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2021年08月01日

ビッグデータ本格活用に向け、留意すべき勘違い

今やビッグデータ活用はDX推進の王道として、企業の規模や業種に関係なく、多くの企業で取り組まれています。各社はビッグデータを本格活用することで、投資に見合うビジネス効果を確実に出していくことを狙っているはずですが、なかなか思うようにいかないようです。今回はビッグデータ本格活用していく際に、留意すべき勘違いについて、例を3つ挙げて考察します。

勘違い1:「社内のあらゆるデータを収集・蓄積していく」
製造業においては、ものの開発時から製造時まで、そして出荷後においても、様々なデータが日々収集・保管されています。企業内には既に膨大なビッグデータが存在し、それらは毎年倍増していると言われています。企業内で蓄積されているビッグデータは、クリーンデータ、ダークデータ、そしてROT※1データに大別されます。

クリーンデータ:活用データ 例:基幹システム内データ
ダークデータ:未活用データ 例:機器稼働データ、ログデータ
  画像データ、過去メール
ROTデータ:不要データ 例:古いデータ、重複データ

図表1:企業内ビッグデータの分類

※1:ROT(Redundant(冗長)、Obsolete(陳腐)、Trivial(無駄)の頭文字。重複している情報や、古くて使い物にならないデータ)

クリーンデータは実際に利用されているデータであり、逆にROTデータは明らかに利用価値のないデータです。そして利用されていない、価値があるかもよく分らないデータはダークデータと呼ばれます。ダークデータは、いくつかの調査で「企業内の70%のデータが使用できていない」、「ダークデータが80%もある」と報告されているように、企業内ビッグデータの大半を占めます。そもそも全く光が当たったことがないのがダークデータであり、その実態が明らかでないのは当然かもしれません。社内で保管されているビッグデータの大半が実はガラクタ同様で、企業はこのようなデータの維持保管に大きな費用をかけていることになります。また、ビッグデータの中から、価値の高いデータを見つけることを「データマイニング(データ採掘)」と呼びますが、鉱山における貴金属採掘と同様に大きなコストが発生します。つまり、漫然と蓄積されるビッグデータは、維持保管コストや採掘コストに見合わない、まるで貴金属含有率の低い鉱山のようです。闇雲にデータを集めるのではなく、まずビッグデータ活用の目的に応じて収集すべきデータを見定め、企業内の手つかずのスモールデータも活かしながら、データ収集と分析を進めていくべきです。

勘違い2:「ビッグデータ活用の目的は、課題の解決策を導き出すこと」
企業におけるビッグデータ活用のプロジェクト状況を聞くと、たいてい「成果は出ている」との答えが返ってきます。そこでもう少し具体的に掘り下げてみると、実はPoC段階や試行段階のままで、未だ実運用されていない例が多く見られます。また、B2Bビジネスにおいて最近は顧客サイトに納入された自社機器のリモート監視や稼働分析のサービスに取り組む企業が増えてきています。これらのサービスは実運用されているものの、実態は有料サービスに至らず、無料サービスのまま自社サービス部門の業務改善に止まっています。ビッグデータ活用の目的は解決策を導き出すことではなく、解決策を実践することで投資に見合うビジネス価値を生み出すことです。試行段階で止まったままのビッグデータ活用では一銭の利益にもなりません。自社サービス部門でのみ実運用されているリモート監視サービスでは、投資対効果は成り立ち難いでしょう。ビッグデータ活用の目的は、サービス提供によりお客様から投資以上の対価をいただくことです。お客様自身では実現が難しいビジネス価値を提供できるような課題解決策を導き出すだけでなく、実運用で対価を得られるようになることがゴールとなります。

勘違い3:「データサイエンティストの所属は現業部門が良い」
ビッグデータ活用の主役となるデータサイエンティストに活躍してもらうには、どの組織に所属すればよいでしょう?

データサイエンティストの所属組織パターン

図表2:データサイエンティストの所属組織パターン 

製造業の製造現場やサービス部門には元々高度なデータ分析ニーズがあります。データサイエンティストはこのような現業部門に属することで、ビジネススキルを自然に身につけることができ、現場の課題解決にスピーディに対応できます。一方、企業が全社を挙げてビッグデータ活用に取り組む段階になると、データサイエンティストの育成や採用を現業部門に任せてもなかなか進みません。また、現業部門に居続けるとやがて便利屋になってしまう可能性が高く、データサイエンティストとしてのキャリア開発も進まないでしょう。そこで、データサイエンティストが全社的に活躍できるように、現業部門に散在しているよりも横断的組織に集約していく方がよいと考えられます。全社横断的組織としては当初は情報システム部門でもよいのですが、将来的にはデータ活用専門組織やDX推進組織などの独立した組織の方が上手くいくようです。

ビッグデータやデータサイエンティストという言葉に翻弄されることなく、地に足がついたビッグデータ活用を進めていきたいものです。これらの考察が、現在ビッグデータ活用に取り組んでいる、或はこれから取り組もうとする企業のヒントとなり、着実な成果につながることを期待します。

2021年8月

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