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2021年10月01日

製造業のデジタル化取り組み実態

デジタル化、そしてDXが日本で注目され始め、早くも10年近く経ちました。「デジタル化あるいはDXとは何なのか」、「何をすべきか」といった検討、計画段階から、そろそろ実行段階に入りつつあります。今回はデジタル化という大きな流れを一度振り返るとともに、現在の実行状況、成果を分析しつつ、今後の取り組み方を考察します。
まず、日本の製造業におけるこの10年のデジタル化の潮流を簡単に振返ってみましょう。

製造業におけるデジタル化の潮流図表1:製造業におけるデジタル化の潮流
(クリックして拡大できます) 

ドイツのインダストリー4.0に端を発した第4次産業革命に始まり、スマートファクトリー、そして最近のDXなど、国を挙げてのイニシアティブ(構想、戦略)が次々と打ち出されてきました。これらイニシアティブの呼び方や定義は多少異なるものの、一貫してデジタル化の流れを作っています。この流れの背景にあるのが、製造業における「ものからコト」「サービス化」「マスカスタム化」へのシフトです。そして、これらイニシアティブを技術的に実現可能にしたのが、モバイル、クラウド、ビッグデータ、AI、IoTなど第3のプラットフォームと呼ばれる技術の進化です。以前の汎用機やクラサバのプラットフォームと異なる技術基盤が、デジタル化を加速しています。
今ではデジタル化という言葉は頻繁に使われていますが、その狙いや対象範囲、実施レベルは様々です。そこで、デジタル化の実行状況を見る前に、デジタル化を大きく分類しておきます。

攻めと守りのデジタル化

図表2:攻めと守りのデジタル化

上図のように、デジタル化はいくつかの切り口から二分または三分されますが、ここでは大きく右側に相当するデジタル化を“攻め”、左側に相当するデジタル化を“守り”と呼ぶことにしましょう。これら2つのデジタル化において、新規サービスやビジネスモデルを創造し、競争力強化を狙う“攻め”のデジタル化をDXとする見方が一般的です。
それでは、製造業におけるデジタル化に関する最近の取り組み実態を見ていきます。
ここ1年で、デジタル化の取り組みに関するいくつかの調査結果が公表されています。これら複数の調査結果を基に、製造企業におけるデジタル化の取り組み状況をイメージにまとめると下図のようになります。

デジタル化の取組状況図表3:デジタル化の取組状況(複数調査結果をもとにイメージ化)
(クリックして拡大できます) 

まず、既にデジタル化に着手済みの企業は約3割です。予定も含めると7割位になりますが、長年デジタル化が推進されてきたことを考えると少なく感じます。続いて、デジタル化の実施レベルを見ると、8割近くが単純自動化で、例えばRPAを活用した自動化やツールを使った既存業務の効率化の取り組みです。つまり、製造企業のデジタル化の取り組みは、大半が“守り”のデジタル化です。では成果はどうでしょう。“守り”のデジタル化であれば比較的成果は出しやすいのではと期待しますが、そうとは言えません。調査結果では、成果がでているのは2割程度です。このように、製造業では3割程度の企業が“守り”のデジタル化を中心に実践していて、その中で成果を出している企業は限られていると言えます。

今年もDX銘柄2021※1が28社選定され、その中に製造企業も12社含まれています。DX銘柄の選定条件は、デジタル技術を前提としたビジネスモデルそのものの変革及び経営の変革に果敢にチャレンジし続けている企業であり、優れたデジタル活用の実績と、具体的な成果を出している企業となります。これらの企業は、正に”攻め”のデジタル化に取り組み、成果が出ている企業に相当します。今年DX銘柄に応募した企業は464社で、上場企業3786社あるなかで1割強です。こう見ると、“攻め”のデジタル化に取り組む企業、更に成果を出している企業となるとかなり限られています。

これらの調査結果から、いくつかの仮説が考えられます。まず、デジタル化に取り組む製造企業にとっての優先課題は効率化・生産性向上であり、“守り”のデジタル化に重きをおいているという仮説です。デジタル化に関係なく製造業の課題として必ず登場するのは、業務効率化、生産性向上、そして現場の見える化等です。デジタル化の流れの中でも、これらの課題の優先度は変わらないと見ることができます。もう一つの仮説は、“攻め”のデジタル化に取り組みたいが、その前にまず“守り”のデジタル化で既存業務を整備し、攻めに転じる余力を創出する必要があるという仮説です。確かに“攻め”のデジタル化は革新度が高く、そのための準備や整備すべきことも沢山あります。また、革新的な新製品や新規事業と同様に、“攻め”のデジタル化はハイリスク・ハイリターンとなるため、“攻め”のデジタル化に取り組む余裕のある企業は少ないとの仮説もあり得ます。これらの仮説については、今後の調査等を見ながら検証していきたいと思います。また、製造各社は、今後自社が取り組むべき“攻め”と“守り”のデジタル化策をうまく組み合わせ、得られる成果を最大化するデジタル化策のポートフォリオを組むことが得策と考えます。

※1:経済産業省 「DX銘柄2021」「DX注目企業2021」を選定しました!
https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210607003/20210607003.html

2021年10月

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