社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2022年05月01日

サッカー、イタリア代表敗退からの教訓
~思考の硬直化と企業の社会的価値~

キャンプ

今年11月に開幕するサッカーW杯、カタール大会の組み合わせ抽選会が先日行われ、7大会連続出場を決めた日本はドイツ、スペインと同じE組に入りました。過去に優勝経験のある2チームと同組になるのは初めてのことです。決勝トーナメント進出が非常に難しい「死の組」となりましたが、バスケットボールなどと違い、サッカーのような得点が入りにくいスポーツは番狂わせが起こりやすいのも事実です。世界を驚かせるような日本の活躍を期待したいところです。

番狂わせといえば、イタリア代表の欧州予選敗退はまさに世界に衝撃を与えました。これまでW杯で4回の優勝経験がある世界屈指の強豪国。前回のロシア大会予選で60年ぶりにW杯出場を逃し「イタリアサッカー界最大の悪夢」とまで言われた悲劇が繰り返されたのです。思いもよらない2大会連続の予選敗退に国内では当然ながら批判と罵倒の嵐が巻き起こっています。
イタリア代表、通称「アズーリ(チームカラーの“青”の意)」は伝統的に「カテナチオ(“かんぬき”の意)」と呼ばれる鉄壁の守備が持ち味で、DFやGKに多くの優秀な選手を輩出してきました。しかし、この守備的な戦術は何十年前からほとんど変わらず、他の強豪国と比べて、今の時代の新しいサッカーへの対応ができなかったのでは、と言われています。
日露戦争で勝利を収めた日本海軍が、第二次世界大戦でも同じ戦術を用いて敗北を喫してしまったのとよく似ています。

これは、ビジネスの世界も同じです。お客様や市場は常に変化しており、今日通用したことが明日には通用しなくなります。
それでも過去の成功体験で得た便益が大きければ大きいほど、そしてその恩恵に預かる期間が長ければ長いほど、今のやり方が組織にとって最善であり正しいと思い込んでしまい、「こうであらねばならない」といった組織の思考の硬直化を招いてしまいます。
特に今の時代はとてつもないスピードで変化しているため、過去からの成功体験による現状満足が変化への適応の阻害要因とならないよう、外部との接触を増やし、外部環境の変化と自社の乖離を絶えず意識する必要があります。たとえ好調な業績であったとしても、経営陣は従業員に対して「全てうまくいっている」といったメッセージばかり発信せず、自社の弱点や将来の課題など危機意識を醸成するような情報も発信することが重要になります。そうすることで、思考の硬直化を回避し、時代の変化に適応できる企業になれるのではないかと考えます。

さて、イタリア代表の敗退には様々な要因がある中で、他の欧州のサッカー強国に比べて自国の選手の発掘や育成などの環境整備の遅れが指摘されています。
特に代表選手の育成に重要な国内リーグであるセリエAでは、2006年にカルチョ・スキャンダルが発覚し観客数の低下を招きました。加えて、イタリアのスタジアムは古いうえに、自前のスタジアムでないため興行による儲けは少なく、クラブ経営は楽ではありません。
「クラブチームにとって、代表チームはただの邪魔ものでしかないのだろう」とはイタリアサッカー連盟のグラヴィナ会長の言葉。長期的なビジョンに立った投資で自国の選手を育成するよりも、観客数を増やすために目先の勝利にこだわって外国からの戦力補強を優先した結果、代表チームの弱体化にも繋がったと言われています。

ご存じのように企業は、お客様や従業員そして株主にとっての価値を追求するだけでなく、社会にとっての価値も創出しなければなりません。自社の目先の利益だけに目を奪われてしまうと、結果的にステークホルダーからの信頼を失い長期的な発展や成長を阻害してしまいます。
SDGsやESGなど社会課題と企業の関係性が国際的に変化している今、企業活動そのものを社会的事業として捉え、事業の成長と社会課題の解決を両立させていくことが求められています。日本では、もともと「三方良し」など企業が常に社会的な存在であることを重視してきました。一方で、税金を支払うことで十分企業としての存在価値があり、社会的責任を果たしていると考えてしまう企業も少なくありません。
イタリアのサッカー界同様、日本企業も従来からの日本的経営の延長線上で社会課題の解決を考えるのではなく、今一度、事業の在り方を抜本的に見直す必要があるのかもしれません。まずは社内と社外、長期と短期、財務指標と非財務指標など様々な指標をバランスよく管理し、短期的な自社の利益を追求することによる歪みを防止するとともに、時代の変化に合わせた自社の社会的価値を問い続けることが大切だと思います。

私自身、「従来のやり方や考え方にとらわれることなく…」なんてハッパをかけながら、いざとなると「それはまだ、時期尚早じゃないかな」などと手の平を返すような発言だけはしないように、あらためてイタリア代表の教訓を肝に銘じたいと思っています。

2022年5月

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