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2021年05月01日

コロナと半導体

人々の意識や行動変容により経済面でも様々な連鎖が起きています。中でも、最近の新聞や雑誌で目を引くテーマに、深刻さを増しているコロナ禍そして半導体不足が挙げられます。2つは全く別のものですが、コロナ禍と半導体不足にはいくつかの関連性、共通性があります。先ず、半導体の需要が世界中で想定以上に拡大したのは、コロナ禍によりIT投資が一気に増加したこと、コロナ禍により当初控えていた自動車生産が想定以上に回復したことが原因となっています。このようにIT投資にも自動車生産にも必要不可欠な半導体、それとコロナには強い関連性が見られます。また、蔓延防止の切り札となるワクチンは需要に見合う供給量が確保できず、日本にとって大きな問題となっています。同様に、半導体も需要増大に追いつけず、現在日本の製造業に大きな影響をもたらしています。その原因も似ていて、どちらも製造元が特定メーカーに限定されていることが原因となり、世界中で限られた量の製品の取り合いになっています。そして、今後のリスクを回避するために、需給ひっ迫によるダメージを教訓として、国内生産の強化に乗り出しています。今回は、半導体が最近なぜこれ程注目されるのか、そして今後日本の製造業にどのような影響を及ぼすのかを見ていきます。

半導体需給の構図

図:半導体需給の構図

半導体は主にコンピュータ関連機器、そしてスマホに代表される通信機器、それ以外にも産業機器や家電などに幅広く用いられています。特に自動車用は、年々需要が急増しています。半導体は自動車の基本的な動きを制御するだけでなく、センサーから得られた情報を処理する役割を担い、自動運転に代表される車のCASE化※1の要となります。半導体無くして、膨大なデータ処理や複雑な計算を瞬時に行うことは不可能であり、業務プロセスや製品のデジタル化も成り立たなくなります。

さらに、昨年末に日本政府が発表したグリーン成長戦略において、脱炭素を実現するために重要14業種が明確化されましたが、その中でも半導体は高い序列に位置づけられています。つまり、今後日本の製造業が立ち向かっていくべきデジタル化とグリーン成長という2大テーマにとっても、半導体は戦略的に最も重要な産業となります。以前から“産業のコメ”として重視されてきた半導体ですが、デジタル化社会ではその供給問題が、メーカーの工場稼働率に直結します。半導体の供給力が日本の製造業の競争力を左右するようになってきています。

では、なぜ半導体が最近品薄になってしまったのでしょう?その大きな要因となるのが、半導体産業の典型的な「水平分業」構造にあります。米国大手の半導体企業の多くが、上流の設計開発に特化し、下流の生産はアジアの企業に委託する経営モデルを採用しています。生産部分は設備投資が巨額になる割に付加価値が少ないと判断したためです。一方、半導体の製造事業は、資本を投下すればするほど半導体の原価は下がっていきます。スマホやパソコンメーカーに大量かつ低価格の半導体供給が可能で、巨額な資本投資を続けられる半導体製造企業だけが勝ち残っていくことになります。日本の半導体メーカーも設備投資を抑えるために製造の一定量を半導体製造業に委託しています。その結果、現在では台湾のTSMC社が半導体の受託生産市場の過半数のシェアを占めています。TSMC社は、競合他社に先駆けて微細の半導体を量産する技術開発の目途を立て、向こう3年間の設備投下は11兆円という、他社を寄せ付けない超大型投資を計画しています。

このような水平分散モデルは平時では経営効率を高めることができますが、貿易摩擦や工場災害などの有事の際には製品安定供給に問題を生じます。半導体の重みが増すにつれて、国内に十分な生産能力を持たない国は大きなリスクを抱えていることになります。そのため、各国が国を挙げて半導体産業強化に取り組みだしています。日本の経済産業大臣も「強靭な半導体産業をもつことが国家の命運を握る」と強調しています。

これまで半導体は、チップに集積されるトランジスタの数が1.5~2年ごとに2倍に増えるという、有名なMoore’s law(ムーアの法則)に従って進化してきました。現在のトランジスタサイズはnm(ナノメートル=1/10億m)単位でコロナウイルスのサイズ単位と同じです。そろそろ原子の大きさに近づいてきたので、この法則も限界に達すると言われていたのですが、技術革新でまだまだ続くようです。世界一の座を誇ったこともある日本の半導体メーカーは、昨今は技術開発競争で遅れがちです。しかし、半導体の製造装置や材料分野では、日本勢は相変わらず圧倒的な強さがあります。半導体の新たな実装技術やデバイスの多機能化で価値を高める、More than Mooreという技術革新において活躍が期待できます。日本の製造業が誇る技術力を産業横断的に活用することで、国内半導体基盤の再興とコロナ克服が共に早期実現することを期待します。

※1:「CASE」自動車に押し寄せる変革の波
https://www.kobelcosys.co.jp/column/monozukuri/20200201/

2021年5月

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