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2021年06月01日

製造業DXの王道、ビッグデータ活用

製造業におけるデータ分析の姿が変わってきています。企業規模や業種に関わらず、これまでも製造現場の品質向上、原価低減、生産性向上といった共通課題に対してデータ分析が行われてきました。例えば、生産技術部門は歩留まりや稼働率を高めるために、品質管理部門は品質検査の精度を高めるために、統計的な手法を用いてデータ分析を行ってきました。このような従来のデータ分析から、最近のデータ分析にはいくつかの大きな変化があります。

まず、所謂ビッグデータという従前と異なるデータが活用できるようになってきました。加えて、それぞれの課題に応じた強力なデータ分析ツールや手法も出揃ってきました。その結果、これまでより広い領域、新たなビジネス課題の解決を目指したビッグデータ活用が一気に増えてきています。

これらのデータ分析の変化をもう少し具体的に見ていきましょう。まず、分析されるデータがビッグデータに変わってきています。ビッグデータという言葉は広く使われている割に、その定義は多少曖昧なところがありますが、一般的には、ビッグデータは従来のデータと量的、質的な面に違いがあると言えます。例えば、最近の製造工程からのデータは、センサーの数が増えたことでデータ量は従来の何倍にもなっています。また、製造設備や機器の稼働データは、以前は分単位で取得していたものがミリ秒単位の取得になっていくことで、データ量は数千~数万倍に急増します。質的な違いとしては、これまで対象としていた配列された数値・文字データに加え、静止画像やビデオ動画、音声、WEB上のデータといった非構造データも分析対象となってきています。見方を変えると、これまでは部分データによる限られた分析に止まっていたものから、全体を対象とするデータ分析へと変わりつつあります。

ビッグデータ活用タイプ 主な利用
データ
データ分析領域例
プロセス改善 製品出荷前に発生する製造データ 製造装置の稼働管理、品質管理、歩留り改善、エネルギー消費制御、需要予測、最適生産スケジュールなど
新サービス
創出
製品出荷後に発生する稼働データ 産業機械・建機の予防保守、障害検知、最適利用提案
自動走行、自動調整
新製品企画 社外の市場データ、社外データベース 新製品企画、科学データ、論文から新素材開発や創薬

図表1:製造業のビッグデータ活用タイプ

ビッグデータによる分析ができるようになると、データ分析の適用領域も変化してきます。ビッグデータ活用のタイプは、上図のように大きく3つに分類できます。これらの3タイプにおいて、ものづくりのQCD向上に直接寄与する「プロセス改善」タイプが依然多く見られますが、最近は「新サービス創出」タイプと「新製品企画」タイプも増えてきています。「プロセス改善」タイプは製品出荷前の製造現場で発生するビッグデータを利用するのに対し、「新サービス創出」タイプは産業機器や建設機械のような出荷済み製品から収集される稼働データを利用します。そして、「新製品企画」タイプは、SNSやVOC(Voice of Customer : 顧客の声)など市場データや化学データベースなど社外のビッグデータを使った分析を行います。このように、製品の出荷前の製造データから出荷後の稼働データまでの製品ライフサイクルで生まれるビッグデータ、更に社外のビッグデータまで利用できることで、データ分析の適用範囲が広がっています。企業は様々な課題に対しデータ分析を適用できるようになってきているのです。

m2106.jpg図表2:ビッグデータ活用の促進要因とハードル
(クリックして拡大できます) 

そして3つ目の変化は、これまで敷居の高かったビッグデータ活用を身近にしたDX技術の進化です。上図のビッグデータ活用プロセスにおいて、特にDX技術の進化がビッグデータの活用を促進する2か所がポイントとなります。最初の「データ収集・保管」プロセスでは、センサーの単価が下がったこともあり、産業機械や検査機器などには多数のセンサーが取り付けられ、それらから膨大な生データが収集できるようになりました。そして、収集された大量の生データはそのままデータレイクに保管されます。データレイク技術によって、データ量に応じて拡張でき、どのようなデータ形式でも格納できるようになりました。次の「分析モデル設計」プロセスでは、ビッグデータを高速に分析できる分散処理技術が利用可能となりました。さらに、課題領域に合った最適な分析モデルの設計に必要となる様々な学習ライブラリーや分析プラットフォームも充実してきました。しかも、費用面や技術面において、誰もがそれらを手軽に使えるようになっています。

このように製造業のビッグデータ活用の条件は揃いつつありますが、克服すべきハードルがいくつか待ち受けています。「プロセス改善」タイプのビッグデータ活用の場合、「良いデータ分析」に必要となる「良いデータ」を集める難しさがあります。例えば異常予知の分析モデルに必要となる、まれに起こる重大な異常データはなかなか集まりません。次のハードルは、製造現場の納得という感情の問題です。分析モデルの結果の有効性がいくら高くても、現場・現物・現実を重んじる製造現場は机上論を否定する傾向が見られます。そして、何とか製造現場の納得が得られたとしても、課題の解決策は費用対効果が成り立たないと実用化に至りません。実用化するには、システム化や製造工程改修など相当のコストが発生するため、これを上回る期待効果が求められます。

これから各企業がDXを実践していく際の王道となるのがビッグデータ活用です。ビッグデータ活用を進めていくことで直接的にビジネス効果を享受できるだけでなく、製造現場に蓄積される優れたものづくりノウハウを継承することもできます。人材不足に悩む日本の製造業こそ、ビッグデータ活用をもっと加速していく必要があります。ビッグデータ活用のハードルへの対策も含め、次回も引き続き考察していきたいと思います。

2021年6月

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