社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2022年03月01日

プロ野球の育成選手制度を考える②
~強みを伸ばすための「場」~

ひな人形

日本のプロ野球界では2005年から育成選手制度が設けられ、主に将来性を見込んで若い選手を獲得するようになりました。現在、通常のドラフト会議の後に育成ドラフトを行い、球団によっては10人もの選手を指名します。最低年俸は240万円。それでも指名された選手は、将来のエースや4番打者を夢見て、まずは支配下登録を目指します。
特に福岡ソフトバンクホークスには育成選手で入団し、チームの主力選手として大活躍している選手が多いことは有名です。“お化けフォーク”を武器にエースに君臨する千賀滉大投手、“甲斐キャノン”と呼ばれる球界No1強肩捕手・甲斐拓也捕手、13試合連続盗塁の世界記録を樹立した日本一のスピードスター・周東佑京内野手も育成入団でした。育成選手制度がなければ、彼らはプロ野球選手になることさえなく、才能を発揮できないまま埋もれていったかもしれません。

彼らに共通するのは入団時、総合的な野球選手としてのレベルはドラフト指名選手に及ばなくても、甲斐の肩、周東の足のように「これだけは他人に負けない」という強力な武器を持っていたことです。
彼らは持てる才能を最大限に発揮し、自らの強みを磨き、それを活かす術を身につけて主力に上り詰めました。当然、弱点の克服も必要ですが、それはマイナスの部分をゼロにするだけです。何かひとつでも光るものがあれば、その長所を伸ばすことによって存在価値を高めていったのです。

「弱点を克服すること」よりも「強みを伸ばすこと」に注力した方が成果につながると言われる一方で、実践するのはなかなか難しいのではないでしょうか。
その一因として、みんな同じことができるようにすることを目標とする日本の教育スタイルがあるのではないかと言われています。この教育スタイルの課題は学校だけでなく企業でも同じです。製造業を中心に一定の品質で大量生産を行う工業化社会においては、均質な人材が必要であり、それが日本の国際競争力を生み出してきたことは間違いありません。
しかしながら、近年の急激なテクノロジーの進化に伴い、あらかじめ決まったことを行う定型業務は、正確でコストが安く生産性の高いロボットにとって代わられるでしょう。それだけでなく、これまで人間が行ってきた仕事の多くは、AIが代替していくことも避けられないと思います。

AIをはじめとするデジタル技術の普及を担うITエンジニアの世界でも、かつてはオールラウンドな能力や知識を持ち、お客様のシステム全般にわたって支援できる人材が重宝されてきました。ところが、近年テクノロジーの多様化、高度化が進むにつれて、ITエンジニアにも今まで以上に高い専門性が要求されるようになりました。専門分野を深く探求しているエンジニアの存在価値がクローズアップされ、彼らの活躍の場が増えています。当社においても実際にそうした人材が求められるようになってきています。
ただ、いかに高い専門性を持っていたとしても、その専門性を使って成果を出さなければ宝の持ち腐れになってしまいます。そのためには、専門性を活かして成果に結びつける術を学ぶ環境が必要になります。

昨年の育成ドラフトでは、中日を除く11球団が計51人を指名しました。中でもソフトバンクが14人、巨人が10人を指名。これでソフトバンクは38人、巨人は最多41人の育成選手が所属することになりました。
いくら支度金や年俸は低くても、選手が生活する寮や食事、練習場の整備費用、キャンプや遠征の際の移動費もかかります。彼らを教えるコーチを雇う必要もあり、やはり資金力のある2球団が多くの選手を抱えています。球団経営の予算規模が限られている球団では、そのためにお金や人員をかけられないのも現実です。

一方、西武は「全選手が育成すべき選手」という方針で2011年まで育成選手を獲得していませんでした。日本ハムも同様に「選手は試合に出さなければ育たない」という方針から2018年育成ドラフトまで指名なしでした。最近でこそ独立リーグや社会人チームとの交流試合も増えてきましたが、1軍と2軍の年間総試合数では「支配下登録の70人でさえ多すぎて、試合に出せない」イコール「育てられない」という考えです。
球団によって育成制度に対する考えの違いはありますが、わずかな可能性にかけて多くの育成選手を獲得することが、選手にとっても球団にとっても正しい選択なのか、判断の難しいところです。

最近、「わが社では平均的な人よりも、何事であれ一芸に秀でた個性豊かな人を多く採用したい」という言葉をよく耳にするようになりました。しかし、そういった人材を大量に採用する前に、企業として彼らを受け入れ成長させていく「場」を用意できているのか。周囲とは違うユニークな考え方や独創的な発想を持つ人材に対して、「出る杭」を打つのではなく「出る杭」を伸ばし、成果につなげるまで育成する環境を本気で整備する覚悟はあるのか。今一度、経営者として自らに問いただしたいと思います。

2022年3月

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