社長通信 社長・瀬川文宏が気になること、考えさせられたことを綴ります。

2020年05月01日

ネガティブ・ケイパビリティ
~解決に至るまでの時間を耐える能力~

新緑

緊急事態宣言は5月6日まで効力がありますが、果たしてこれで解除されるのか、それとも延長するのか、このコラムの起草時点ではまだ発令2週間後であり全く見通せません。
5月連休のレジャーは自粛要請の真っ只中で何も出来ませんが、このままでは夏休みの計画もままなりませんね。自粛が奏功しても、そこで緩めると第2波がやって来る、といったホラーストーリーがあるので緊急事態宣言と休業要請を解除しても恐らく自粛要請は続くのだと思います。この先を見通すには、約100年前に発生したパンデミックであるスペイン風邪の統計が参考になるという記事がそこかしこに在ります。
(•感染者数 約5億人、•死亡者数 約5000万人、•致死率 約10%
参考:Wikipedia スペインかぜ)

流行が始まってから6ヶ月目に感染のピークが来て、13ヶ月目に第一波はほぼ収束し、2年後にパンデミックが完全終息しています。これでいくと新型コロナウイルスCOVID-19の場合、2019年12月にパンデミックとなる流行の兆しが始まっているため、被害のピークは5月か6月頃になるものと覚悟しておく必要がありますが、この100年での医学、科学の進歩と当時の経験則があるので、世界の総力を挙げての取組みで感染者数や収束期間は極小化できると信じたいですね。
(2020年4月20日時点 •感染者数 約240万人、•死亡者数 約16.5万人、•致死率 約7%
参考:米ジョンズ・ホプキンス大システム科学工学センター(CSSE)の集計)

さて、昨今はこの関連の話題ばかりで辟易気味だと思いますので今月は明るいテーマにしようと考えたのですが、前振りからの流れで明るくならず逆に表題のネガティブ・ケイパビリティに辿り着いてしまいました。この言葉は1817年に詩人ジョン・キーツが 不確実なものや未解決のものを受容する能力を記述した言葉らしいのですが、私はそれとは知らずAmazonのお薦めに載っていた『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』(※1)に興味を惹かれてそこで知りました。この著者によると、悩める現代人に最も必要と考えるのは「共感する」ことであり、この共感が成熟する過程で伴走し、容易に答えの出ない事態に耐えうる能力がネガティブ・ケイパビリティという事だそうです。「〈問題〉を性急に措定せず、生半可な意味づけや知識をもって未解決の問題にせっかちに帳尻を合わせず、宙ぶらりんの状態を持ちこたえる」能力という意味で、この能力の外的な発現として、他者への共感や親切心などが挙げられています。逆に言えば、親切な人というのは自分の考えを押し付けずに相手に寄り添い、共感できるという能力を潜在的にもっている人ということになります。私自身も含めてビジネスマネジメントにとっては耳の痛い話ですが、「答えの出ない事態に耐える力」というサブタイトルにも変化の激しい経営環境で舵取りをする立場としては興味が湧いてきます。問題解決のための能力、いわばポジティブ・ケイパビリティは座学でもある程度身につきますが、ネガティブ・ケイパビリティは社会におけるリーダーシップ経験を通じて身につけていくものかもしれません。

ビジネスにおいては「早急に答えを出す」ことが求められますが、不確実で先の見通せない現代社会では簡単に答えの出ない事態の方が多いのではないでしょうか。「結果を急ぐ」ことは、解決できない問題や中途半端な状態を無視することに他なりません。私自身を振り返っても毎週のように経営判断をしている訳ですが、本当にこの判断、解決策が最善なのだろうか、と検討する時間を持てているかと問えば、十分とは言えないと思います。この答えの出ない事態に耐える能力とは、自らの直観に加えて十分な時間をとって多様な立場、意見を加味し、最終的に最適な判断を下すという究極のリーダーシップ能力ではないでしょうか。

思えば日本で一番のリーダーである安倍首相は常に答えのない事態に直面し、政治判断を求められています。新型コロナ対応でも色々と言われていますが、戦後最長不倒の政権を維持し、安倍一強と言われているのは彼の有するネガティブ・ケイパビリティが人一倍優れているからかもしれません。新型コロナ経済支援で減収所帯への30万円支給を一律10万円支給に変更したのもこの能力があってこそできたのではないでしょうか。公明党だけでなく各方面の是非の意見を確認・調整したうえでの変更であったと想像します。朝令暮改とも言われていますし、施策の評価は歴史に委ねるとしても、この判断に至るまで耐える事ができるリーダーシップは凄いと思います。

これを当社の経営判断に置き換えて、社長としての自分の意見を押し付けていないか、各方面のネガティブな対案を聞く耳を持っているか、を自問してみました。経営会議や他の私が参加する会議で自由闊達な議論が出来ているか、と言えばそれは大丈夫です。逆に当社は社長の言う事を聞かない、忖度しない会社といっても良いでしょう。それは意識してそうしています。しかしながら、答えのない状況に耐え続けられるか、と問えばそれは出来ていません。ビジネスの世界ではスピードも重要ですが、拙速に陥らぬようネガティブ・チームの意見をくみ取る時間を確保する心掛けや仕組みも必要と気付いた在宅勤務の合間の読書でした。

※1:ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力 (朝日選書)帚木蓬生(著)

2020年5月

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