社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2021年11月01日

白鵬引退に思う大相撲と外国出身力士
~日本特有の文化と相互理解~

秋の森

大相撲の第69代横綱・白鵬(36)が現役引退しました。幕内優勝回数45回。通算1187勝、横綱在位84場所、横綱通算899勝、全勝優勝16回などなど、数多くの最多記録を作った史上最強の横綱だったことは間違いありません。
一方で取り直しになった際に「子どもが見ても分かる相撲」と審判部を批判したり、優勝インタビューでは観客との万歳三唱や三本締めを行ったりと、数々の問題行動で日本相撲協会(以下協会)から厳重注意やけん責処分を受けてきました。

「大相撲はわが国の国技であり、神事である」と言われ、協会自身も同様の主張をしています。「神事」とは、神に関するまつりごと、儀式。神前での祈りや神に伺いを立てること、勝負を神に奉納することによって神事と成ります。だからこそ、四股を踏むなど力士の所作にはそれぞれ意味があります。力士の所作から外れた万歳三唱や三本締めなどの行動は言語道断、神事として本来許される行動ではありません。
しかし見方を変えると、協会は公益法人ですが、本場所・巡業の興行によって利益を得ており、プロスポーツとしての要素が強いのも事実です。大相撲中継の実況など取材歴30年以上の元NHKアナウンサー・刈谷富士雄氏は「大相撲はスポーツの要素を持った伝統文化であるが、白鵬はその逆、伝統文化の要素を持ったプロスポーツというとらえ方をしてしまったように感じた」と言います。「万歳三唱や三本締めもプロスポーツのチャンピオンのファンサービスだったと考えれば理解できる」と言うのです。

日本に在住する外国人の多くは日本に好意的ですが、日本の慣習や伝統文化を理解できない場合も少なからずあります。例えば、高度経済成長を支えてきた雇用慣行は日本独自の文化であり、日本企業に勤める外国人にとって不満をおぼえることも多いようです。
彼らが感じている不満の上位は、「昇進・昇格が遅い」「給料が上がらない」だそうです。諸外国の雇用システムはジョブ型雇用が大半であり、仕事の能力が向上したり、職責が変わったりすると、すぐに処遇に反映される雇用契約です。そういう彼らの労働慣習をベースに考えると当然の不満と言えるでしょう。

一方、日本の雇用システムは、いわゆるメンバーシップ型雇用がベースとなり、新卒一括採用からの終身雇用、年功序列による遅い昇進、企業内組合が、それ支える柱となっています。
ご存じのようにジョブ型雇用では、「仕事」を基準にして「人」と「処遇」を均衡させ、メンバーシップ型雇用は「人」を基準に「仕事」と「処遇」を均衡させます。日本企業では重大な過失もなく勤務していれば、事業撤退などによって特定の仕事が不要になっても担当社員を即解雇することなく、別の仕事で活躍してもらおうと苦心します。「従業員は取り換え可能な部品ではない!」といった日本的経営を表現するような言葉も、ジョブホッピングを目指す外国人の価値観に合致しているとは必ずしも言えません。

1968年に米国出身の高見山が初の幕内力士となるなど、協会は以前から多くの海外の人材を迎え入れてきました。第64代の曙が初の外国人横綱となった以降、武蔵丸、朝青龍、白鵬、日馬富士、鶴竜と続き、日本生まれの稀勢の里をはさんで、照ノ富士が再び外国出身と、モンゴル勢を中心にプロスポーツ選手としては圧倒的な強さを誇っています。
しかしながら、朝青龍は暴行問題の責任を取る形で現役引退し、モンゴルへ帰国して実業家に。日馬富士は帰化申請中でしたが、引退時までに日本国籍を取得できずにやはり協会を去りました。また曙は引退後、曙親方として東関部屋で後輩の指導をしていましたが、協会の体制や運営に疑問を抱き退職届を出して協会と決別し、格闘家に転身しました。
横綱まで上り詰めた者たちも、親方として協会に残るには日本国籍が必要とされ、指導者としてその経験や技術を後輩に伝える立場には、なかなか成れていません。差別ではないかという批判もありますが、国籍だけの問題ではなく、根底には力士、協会、相撲部屋、それぞれの関係性や役割、位置づけの曖昧さがあるように思えます。また、本場所に関しても伝統文化としての神事なのかプロスポーツの興行なのか、横綱とチャンピオンはどう違うのか、横綱の品格とは何かなど大相撲の持つ多くの曖昧さが、様々な誤解や行き違いを生み出しているように思えてなりません。

少子高齢化が進む日本では、労働力の外国人依存が高まっており、近年は新卒採用でも外国人留学生が一定の割合を占めるようになっています。また、外国人留学生は日本人と比べて独立志向が強く、メンバーシップ型雇用には不向きな部分もあると思います。
それでも、国籍や年齢、性別を問わず優秀な人材を獲得し、様々なバックグラウンドの社員の働き方に柔軟に対応することは、企業の成長の必須条件になってきています。今後、ジョブ型雇用を取り入れ、メンバーシップ型雇用とハイブリッドな人事制度を模索する日本企業も増えてくるでしょう。
企業側は、外国人が自社でどのような雇用契約のもと、どのようにキャリアを歩んでいけるのかを入社前に丁寧に説明することで、外国人から見た曖昧さを極力排除する必要があります。それとともに日本企業の伝統や文化への共感は、仕事をする上で最低限必要であることを、外国人にも十分理解してもらわなければなりません。
違いを強調しても何も生まれません。お互いの違いを理解し類似性、共通性を見つけて共に成長することが何よりも大切なことです。

2021年11月

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