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2021年02月01日

製造業に求められる脱炭素イノベーション

昨年12月の当コラムでは、各国が脱炭素目標の達成や前倒しを目指して取り組んでいることを紹介しました。地球の気温は、現状のままだと今世紀末には3度から5度も上昇すると予想され、大きな異常気象や気候変動が我々の世代、次の世代の人々の生存をも脅かすのは想像に難くありません。地球温暖化への対応は今や世界共通の最優先課題となり、平均気温の上昇を産業革命前に比べ1.5度以下にとどめるというパリ協定の目標達成に、各国が本気になっています。2050年頃までには温暖化ガス排出を実質ゼロにすると表明した国は既に120を超え、日本もやっと昨年末に、「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と宣言しました。温室効果ガスとありますが、原因のほとんどが化石エネルギー利用によるCO2排出にあるため、排出と吸収をプラスマイナスゼロにする脱炭素が目標となります。今回は、この重要な脱炭素目標達成に向けた製造業の役割と責任について考察します。

では、日本はどれ位CO2を排出しているのでしょう?日本の昨年のCO2排出量は約10億トンで、中国、米国、インドそしてロシアについで5番目の多さです。中国やインドより総排出量は少ないとはいえ、1人当たりの排出量は日本が上回っていて、地球温暖化に大きな責任があります。次に、どこで排出されているのかを見ると、下図のようになります。

エネルギー需給におけるCO2排出と脱炭素イノベーション図:エネルギー需給におけるCO2排出と脱炭素イノベーション
(赤矢印:CO2排出領域  青矢印:脱炭素イノベーション領域)
(クリックして拡大できます)
 

この図はエネルギーの需給関係を表し、左が需要側、右が消費側となります。ここでCO2が排出される領域は大きく2つあります。1つが、1次エネルギーの化石燃料が発電所で電力に転換されるときで、この際にCO2総排出量の約4割が排出されます。日本では、原子力や再生可能エネルギー(以下、再生エネと呼ぶ)による発電は限られ、多くを化石燃料による発電に頼らざるを得ない状況が続いています。そして、もう1つの大きなCO2排出領域が、産業や運輸、民生の各部門においてガソリンや都市ガスなどの化石燃料が消費されるときです。

3部門の中では、産業が最も多くのCO2を排出しています。そのうち産業部門のほとんどが製造業で、2次エネルギーのガスや油を直接消費することによる排出分が3割近くあります。工場では、高温熱を使う工程があり、ボイラーや工業炉で熱エネルギーを使うことで沢山のCO2を排出しています。さらに、鉄鋼・化学・セメント業では熱以外の用途によるCO2も排出されています。運輸部門では、自動車や飛行機などの内燃機関からの排出が約2割あり、民生部門のオフィスや家庭で都市ガスや灯油の燃焼による排出が約1割を占めます。

いくら政府が脱炭素の目標達成を宣言しても、各企業が動かなければ達成はできません。各社はこの難題を前向きにとらえ、2050年脱炭素を実現するための計画を策定する必要があります。中でも製造業は、化石燃料の消費時の排出分に電気の発電時に排出するCO2も含めると、日本で排出するCO2全体の約35%排出していることになります。このように製造業は日本の脱炭素の目標達成に取り組む大きな責任があります。

この目標達成に向け、製造業が取り組むべき脱炭素イノベーションの領域が大きく3つあります。1番目の領域は、製造プロセスにおける脱炭素イノベーションです。例えば、高効率機器の導入、IoT技術によるエネルギー利用効率の向上、排出したCO2のエネルギー利用などが脱炭素イノベーションのテーマに掲げられています。2番目の脱炭素イノベーション領域は、運輸や民生部門向けに生産する製品の脱炭素化です。運輸部門向けでは、自動車や飛行機、船舶の内燃機関を脱炭素化することが急務となります。自動車メーカーを始め、多くの関係メーカーがエンジンから排出する二酸化炭素をゼロにする役割を果たす必要があります。民生部門においても同様に、オフィスや家屋の省エネ、給湯器や暖房機の電化は製造業が果たすべき役割です。3つ目の脱炭素イノベーション領域は、電源の脱炭素化です。脱炭素に向けて再生エネの利用拡大は、目標達成の大前提となります。現在その割合はまだ限定的ですが、再生エネ活用の拡大の切り札と見られている技術に洋上風力や地熱発電の実用化技術があります。さらに、不安定な再生エネを安定かつ低コストで貯蔵・移送するには、水の電気分解によって水素化するといった応用技術や電池の高効率化が脱炭素イノベーションのテーマとなります。

コロナ禍の中にある現在、世界中が取り組んでいる経済対策の共通のキーワードは、“グリーン”です。日本ではグリーン成長戦略を実行計画としてまとめました。EUはグリーン・リカバリー、英国はグリーン産業革命、米国はグリーンニューディールをそれぞれ掲げています。日本の製造業が、グリーン(脱炭素)イノベーションをリードし、国際競争力を維持・向上し、雇用や業績拡大で成果を上げていくものと期待します。

2021年2月

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