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2021年07月01日

データサイエンティストってどんな人?

各企業がDXを実践していく際の王道となるのがビッグデータ活用です。特に製造業の場合、ビッグデータ活用はビジネス効果を享受できるだけでなく、製造現場の熟練者が有するものづくりのノウハウ継承や人材不足といった、日本の製造業が抱える共通の経営課題への解決策にもなります。ビッグデータ活用というと最新のテクノロジーや様々なIoTデータが思い浮かびますが、なんといっても主役となるのは実際にビッグデータを活用する人です。今回は最近注目度が高まっているデータサイエンティストと呼ばれる人について、その役割やスキルを考察します。

データを軸として情報科学や統計的な観点から、有益な知見やビジネス価値を得ようとする学術領域がデータサイエンスです。データサイエンスという用語はかなり前から使われてはいましたが、注目されるようになったのはこの10年くらいです。世の中で重要性が叫ばれ、いくつかの大学でもデータサイエンス学部が新設され始めました。

このデータサイエンスを専門とする人、実践する人がデータサイエンティストです。そもそもデータサイエンスが数学、統計学、情報学そして人工知能学など学際的な領域であるため、データサイエンティストが果たす役割やもつべきスキルについては明確な定義が見当たりません。人によりその考え方も異なるのですが、当コラムでは下図のようにビッグデータ活用プロセスを担う人がデータサイエンティストであると定義します。

ビッグデータ活用プロセスと専門職図表1:ビッグデータ活用プロセスと専門職
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このようにデータサイエンティストの担う役割は多岐に渡るため、ときには別の呼び方をされることもあります。例えば、分析や解析に関する手法を得意とする人はデータアナリスト、データの抽出や加工、整備を専門とする人はデータエンジニアと称されます。また、最近流行りの機械学習や深層学習を使った分析を専門とする人であれば、AIエンジニアと呼ばれることもあります。一方、ビッグデータ活用プロセスにおける最初の「課題設定」や最後の「解決策説明、実用化」を主に担う人はむしろコンサルタントと呼ぶのが相応しいかもしれません。 それではデータサイエンティストとして活躍していくには、どのようなスキルが必要とされるのでしょう?

データサイエンティストに求められる4つのスキル図表2:データサイエンティストに求められる4つのスキル
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データサイエンティストは、大きく4種類のスキルを磨くことが求められます。
まず、課題を解くためのデータを整備する際に必要となるのがデータエンジニアリングスキルです。良いデータ分析をするには、良いデータが必要です。実際のプロジェクトでは、課題を解くことに要する時間の大半はデータ整備に費やされます。このようにデータ整備の品質や効率性を左右するのがデータエンジニアリングスキルです。

次のデータ分析スキルは、課題に最も適した分析手法を選択し、それらを駆使していくスキルです。例えば、「製造現場の課題についてはベイジアンネットワーク手法が向いている」、「業務効率化課題に対しては決定木手法が有効である」といった分析手法の目利きができ、手法を使いこなすノウハウが必要です。利用するデータを見直し、様々な分析をすることで新たに面白い結果を出すことができます。パラメータを変えるといくらでも異なった結果が出てきます。

しかし、ビッグデータ活用が数字遊びや知的欲求を満たすことで終わっては全く意味がありません。いくら難問を解き、分析精度を高めたとしても、ビジネス価値が出なければその存在自体に意味はありません。そこでデータサイエンティストに求められる3番目のスキルがビジネススキルです。どのような課題を解くべきか、どのような課題仮説を設定するかでビジネス価値は大きく変わります。データ分析に伴うデータ収集や整備、分析に掛かる費用だけでなく、解決策の実用化に必要な業務面やシステム面での投資も考慮した費用対効果が成立する見通しを立てておく必要があります。

更に、有効な課題解決策が見出されても、それを実用化していくには現場の納得、そして投資に向けたマネジメントへの説得が必要です。製造現場の熟練者は現行のやり方をかえることに心理的な拒否感を抱きます。これらを先読みし、現場とうまく交渉するコミュニケーション力や強いリーダーシップが求められます。マネジメントに対して課題解決策への投資効果をプレゼンテーション力も含めたヒューマンスキルが、データサイエンティストが磨くべき4番目のスキルです。

このように高度なスキルを求められるデータサイエンティストは限られているため、これまでどの企業も採用・育成に苦労してきました。しかし、最近はデータ分析ツールが進化してきた結果、データ分析業務のかなりの部分が自動化できるようになってきました。かつては高度なスキルを必要としたデータ分析や予測などを、現業部門の業務担当者でも行えるようになってきました。データ分析を正式に習った経験がなくても、それを道具として使って自分の業務を片付けることができる、所謂「シチズン・データサイエンティスト(市民データサイエンティスト)」も現れてきています。大きなビジネス価値を創出する本来のデータサイエンティストに加え、身近な業務課題を解決していくシチズン・データサイエンティストまで、企業内のビッグデータ活用の裾野を広げることで、各企業がDXを推進し、その成果創出を加速できることを期待します。

2021年7月

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