大きく上回る費用に跳ね上がっていくことも要注意です。次に、ベンダーによるバージョンアップや仕様変更は当然勝手に行われるため、度重なる変更に利用者側が追随していくのは大変です。更に、クラウド導入後は社内運用担当者が不明確になりがちです。情報システム部門としては、全社的なITガバナンスの観点からも、乱立するクラウドの統制を行い、“野良クラウド”を増やさないことが課題となってきています。

次に、IaaSやPaaSのパブリック・クラウドにおいては、本質的な問題が見えてきました。システム構築スピードや拡張性は期待通りの効果が得られたものの、トータルコストは想定より高止まりしています。既存システムのクラウドへの移行コストがかなり高く、運用コストも直ぐには下がりません。もちろんクラウド化の効果はこのようなコスト削減だけで測るのではなく、DXによるビジネス貢献を視野に入れなければなりません。しかしながら、既存システムをクラウドに載せ替えるだけでは効果に限界があります。このため、これからはクラウドの特性をよく理解し、それに適合したアーキテクチャ設計やアプリケーション開発を行い、クラウドを活かした運用を行うことが求められています。

m2212_2.jpg図2:強化が必要なクラウド人材
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そこで、クラウドの本格的な実用・展開段階に向けて、これらの問題を解決できる人材整備を急がねばなりません。クラウド・サービスに関する知識を始めとして、クラウド特有のアーキテクチャ設計やコスト見積りのスキル、関連するネットワークやセキュリティのスキル、そしてコンテナやマイクロサービスなどのクラウド・ネイティブ技術を有する人材、すなわちクラウド人材が不可欠です。クラウドの技術やサービスは日進月歩であり、わずか1年、2年前の知識も役には立ちません。クラウド人材はクラウドに関するアップデート情報をつねに把握しておくことが求められます。システム部門はシステム企画、アプリケーション開発、システム基盤に役割が分かれていますが、クラウド人材はこれらに横断的に関わる幅広い役割を果たさねばなりません。このように、これからのクラウド実用・展開段階に向けて、各企業はクラウド人材の強化が急務となります。他のDX人材と同様、クラウド人材も社外リソースだけに頼るのではなく、社内育成を基本とすべきです。クラウド人材を育成するには、資格取得、社外講習、社内外勉強会、情報提供サービスなど方法は色々あります。クラウド実用・展開への投資を最適化するためにも、先ずはクラウド人材に投資されることをお勧めします。

2022年12月

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