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2020年07月01日

一気に進んだ在宅勤務、その実態は

国によるコロナ禍対策の一環として、各社は社員に対し在宅勤務を指示、あるいは推奨してきました。これまで在宅勤務制度がなかった企業さえ、できる、できないを検討する間もなく、強行突破的に在宅勤務に入っていきました。今回は一気に進められた在宅勤務をテーマに、その実態と功罪を考察してみます。

まず、在宅勤務という呼び方以外に、テレワークやリモートワークという言葉もよく使われています。現在はこれら用語に厳密な定義や使い分けはなく、ほぼ同義で使われています。敢えて言えば、リモートワークは、仕事する場所としてサテライトオフィス、自宅、そしてカフェなどの社外で仕事することを指します。一方、テレワークは、仕事のやり方として、ICTを使って時間や場所を有効に活用する柔軟な働き方を指します。リモートワークやテレワークを包含する呼び方として、モバイルワークという言葉が以前からあったのですが、今回のコロナ禍では“Stay Home”が強く求められたため、在宅勤務という言い方が最も相応しいと考えられます。

在宅勤務とリモートワーク、テレワークの関係

図1:在宅勤務とリモートワーク、テレワークの関係

では、在宅勤務は実際どの程度実施されたのでしょう。いくつか在宅勤務の調査報告を見てみると、全国平均比率は3月の10%から4月は20%台に増えていき、5-6月には30%を大きく超えたようです。当然、地域や業界によって在宅勤務比率に差があります。例えば小売業や運輸業では10-20%と低く、情報通信業は50%を超えています。製造業の在宅勤務比率は、ほぼ業界平均の30%程度でしたが、製造業の中でも職種により在宅勤務比率は大きく異なります。

製造業の職種ごとの在宅勤務比率

図2:製造業の職種ごとの在宅勤務比率
ソース:パーソル総合研究所の調査結果における比率データから編集加工

製造業の職種ごとの在宅勤務比率は、丁度スマイルカーブのようにバリューチェーンの真ん中にある製造が低く、両端の比率が高くなっています。ものや設備を扱う製造や物流の現場は在宅勤務の実施が難しいため、ソーシャルディスタンスやタッチレスといった安全対策を講じることになります。また、会社が推奨・命令する在宅勤務比率に比べ、実施率がどの職種も低くなっていることが目につきます。例えば、押印や紙の書類を要する業務が一因のようですが、これらの在宅勤務の阻害要因や対策については次回考察したいと思います。

さて、多くの企業が否応なく突入した在宅勤務も約3-4か月経ちましたが、皆さんの感想はいかがでしょう。多くの人が初めての在宅勤務にとまどったものの、段々と慣れるにつれて「これでも仕事ができる」との感触を得たようです。なによりも日々の通勤から解放され、かなりの時間と体力がセーブできるのは大きなメリットです。在宅勤務をうまく利用すればプライベートに割く時間を増やせ、単身赴任や出張も減らせそうです。このように在宅勤務が当たり前になったことで、何年か先には実現したいと思っていたワークライフバランス向上が、一気に加速すると期待できます。

一方、実際に経験することで、在宅勤務による業務の限界も見えてきました。目的が明確で、決められた手順で進めていく定型的な会議はWEB会議で十分です。しかし、大人数での会議、喧々諤々の会議、色々な資料を臨機応変に駆使していく会議、ホワイトボードに絵を書きながら、誰かの一言がヒントになるようなワイガヤ会議は在宅でのWEB会議には向いていません。オフィスで交わすちょっとした会話も重要なコミュニケーションですが、在宅勤務では難しいことが分かりました。また、この3-4か月で行った在宅勤務での会談・会議の相手は、ほとんどが顔見知りの人で、その人の話し方の癖、思考パターンもよくわかっていました。しかし在宅勤務が本格化すると、全く面識のない人とのWEB会議も行うことになります。例えば営業が新規開拓先に提案を行う場合、相槌や映像の情報だけでは、その人の反応や関心を読み取ることは難しいでしょう。

上記のようにコミュニケーションにおける限界以外にも、在宅勤務はいくつかの懸念や課題があります。まず、在宅勤務は「結構疲れる」、「ストレスが溜まる」と感じる人が多いです。ある大手メーカーの報告では、孤独感と精神的ストレスが高まり、メンタルヘルスを崩す社員が以前より5%増えたとのことです。社員の育成や新入社員教育でも課題があります。若手社員は先輩の仕事ぶりを見て仕事を覚えていくものですが、在宅勤務ではそれが出来ません。新入社員がいきなり在宅勤務では仕事の仕方を覚えられません。また、家の中では、一緒に過ごす家族から閉ざされた在宅勤務スペースの確保も現実的な課題です。

今後の在宅勤務のあり方については、大きく3つのシナリオが想定されます。
一つ目は、在宅勤務を最大活用し、オフィスは縮小や地方移転するシナリオです。在宅勤務を本格的に進めるには、残業管理、勤労管理の見直しだけでなく、職務内容を細かく規定して人事評価を行うジョブ型への移行も必要です。二つ目は、在宅勤務継続に慎重で、オフィスワークに戻すシナリオです。この場合、当面のWithコロナ環境では安全対策として座席の間隔を開けるためオフィスの拡張が必要となります。

そして、三つ目のシナリオが、オフィスワークと在宅勤務を職種や本人希望に合わせて採択するベストミックスです。このシナリオは一見よさそうですが、在宅勤務のための人事制度等とオフィス環境の両方を不公平にならないように整備していくことが求められます。急速な展開が余儀なく開始された黒船来航後の明治維新のように、コロナ禍を契機に日本企業の課題である働き方を一気に改革していきたいものです。

2020年7月

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