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2021年04月01日

待ったなしの脱炭素

石炭を燃料とする蒸気機関の発明から産業革命を経て、5世紀に渡り化石燃料に頼る炭素社会が続いてきました。これを今からたった30年で新しい脱炭素社会に転換していくことになります。脱炭素社会の実現に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)は、DXと同様、日本の製造業にとって最優先の経営課題です。しかも、脱炭素へのGXは、DXと異なり、達成期日が決まっている上に、社外に対し目標値とその成果に関する情報を開示することが求められます。日本の製造業のほとんどの企業にとって、今や脱炭素は避けて通ることはできません。変化に躊躇しているだけでは事業継続を危うくすることになります。逆に、脱炭素をてこに変革を前向きに進めることで、企業の大きな飛躍につなげることができます。今回は、日本の製造業が脱炭素に前向きに取り組むべき理由について、改めて5つの観点から具体的に見ていくことにします。

m2104.jpg図:日本の製造業はなぜ脱炭素に取り組むべきか?
(クリックして拡大できます) 

理由1.顧客企業が脱炭素を要求
多くのグローバル大手メーカーは既にサプライヤーとなる取引企業に対して、提供する製品や部品が化石燃料に頼らない再生エネで生産されていることを求めています。例えば、Apple社は世界43カ国の全事業活動で使用する電力を既に再生エネ100%切り替え済みです。さらに、自社内のみではなく、生産・販売する製品のバリューチェーン全体での脱炭素を2030年までに達成しようとしています。Apple社向け部材を供給している日本企業は数多くあり、各社は2030年までには再生エネによる生産を開始することが求められます。このようにサプライヤーに脱炭素を求めるのは欧米の大手メーカーに限った話ではなく、日本のメーカーも同様の取り組みを始めていています。今後は、バリューチェーン全体で脱炭素を目指す企業が一層増えていくでしょう。

理由2.排出枠取引制度の導入
企業が排出できる炭素量の枠を設定し、その排出枠を企業間で取引できるようにすることを排出量取引制度と言います。排出枠を超えてしまう企業は他社の排出枠を買わざるを得ず、需要が多くなると排出枠の価格は高くなっていきます。こうした経済原理により、企業は排出削減に取り組まざるを得なくなっていきます。排出枠制度が上手く機能した事例として、カリフォルニア州やEUにおける自動車メーカーに対する排出枠取引があります。テスラ社は、長年EV車販売そのものはずっと赤字でしたが、他の自動車メーカーからの排出枠販売益という副収入でEV投資を継続でき、自動車業界のEV化を牽引してきました。このように、排出枠取引制度は市場において脱炭素イノベーションを促すメカニズムとして有効であり、今後日本国内でも導入されていくと想定されます。

理由3.国境炭素税
例えばEUのように率先して脱炭素を進めている域内の企業が、国際競争において不利益を被らぬよう、脱炭素が不十分な国からの輸入品に課税等のペナルティーを課す制度が国境炭素税です。EUだけでなく、米国も国際的枠組み「パリ協定」の合意を満たせない国からの製品に「炭素調整料」を課す予定です。仮に、日本が国内では現在のように他国に比べかなり安い炭素税に据え置いたとしても、欧米に輸出するときには相当の炭素税を支払うことになります。

理由4.巨額の脱炭素投資
企業の脱炭素を促すために日本政府は2兆円の基金を立上げ、3メガバンクの環境関連投融資の目標額は30兆円と言われています。それでも向こう4年で200兆円投資する米国に比べて1桁少なく、実際は資本市場からの直接金融も含め、もっと巨額な資金が流入してくるはずです。特に現在CO2排出が多い製造工程をもつ業種は一気に脱炭素化への移行は難しく、2030年までに積極的に技術開発や設備投資を行い、段階的に移行を進めることになります。脱炭素のゴールに向けた路線を着実に歩んでいく企業には多額の資金が提供されますが、逆に脱炭素に消極的と見なされれば、投資家は事業への投資から撤退していきます。このため、企業はいち早く脱炭素ロードマップを投資家や金融機関にアピールし、脱炭素投資を呼び込んで行かざるを得ません。

理由5:得意とする脱炭素技術の活用
今後は脱炭素の技術力が、製造業における企業競争力を直接左右します。当然、製造業の中でも業種によって脱炭素に必要な技術や企業の競争力に及ぼす度合は異なるものの、日本のメーカーは多くの優れた脱炭素技術をもっています。例えば、再生エネ、蓄電池などのエネルギー分野の技術、製造や輸送における水素に関する技術、そして炭素リサイクル技術においてです。過去を振り返っても、2度に渡るオイルショックの克服や省エネ製品など、日本の製造業はエネルギー対策が得意です。これら日本のメーカーの優れた技術力を活かし、企業の新たな競争優位性を確立していく好機となります。

製造業にとって脱炭素は最早「待ったなし」であり、脱炭素を成長エンジンに製造業を再構築していくことになります。日本の製造業が世界の脱炭素の潮流に乗り遅れることなく、しっかり果実を手にしていくことを期待します。

2021年4月

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