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2021年11月01日

DXとIT化、いずれも戦略に従う

「DXはこれまでのIT化と何が違うのか?」の問いに対し、「DXは最新のデジタル技術を駆使し、製品・サービス・ビジネスモデルを変革し競争優位を確立することを目的とするが、IT化は既存業務の効率化を目的とするものである」との説明がよくされます。しかし、IT化も単に業務の効率化だけでなく、差別化・競争優位を目指したものであり、この説明では偏りがあります。実際に卓越したIT戦略を立案・実行することで、企業の競争優位を築いた事例はたくさんあります。DXによる成果を挙げるためにも、これまでのIT化による競争優位を目指した取組みを再認識し、その教訓を活かしていくことが必要です。

IT化によって企業の競争優位性を実現しようとする取組みや方法論は、これまでいくつかありました。例えば、融合ITやBPR(Business Process Re-engineering)などが思い浮かびますが、最も有名なものはSISの取組みです。SISとはStrategic Information System(戦略的情報システム)の略称で、競合他社に打ち勝つ企業戦略を推進・実践するため、あるいは、競争優位を獲得するための手段となる情報システムを指します。当初は米国で提唱され、1990年頃には日本でも大ブームとなりました。書店にはSISのハウツー本が並び、ITベンダーのほとんどが“SIS”をキーワードにセールストークを行い、SISを冠したソリューションを打ち出していました。このように30年前に起こっていたSISブームはその狙いや話題の大きさにおいて、現在のDXブームと酷似しています。

現在のDX紹介本には、よくGAFAの例が取り上げられますが、当時のSISに関する書物には、必ずと言っていいほどアメリカン航空の旅行代理店向け座席予約システムであるセーバー(SABRE)が代表例として挙げられていました。以前は飛行機の座席予約は人手中心に行われ、空き座席の照会から予約完了まで約3時間もかかっていました。それがセーバーというIT化により、わずか数秒にまで短縮され、アメリカン航空は大きな利益を獲得し、他の航空会社はまったく追随できない競争優位を獲得しました。その後、この予約システムは他社航空会社にも提供されたのですが、アメリカン航空のフライトは“AA”で始まるため、アルファベット順の予約検索リストでも1番目に表れることで、ここでも競争優位性があったとの余談を聞いたことがあります。

同じく日本企業のSIS成功事例としてよく取り上げられたのが、物流ドライバーの情報武装による宅配ビジネス、そしてコンビニでの情報端末から得られた情報を活用した需給調整やマーチャンダイジングです。これらのケースは当時のSISの代表例として頻繁に取り上げられているだけでなく、その後進化し続け、現代でもDX銘柄にも選定されています。当時のSISは現在のDX同様、話題性は抜群で、日常のビジネスでもSISの話が飛び交っていました。しかし、残念ながらSISとして分かり易い後続の成功事例が現れず、バブル経済破綻によるIT投資抑制もあってSISという用語も使われなくなっていきました。
ITがもたらす価値の体系は、「IT価値の連続体モデル」で表現することができます。

IT価値の連続体モデル

図表1:IT価値の連続体モデル

このモデルでは、IT化によって実現する価値は、大きく基礎的価値と革新的価値に大別されます。企業のIT化は、業務効率の向上する効率性と業務精度を高める効果性からなる基礎的価値から始まり、シェア拡大そして競争優位の獲得まで進展させて行くことができます。一旦シェア拡大や競争優位までITの価値を高めていっても、やがて競合他社も同様のビジネスモデルを追随してきます。このようにビジネスモデルの差別化要素は薄れていくと、新たなステージでの効率性の価値追及に変わっていくことになります。

以上のようにDXとIT化はどちらも競争優位を狙いとする点において相違はありません。SISの成功事例を見ると、IT化による競争優位を獲得した企業は、競争優位につながるビジネス戦略とそれに整合したIT戦略をもっていました。一方、明確な戦略をもたず単にSISブームに乗っただけの大半の企業はせいぜい基礎的価値止まりで、革新的価値を獲得できていません。DXにおいても、まず行うべきは自社DX戦略の立案です。世の中の流行りや他社との横並びでなんとなくDXを進めてしまいがちです。ここ1~2年でDXに取組み始めた企業は増えつつありますが、成果を出している企業はごく一部に止まっています。企業ごとに抱えている経営課題や競合状況も異なります。IT化もDXも、まず戦略が先行しなければなりません。変化する環境に適応する戦略を策定し、その戦略を実行するために最適なIT化あるいはDXを実現していくことをお奨めします。

2021年11月

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