社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2022年02月01日

プロ野球の育成選手制度を考える①
~インターンシップ制度と人材の裾野~

春の花

2月1日、プロ野球12球団が一斉にキャンプインしました。この日はプロ野球選手にとってのお正月、新たなスタートです。実績十分のベテランから初々しいルーキーまで、まずは横一線。開幕1軍入りをかけて、そしてスタメンの座や先発ローテーション入りをかけて激しい争いが繰り広げられます。
その中には同じユニホームを着ていても、3ケタの背番号を背負い、現状のままでは1軍の公式戦に出場できない選手たちがいます。若手選手の発掘と育成を目的として2005年に導入された育成選手です。現在、1球団が支配下登録できるのは最大70人までと決められており、それとは別枠で通常のドラフト会議後に行われる2次ドラフト(育成ドラフト)を経て、プロ野球の世界に飛び込みます。

そもそも育成ドラフトの背景には、有望選手の囲い込みを防止するという側面がありました。支配下登録枠が60人だった当時、西武・伊東勤選手や中日・大豊泰昭選手などが、練習生制度(公式戦の出場はできないが、ユニホームを着てチームの練習に参加可能)を利用して意中の球団に入団しました。練習生として登録することで他球団のスカウトは接触できず、ドラフト会議でも道義的に指名を見送ったため、結果的に60人枠以外での選手の‘囲い込み’になっていると問題に。そのため、この制度を廃止し支配下登録枠を70人まで拡大しました。それでも資金力のある球団はそれ以上の選手の獲得を希望し、育成ドラフトという制度を作って、ルール上問題のない‘囲い込み’ができるようになりました。

できることなら有望な人材を自社で囲い込みたいと願うことは、どの業界においても同じではないかと思います。我々IT業界においても、さまざまなデジタル技術が実用化されていく一方で、「ITエンジニアの不足」が問題視されています。デジタルトランスフォーメーションが求められている今、IT業界のみならず一般企業もITエンジニアを必要としており、いずれの企業もその発掘と採用に知恵を絞っています。
ご存じのように、海外では採用活動の一環としてインターンシップを実施し、参加した学生の中から本採用するという企業が多くあります。

例えば米国の学生の場合、大学の夏休みである6月から9月まで約3カ月間を使って、実務経験を積むべく、インターンの仕事探しをします。多くの企業が大学へ募集をかけ、優れた者は、卒業後に本採用することが多く、人材の囲い込みにもなっています。
日本でも多くの企業がインターンシップを行っていますが、コロナ禍でオンライン化が進み、期間も年々短くなっています。また文科省はじめとする行政機関は、インターンシップは「企業などの場における学生に対する教育活動」であり、人材確保にとらわれない取り組みが必要だと主張しています。そして企業が得た学生の情報は、採用選考には使えないとの考え方を示しています。そのため学生側からすると採用選考とは別のものとして考え、単に会社や仕事を知る機会として捉えています。企業側もまた短期間での実施を希望するようになり、結果的に学生は腰を据えて仕事を経験できず、企業側も表面的な評価しかできず、とても自社の採用にまでつなげることはできないのが現状です。

このような状態では日本企業の競争力強化につながらないと思います。コロナ禍で社会との接点が激減している今だからこそ、なるべく長い期間、そしてなるべく早い段階(高校や大学低学年)から、必要であれば給与を支払うことも厭わず、インターンの学生を受け入れる仕組みを企業と教育行政が相互理解を深め、一緒になって機会を増やしていくことが大切なのではないでしょうか。
そして企業は、専門的な技能教育を実施するとともに、メンタリングやキャリアカウンセリングなど社会と繋がる職業教育の支援を提供するべきだと思います。そうすることで、学生自身が「働くとはどういうことで、自分はなぜ働くのか」といった具体的なイメージを持ち、自分らしいキャリア像を描くことができるのではないかと考えます。
そんな取り組みが広く浸透すれば、学生にとって貴重な成長の場を数多く提供でき、一企業の囲い込みを越えて、日本企業全体の未来にとっても大切な人材投資になる筈です。

育成ドラフトには、野球人口の減少に歯止めをかけ、野球人口の裾野を広げるために作られた制度という別の一面があります。
背景には‘ノンプロ’と呼ばれ、企業のブランディングや広告塔の役割を担ってきた社会人野球において、1990年代からの長引く不況などで企業が次々と野球部を廃止したことがあります。それによって、高校、大学を卒業後も野球を続けたい選手たちの受け入れ先が減少。野球を続ける環境が減れば、結果的に野球をやる子供たちの減少にもつながるため、プロ野球界がある程度の実力のある選手の受け入れ先を作ったのです。
競技人口における裾野の広さは、競技の国際競争力にもつながります。近年、スイミングスクールやサッカースクールに通う子供たちが増えたことは、その後の水泳やサッカーの日本代表強化に結び付いているように感じます。

我々IT業界においても、日本の国際競争力を向上させるためには、ITエンジニアの裾野を広げることを目指して、エントリーレベルからの道筋を作り、段階的に育て就労にまでつなげることが大切です。教育行政と企業が協力し学生が即戦力を身につけて卒業できるよう、インターンシップを積極的に活用すべき時代が来ているように思えてなりません。

次回は、育成選手出身で成功した選手を取り上げ、その秘訣を探ってみたいと思います。

2022年2月

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