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2021年03月01日

製造業が牽引するグリーン・トランスフォーメーションの切り札

GX(グリーン・トランスフォーメーション)は、コロナ後の経済復興そして人類の存亡にもかかわる最優先課題となっています。ここ数年、製造業各社の中期計画ではDXが注目されてきましたが、今年からはGX、つまり脱炭素や気候変動対策などグリーン・トランスフォーメーションを経営課題に掲げる企業が一気に増えていくはずです。特に日本の製造業にとって、GXはビジネスチャンスにもビジネスリスクにもなり得るものの、どの企業も無関係ではいられない経営課題となるでしょう。今回は脱炭素の切り札と目される水素について考察します。

カーボンゼロの達成には、運輸や民生、産業といったエネルギー消費側とエネルギー供給側がセットで取り組む必要があります。例えば、ガソリンを消費する車が全てEVに置き換わり、工場のボイラーなどの熱源が電化されていったとしても、そこで消費される電気が化石燃料を使って発電されていては脱炭素にはなりません。2050年時点の日本のエネルギー構成については様々な見方があるものの、新設が厳しい原子力発電には頼れません。そこで風力や太陽光による再生エネルギーに期待が高まるのですが、現在の化石燃料が担う電力量を全て賄うのは難しそうです。脱炭素で先を行く欧州各国も自国としてのエネルギー構成のあり方に悩んでいるようですが、その中で存在感を増しているのが水素です。化石燃料が燃えると排出されるCO2は環境を破壊するのに対し、水素はロケット燃料に使われるほど強い力をもちながら、燃えても水になるだけのクリーンなエネルギー源です。

実は、世界初の水素自動車を発売したように、日本は水素利用技術で先行していたのですが、現在は周回遅れになりつつあります。脱炭素にいち早く本気で取り組んだ欧州各国は、それぞれのエネルギー戦略により目指すエネルギー構成は異なるものの、水素利用なしに脱炭素目標が実現できないことを察し、水素利用の取り組みを加速させました。最近は水素利用において日本を遥かに凌ぐまでとなり、特に欧州各国と中国は水素分野での覇権を握ろうとしています。

やっと、日本も国を挙げて脱炭素目標の達成に取り組んでいくことになりました。脱炭素は様々な業種、官民そして国民が一体となっての取り組みとなります。その中で、エネルギー戦略の難しい日本にとって、脱炭素イノベーションを主導し、切り札となる水素利用を牽引していくのが、日本の製造業の役割と考えます。それでは、製造業が取り組むべき水素利用の脱炭素イノベーションを具体的に見ていきましょう。

m2103.jpg図:水素利用による脱炭素イノベーション領域(1.~6.)
(クリックして拡大できます) 

  1. FCV(燃料電池車):
    FCVはEVに比べ航続距離や充電時間などで優位性があります。現状は乗用車ではEVが主流となりつつありますが、トラックやバスなどの商用車にはFCVが適しています。FCVは既に市場化されていますが、市場拡大にはFCVの低コスト化と水素ステーション整備が課題となります。車以外の運輸では、船舶・鉄道・飛行機などの脱炭素で水素は有望視されています。
  2. 製造プロセスでの水素利用:
    製鉄や化学、セメントなど素材産業の製造過程での脱炭素に水素が利用できます。このような産業でのエネルギー転換は最も困難とされますが、水素利用での生産方式転換によって、技術的に脱炭素化を図ることが可能です。なお、これらの製造プロセスでは大量の水素が必要となります。
  3. 再生エネから水素:
    再生エネを含む多種の一次エネルギーから製造・貯蓄・運搬できる2次エネルギーとしての水素の技術も重要となります。不安定な再生エネは水素にすることで保存可能になり、需給をバランスさせることができます。
  4. 水素による発電:
    水素発電は火力電源の有力な方策となります。そのためには水素の海外からの調達と、保存や輸送コスト削減が課題となります。
  5. 海外からの水素輸入:
    再生エネ資源に恵まれている海外諸国から安価な再エネを水素エネルギーの形で日本に運び、利用する技術です。日本に輸入するには、遠距離、大量輸送可能な水素エネルギーキャリアの形にする必要があり、キャリアとして変換するためにアンモニア等を用います。
  6. CCS適用ブルー水素:
    水素の需要を賄うために、止む無く化石燃料から水素を生成することも必要となるでしょう。その時発生するCO2を回収・貯留(CCS)する技術です。このような水素はブルー水素と呼ばれ、再生エネ由来のグリーン水素と呼び分けられています。

水素利用による脱炭素イノベーションは、サプライチェーンの確立と低コスト化が課題となります。昨年末に示された日本のグリーン成長戦略では、水素に対する横断的なサプライチェーンのあり方や統合的に見たエネルギー構成のあり方は、まだ具体的になっていません。当面の水素利用によるコストが化石燃料利用よりも割高となるのは仕方ありません。日本が取るべき有力オプションは、将来世代の大きなリスクとコスト負担を回避するため、水素利用のコスト低減を進めていくことと考えます。世界トップのものづくり力をもつ日本の製造業が水素利用技術を磨き、コスト低減を主導し、脱炭素を牽引していくものと期待します。

2021年3月

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