社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2021年12月01日

箱根駅伝にみる適材適所の人材配置
~能力評価と育成計画~

パズルピース

来年1月の2、3日に開催される第98回箱根駅伝の予選会が10月に行われ、上位10校が出場権を獲得。シード10校と合わせた20校が新春の箱根路に臨みます。我が母校・中央大学も予選会を2位で突破し、史上最多95回目の出場を決めました。優勝回数14回は最多記録ですが、近年は予選会からの出場が続いています。それでも11月に行われた全日本大学駅伝に9年ぶりに出場すると8位入賞、来年のシード権を確保しました。箱根では10位以内のシード権を獲得して、名門復活の足掛かりとしてほしいものです。

箱根駅伝が他の駅伝レースと最も異なる点は、言うまでもなく途中に“山”があることです。これまで箱根駅伝では数々のスター選手が生まれましたが、大きく取り上げられたのは「山の神」と名付けられた5区の山上りを走る3人の選手でした。初代が順大・今井正人選手(2005~07年)、2代目が東洋大・柏原竜二選手(09~12年)、3代目が青学大・神野大地選手(15、16年)で、いずれも驚異的なスピードで前を行く選手を抜き去り、チームの往路優勝、そして総合優勝に大きく貢献しました。
5区の山上りは約16キロの間に標高差840メートルを駆け上がるため、この区間が勝負に大きく影響します。平地であれば、区間上位と下位でどんなに開いてもその差は5分以内ですが、5区であれば5分以上、時には10分以上遅れる選手が出ることもあります。
箱根駅伝を長年にわたって取材してきたスポーツ紙記者によると「各大学ともある程度、“山向き”の選手を意識してスカウトします。平地のスピードは他の選手に劣っていても、足首が柔軟でスムーズな体重移動ができる選手は山上り向きで、その潜在能力を発揮できる可能性があるから」とのこと。しかし、実際には走ってみないと分からない部分も多いため、入学後の夏合宿のトライアルで適性や能力を見極め、スペシャリストとして育成していくようです。

ただ、そんな山上りのスペシャリストを含め、どんなに優秀な選手がそろっていても4年経てば、すべての選手が入れ替わります。本戦出場を続け、優勝争いに加わるには、潜在能力のある高校生を発掘し、その力を伸ばすことも重要ですが、その年のメンバーが持つ能力や特性、性格などを踏まえて、選手の能力を最大限に生かす「適材適所」の区間配置が大切な要素になります。せっかく優秀な選手を確保できても、配置を間違えれば、本人の能力や経験を最大限発揮させることはできません。

ビジネスにおいても同様です。職種や役職、または部門によって求められる能力は異なり、それに応じた人材を適材適所に配置することが重要になります。例えば、論理的であり好奇心や探求心の強い優秀なエンジニアが、異動や昇格によって、コミュニケーション能力や対外調整能力が求められるライン管理職になった途端、ストレスやプレッシャーを感じ、心身の不調を訴えるといったケースを何度か目にしています。
また新卒採用においても、面接等で正しく適性や能力を見極めることは不可能に近く、実際に仕事にアサインしてみないとわかりません。
そこで山上りのトライアル同様に、入社後、早い段階で複数業務を体験させるジョブローテーションを実施し、社員の適性を見極めるという方法は、企業と社員の両方にとって有効なアプローチだと思います。なぜなら、企業だけでなく本人にとっても複数の業務経験を通して、自分の強みや弱みを知り、自分の適性を自己認識することができるとともに、部門を超えた人脈づくりができるという副次効果も期待できるからです。

さて、山上りの5区が特殊であり重要であるということは前述の通りですが、早稲田大学で瀬古利彦選手を育てた中村清氏は「オリンピックを目指すようなランナーには山上りをさせない」と断言していました。5区のようなコースは世界的に見ても他にはなく、世界を目指す選手にとって、世界より劣っているスピードを強化することと、山を淡々と上れる力を身に付けさせることは全く異なるという考えです。実際にマラソン東京五輪代表の大迫傑選手は、早大時代も絶対的なエースでしたが、5区は一度も走りませんでした。

労働人口の減少に加え、仕事に対する価値観の多様化により転職者が増加する中、企業が人材を確保し、限られた人材の能力を最大限引き出すためには、強みを生かすことで弱みを最小化する適材適所の人材配置が求められています。 一方で適材適所は、その業務や役割を一番上手くこなす人をアサインすることが基本になるため、社員にとっては新たな学びを得る機会や大きく成長する可能性を奪ってしまう恐れがあります。人事異動や配属の際には、その人が現在保有している能力や適性を活かす短期的な貢献の視点だけでなく、社員の満足度向上や将来のキャリア形成につながる成長機会の提供など長期的な視点を加味した配置を行うことが大切です。

そのための施策として、上司が社員の適性や能力を見極める力を身に付けるためのライン管理職向け教育の充実、社員が持っているスキルや資質、適性など業務遂行能力を客観的に評価できるシステムの導入、社員の希望を踏まえたキャリアパスの策定と育成ローテーションを推進する仕組みの構築などが必要だと思います。
そして何よりも重要なのは、上記のような人事施策の企画や推進の要となる人事部門の強化だと考えています。

2021年12月

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