ものづくりコラム 設計、生産管理、原価管理などものづくりに関するトピックを毎月お届けします。

2021年12月01日

DX、結局IT化と何が違うのか?

世の中でこれだけ注目され、色々解説されているDXですが、「結局これまでのIT化と何が違うの?」と腹落ちしない方も結構も多いのではないでしょうか。今回は、改めてDXとIT化の違いについて考察します。
まずDXなる言葉は頻繁に使われているのですが、実は共通の定義はありません。ガートナー社やIDC社といった調査会社や大手コンサルティング会社、大学教授はそれぞれDXを定義していますが、その内容は異なります。日本の経済団体連合会や経済同友会も、それぞれDXの定義は異なり、省庁を見ても、経済産業省と総務省ではその定義は異なります。最近設立されたデジタル庁のホームページには「DXを推進する」と表現されているのですが、DXの定義は見当たりません。

企業内においても、会議等で、「今度の中期計画にはDXを盛り込むように」、「我が社のDXは遅れている!」といった話がされているようですが、その意味や、使い方は人や場面によって千差万別ではないでしょうか。定義や意味が曖昧なまま、一見何か新しい重要な概念を表しているように思わせながら、広く使われている「DX」は、最早立派なバズワードです。このように一定の定義がないまま、或は曖昧なままDXが語られ、取り組まれていることが、IT化との違いを分かり難くしている一因です。

乱立するDXの定義の中で、比較的よく引用されるのがIDC Japan社の定義です。この定義はDXレポートや総務省でも参照、準拠されています。

IDC Japan社のDX定義:
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォームを利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立することを指す。

図表1:DXの定義(IDC Japan社のHPより引用、赤い色付けは筆者)

今回はこの定義を基に、DXとIT化との違いについて、3つの点を見ていくことにします。
①「競争上の優位性を確立」
DXは競争優位の確立を目的とするのに対し、IT化は既存業務の効率化を目的とする点に違いがあるとの見方があります。この見方については、IT化も競争優位を目的とすることから、DXとIT化との差異にはならないことを前回のコラムで説明しました。また、DXもIT化も共に手段であるとするならば、目的についての違いを論じてもあまり意味はありません。
②「変革を牽引」、「変革を図る」
DXの定義に「変革」という言葉が2度でてきます。DX、つまりデジタル・トランスフォーメーションという名前通り、「変革」することこそDXの本質であり、IT化との差異であるとの主張は説得力があります。IDC Japan社の定義では「顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出」と変革対象を明確化することで、従来のIT化との差異も一層分かり易くなっています。製造業各社がDX を推進していく際には、このように変革の対象を明記したDXを定義していくことがお奨めです。
③「第3のプラットフォームを利用」
DXとは第3のプラットフォームを利用して実行されるものと定義されたことで、従来のIT化との明確な違いとなります。第3のプラットフォームとは、クラウド、ビッグデータ、モビリティ、ソーシャルを指します。従前のメインフレーム/端末システム(第1のプラットフォーム)、クライアント/サーバーシステム(第2のプラットフォーム)に代わる基盤として、2014年頃からIDC社が提唱・予見した考え方です。この第3のプラットフォームの考え方はIDC社だけが提唱・予見していた訳ではありません。同じ時期にガートナー社も、今後のテクノロジー・プラットフォームの基盤となるNexus of Forces(力の結節)を提唱し、同じくIBM社もSMACという表現でキーとなっていく技術要素を宣言していました。このように各社が同時に注目した技術要素の活用こそ、従前のIT化との違いをもたらしたことになります。
会社 概念の呼称 キーとなる技術要素
IDC社 第3のプラットフォーム
(3rd Platform)
クラウド、ビッグデータ、モビリティ、ソーシャル
ガートナー社 Nexus of Forces
(力の結節)
クラウド、モバイル、ソーシャル、インフォメーション
IBM社 SMAC ソーシャル、モバイル、アナリシス、クラウド

図表2:第3のプラットフォームと各社の同等概念

さらに、第3のプラットフォームを利用するDXは、従来のIT化との大きな違いをもう一つ産み出しています。これまでのIT化ではシステム部門が主導してきたのに対し、第3のプラットフォームを利用するDXは、現業部門が主導するようになったことです。第1のプラットフォームから第2のプラットフォームまでずっと主導してきたのがシステム部門でした。高性能と安定性が求められる基幹システムの開発・保守・運用のためにシステム部門は高度な技術スキルを磨いてきました。ところが第3のプラットフォームのクラウドを始めとする、ビッグデータ、モバイル、ソーシャルは、どれも技術知識は左程必要なくても、現業部門で導入・活用できるようになりました。また、ビッグデータのようにAIなどによるデータ分析・予測を行う技術に関しては、業務知識とデータ・コンテンツそのものの知識をもつ現業部門が本来得意な分野です。

第3のプラットフォームによる主導部門シフト

図表3:第3のプラットフォームによる主導部門シフト

このように第3のプラットフォームは、システム部門にとって苦手な、未知の技術である一方、現業部門にとって身近で分かり易い技術のため、DXでは主導部署がシステム部門から現業部門にシフトしていきます。DX推進上の課題として、DX推進体制のあり方やDX人材の育成・配置が挙げられるのも、このような主導部門のシフトがその背景にあります。これまで基幹システムを中心としたIT化はシステム部門が専権事項とし、重視してきました。基幹システム以外の部門システム、周辺システムについては、その呼び方からも分かるように、システム部門の関与は限られていました。しかしながら、DX推進を契機に、システム部門が関与する範囲や役割も再考する必要があります。
今後、製造業各社がDXを加速していくために、まず自社としてのDX定義を明確化し、定義に応じたDX推進体制を整備・強化していくことを期待します。

2021年12月

ITの可能性が満載のメルマガを、お客様への想いと共にお届けします!

Kobelco Systems Letter を購読