社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2022年01月01日

冬季五輪で問われる「美しさ」
~デザイン思考とアート思考~

富士山

皆様、あけましておめでとうございます。
初夢に見ると縁起が良いものを表す言葉に「一富士、二鷹、三茄子(いちふじ、にたか、さんなすび)」がありますが、今年の初夢は皆様いかがだったでしょうか。私は残念ながら初夢で富士山を見たことはありませんが、出張の際に新幹線の中から見える富士山は本当に美しいと思います。その美しさと雄大さに惚れ惚れとしてしまい、何かをしていてもいつも思わず手を止めて見入ってしまいます。

今年は2月に北京(中国)で冬季五輪が開催されます。オミクロン株の拡大や政治的な「外交ボイコット」など、直前まで大きな問題を抱えていますが、選手にとっては4年に一度の晴れ舞台。これまでの厳しい練習で培ってきた実力を十分に発揮してほしいものです。
個人的な印象かもしれませんが、夏季と比べて冬季五輪には、技の出来栄えに対して審査員が得点を付ける「採点競技」が多いような気がします。もちろん、夏季でも従来からの体操競技などに加えて新競技のスケートボードやサーフィンなど採点競技はあります。ただ、冬季は採点競技の代表格ともいえるフィギュアスケートが花形競技であるために、その印象が強いのかもしれません。
実はオリンピックには1912年から48年までの7大会で「芸術(アート)」という競技があったのをご存知でしょうか?建築、彫刻、絵画、音楽、文学の5部門で、各国の作品が開催地に集められ、採点によってスポーツ競技と同様にメダルが授与されていました。やがて、「採点の基準が曖昧」などの理由で除外となりました。

昨今、「デザイン思考」「アート思考」といった考えがビジネスの世界で脚光を浴びています。VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)と言われる正解の見えない時代においては、従来の論理的思考のアプローチでは合理的な解が見つからず、経営における意思決定の膠着をもたらす危険性があると言われています。そこで、日々の生活や体験の中から感じる好感や違和感といった直感をベースに、創造的な行為を行うデザイナーやアーティストの思考法を経営にも取り入れようという動きです。
一般的には、デザイナーは他者に役立つことを目指し、問題の発見と解決を志向すると言われ、そのため「デザイン思考」は顧客の課題解決に向いているとされています。これに対し、アーティストは基本的に自分の思いを大事にすることで、既存の価値観や常識を疑い、可能性を最大限広げていくため、「アート思考」は革新的なものを生み出すイノベーションが得意とされています。

当社においても意思決定の際には、まだまだ論理的であることが直感的であることよりも高く評価される傾向があります。しかしながら、今、当社に求められるものは、目の前のお客様の潜在的な課題解決であり、加えて新たな市場への問題提起だと思っています。そのためには従来の論理的思考だけでなく、「デザイン思考」や「アート思考」が必要ではないかと考えています。すでに米国IBMはデザイン事務所を積極的に買収し、千人以上ものデザイナーを雇い入れることで、組織文化の変革を促そうとしており、当社でも同様の取り組みを検討する必要があるかもしれません。

さて、五輪の採点競技では採点の評価基準がしばしば議論の的になります。フィギュアスケートは昔、技術点と芸術点によって評価されていましたが、客観性に欠けるということで技術点と演技構成点に変更、基準を細かく明確にしてきました。しかし、客観性を確保しようとすればするほど「芸術性」すなわち「美しさ」という、見ている者の心に訴えるような要素は失われてきます。
選手は美しく見せるために衣装の色や材質、装飾にこだわり、演技で使用する音楽にもこだわります。そして、それが芸術的で美しいかどうかは、見ている人間の感性に左右されてしまいます。それでも羽生結弦選手は五輪連覇後の会見で「芸術とは正しい技術、徹底された基礎によって裏付けられた表現力」と話しました。まさにその通りだと思います。

今年、当社は先進技術の習得や様々なプロジェクト実績を通して得た知見など、客観性を持った付加価値を高めていくとともに、「この会社は何のために存在し、社会やお客様そして社員のために何をするべきなのか」といった企業としての理念や目的、価値観など「芸術」の部分にも、今一度フォーカスしたいと思っています。
そうすることは、社員一人ひとりが持つプロとしての美学や志を尊重し、創造的な企業風土を育むことにつながります。それによって、革新的なサービスを生み出すことができれば、社会やお客様に向けて新たな貢献ができるのではないかと考えています。

オリンピックには「より速く、より高く、より強く」というモットーがあります。競技として「芸術性」を重視する採点種目が増えてきたことで、これに「より美しく」を加えるべきなのかもしれません。それは企業経営においても同じではないでしょうか。
将棋の羽生善治九段は、「美しい手を指す、美しさを目指すことが結果的に正しい手を指すことにつながる」と述べています。また、「最も美しい森林は、また最も収穫多き森林」という言葉もあります。
富士山のように「美しい」と感じるものは、人の心に強烈な印象を残します。当社も「美しい」企業として、皆様に選ばれる企業になりたいと心から願い、社員一同、精一杯努力していく所存でございます。本年も何卒よろしくお願い申し上げます。

2022年1月

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